13

 カルアの蹴ったボールが、ポールの間を過ぎていく。7点が入って、19-15。残りは1分。キックでは覆らない差。

 宮理くうりにとって、残されたのはワンプレーだろう。相手にボールを渡すわけにはいかない。

 短いキックが蹴られた。確保したかったが、それを手にしたのは近堂だった。手につかずお手玉するが、何とか抱え込む。そこにフォワード陣が集まって、モールを組んだ。前進するためではない、時間を稼ぐためのモール。

 宮理にとって、押し返すのは目的ではない。だが、モールは動いている限り組まれ続ける。なんとか動きを止めて、ボールを外に出さねばならない。

 二回、動きが止まった瞬間。近堂からテイラーに、そしてテイラーからカルアにボールが渡った。カルアがボールを蹴る。レフェリーが時計を見た。ボールが、観客席に飛び込む。レフェリーが笛を吹きながら、手を挙げた。



県大会決勝戦 試合終了

総合先端未来創世高校19-15宮理高校



 宝田が泣いていた。

 それを金田は、じっと見ていた。

 数分前のトライは、自分でも信じられないようなものだった。おそらくここにいる多くの人々も、予想していなかっただろう。

 自分と、カルアを除いては。

 ある日の部活後。黙々とカルアはキックを繰り返していた。ポールの外をかすめていくシュートに、最初は調子が悪いのかと思った。しかしカルアは、何度も何度も、ポールの近くにボールを蹴り続けていた。

 狙っているのだ。

 それが分かったとて、目的はわからなかった。

 一週間後、カルアはやはり黙々とキックを続けていた。そしてボールが、ポールに当たるようになっていた。ポールから跳ね返ってきたボールは、インフィールドに転がった。ルール上、プレーは続く。

 狙っていたのは、これか。

 ポールに当てて跳ね返ったボールをキャッチする。そんなことは、作戦の内に含めようと誰も思わない。まず不可能だからだ。だからこそカルアも、誰にも言わずにいたのだろう。

 それを、一番大事な場面で実行した。誰かが走ると信じて。もしかしたら、自分が追いつくのだと信じて。

 これまでまったく見たことのないタイプの選手だよ。金田は思った。

 花園か。ようやく実感がわいてきた。俺たちは、優勝したんだ。

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