花を育成するだけなのにムズw

@Yoakira

「花屋(男or女/受けor攻め)にしますか? 一般人(男or女/受けor攻め)にしますか?」 『花屋(男/攻め)』を選択しました


 澄んだ鈴の音が鳴るとともに店の扉が開く。可愛らしい客人が一人、入ってきた。


「いらっしゃいませ」

「あの……お花が欲しいんです」


 花屋を一人で経営している僕、笹野鈴理はショートボブの恥ずかしそうに注文用件を伝えようとしている女性に微笑む。


「ご注文希望のお花はお決まりですか?」

「はい。私、薔薇が欲しいんです。難しい……ですか?」


 頬を少し赤らませながら、上目遣いで僕を見つめてきた。

 小動物みたいで、可愛らしい人だな。


「薔薇ですか……そうですねぇ、取り敢えず説明をしますのでこちらの椅子にお座りください」


 紅茶かコーヒーどちらにするかと聞きながら、前にあるカウンターの席に座らせる。

 紅茶を彼女の前に置くと、お礼を言いながら絵になるような滑らかな動作で紅茶を一口。


「ー…美味しい」


 一息ついたのを確認した僕は、紙とペンを用意して本題を切り出す。


「まず初めに、花の育成方法は店に来る前にネットなどでご存知だと思いますが、再確認のためにも僕からも説明させていただきます」


 もちろんです、と頷く。


「僕たち人間は誰しも『波動』をもっています。『波動』の源は『心』です」

「言霊に少し似てますよね」


 言葉に宿る力で確かに似てるが、『言い続ければ叶う』だからなぁ。


「正確には少し違いますが、そう思ってもらって構いません。花を育成するには、その『波動』が必要です。ただ、どんな『波動』でも良いというわけではなくて、育成する花の『花言葉』でなくてはなりません」


 薔薇で言えば『愛』と『美』だ。つまり、波動で薔薇を育成するということは、育成者が実際に誰かを愛くしみ、美しいと心から感じなければならないということだ。

 愛する人がいなければ、バラの育成は難しいってことなんだよな。


「僕の店では、種からお渡しする事も可能ですが、どういたしますか?」

「えっと……花からで、お願いします。私には薔薇を育てられないと思うので」


 少ししゅんとしながら、慌てて付け足す。


「あっ、でも無理に薔薇育成しなくても大丈夫ですから。私が欲しいのに他の人の人生を奪うことは……気が引けて……しまうので」


 と言いながら、また落ち込みながら俯く。


「そうですねぇ。僕も薔薇の育成自体は初めてで、今はまだ愛する人がいないので難しいですね」

「そう、ですか……」


 薔薇は難しいことではある。が。

 少し考えてから鈴理は顔を上げ微笑みながら言う。


「薔薇の色や本数によってはいけますよ」

「本当ですか?!」


 紅茶に反射して見える光。顔を上げ輝いている瞳のようだ。


「はい。おすすめは白なんですが、その前に今から話すことはお客様にとって一番重要かもしれません」

「と、いいますと?」

「僕の店では、どんな花を育成するにあたっても、お客様自身も関係するかもしれないということをご理解して頂いております。なのでー…」


 と言いかけたが、遮られる。


「大丈夫です。少なからず大変なことは理解していますので、全て任せっきりは難しいということはわかっています。私に出来ることがあれば何でもしますので、お願いします」


 頭をペコリと下げたのを見て、顔を上げさせた。


「ご理解いただけたということで、次は薔薇のおすすめの色を教えますね。色はピンクです」


 ピンクの薔薇の種が入った瓶から種を取り出し、カウンターに一粒置いた。


「え! ピンクなんて良いじゃないですかピンクがいいです」


 即決すぎて、僕は戸惑った。まだ、花言葉を言っていないけど大丈夫かな。

 僕の心配を察したのか彼女は大丈夫ですよと微笑んだ。少し、傾げたあとに頷いたから、花言葉を知っているのかどうかは曖昧な判断に終わった。

 僕は少しペンをもつ手が震えながらも、薔薇、ピンクとメモをする。


「では、本数ですが何本にしますか?」

「そうですね。何本でもいいー…かな?」


 僕は少し緊張しながら、息を呑んで、恐る恐る。


「12……12本はどうでしょう?」


 声が少し裏返りながらどんどん目に見えるほど手が震えながら12粒のピンク薔薇の種をカウンターに並べた。

 彼女は僕の緊張がつたわったのか少し不思議そうしたあと、あっと口を抑えながら少し赤くなる。

 来る前にインターネットで薔薇の色は調べなかったけど、本数の意味は調べて知ってたっぽい。


「宜しく……お願い、します」


 僕は受け止めてもらえたことが嬉しくて、嬉しくて。照れてる彼女が可愛らしくて。


「そ、そういえば自己紹介がまだでしたね。花道ことねです。あの、どうして、私なんですか?」

「ピンクの薔薇の花言葉は『感謝、上品、可愛らしさ、温かい心、恋の誓い、愛を持つ、幸福』なんです」


 僕はほのぼのとした心地で話す。浮かれているんだ。


「僕の名前は笹野鈴理です。ことねさんが店に入ってきた時、何て可愛らしい人なんだろうって思ったんです」


 そう、僕が出会ってきた中で初めてのあの感覚。胸がきゅって鷲掴みにされてるのに心臓が止まるどころか、元気すぎるぐらいだった。


「そうですね、例えるなら一目惚れ……ですかね。薔薇の色を決めるとき、紅茶を飲む仕草がとても上品で、なんていうか、そのときにはビビッとこれはピンクかなって……こんなのやっぱり理由にならないですかね?」


 ことねさんが首を横にふる。


「そんなことないです……。確かに出会ったばっかりだけど、鈴理さんが言ってることは本心なんだってわかります。だって」


 カウンターに向けて両手を広げる。


「種から芽が出て、成長してるじゃないですか! それに、なによりそう思ってもらえるのが嬉しいし、鈴理さんのこともっともっと知りたくなったんです」


 だから。僕の手を取りながらことねさんが笑う。


「一緒にピンクの薔薇が咲くように。これから宜しくね」



 ピンクの花が咲く頃には、僕は幸福を感じ、愛し合ってるんだ。そして次は……。

 ことねさんのために、真っ赤な薔薇の育成したいのが理想だったりする。



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