【先輩と、一つの未来】



「やあ」


 ……っ、先輩、どうして……!?


「どうしても何も、まだ登校日は残っていたからね。……とは言え、それも今日が最後なんだが」


 ああ、そっか……。

 そうですね……。


「それとも何かな? きみは、もうすっかり部長気分で、OGの私が来ると、嫌だったりするのかな?」


 バカ言わないでくださいよ。

 そんなわけ、ないじゃないですか。


 ここの部長は先輩です。

 私にとっての部長は、これからもずっと、先輩だけです。

 私にとっての先輩は、先輩だけです。


 ここは――私達の部室なんですから。


「そうか。なら、良かった」


 先輩。


「なんだい?」


 いつだったか、クイズをして、私が勝ちましたよね。

 その時の権利を使ってもいいですか?

 先輩に、お願いする権利を。


「もちろん、構わないよ。私は約束を守る女だ。どんな内容であっても、聞くだけはしてあげよう」


 なら、お願いします。

 私の言葉を、聞いてください。


「……分かった」


 ……私、は……。

 っ……。

 私は……ずっと、先輩のことが、好きでした……。


「そうかい」


 先輩としてじゃなく、一人の女性として……。

 付き合いたいと、思っていました……!


「……そうかい」


 でも、先輩と再会して、ミステリー研究会として過ごすようになって……。

 他愛のない日常を過ごしていくうちに……怖くなりました。


 あなたに、想いを伝えることが。

 あなたに、嫌われてしまうことが。

 この時間が、終わってしまうことが。


 本当……。

 本当に……バカみたいでしょう?


 私は先輩に告白する為に変わったのに。

 いざ一緒に過ごすようになると、それだけで満足してしまった。

 放課後の一時だけでも、あなたが傍にいてくれるだけでいい、って。


「…………」


 ……ううん、違いますね。

 これで十分幸せなんだ、と――そう思い込もうとしてしまった。


 本当はもっと、色々なことをしたかったのに……。

 その思いに蓋をして、今ある日常で満足しようとした。

 それが幸せなんだ、って。


 でも、もう終わりなんですよね?

 先輩は、卒業しちゃうから。


「……そうだね。そればっかりは、私にもどうしようもない」


 なら。

 どうせ終わるのならば、今日、言わせてください。


「なんだい?」


 先輩。

 私は――先輩のことが好きです。

 はじめて会った時からずっと、あなたのことが好きでした。


 ……私が聞いて欲しい内容は、これで終わりです。


「返事は、」


 え?


「返事は言わなくて、いいのかな?」


 返事……ですか?

 それは、その……。


「ああいや、答えさせてくれないかな? 私が答えたいんだ。きみが望むものじゃないかもしれないけれど」


 ……はい。


「気持ちは嬉しいよ。凄く、嬉しい。

 まさか、見た目や態度が変わったことが、私の為だとは思ってなかったしね。

 正直、きみの想いも……なんとなく分かっていた気がする。

 けれど、私も自信が持てなかったんだな。『きみ、私のこと、好きだろ』なんて、流石の私でも言えやしない。そこまで傲慢じゃないよ。

 うん、そうだな……。

 でも、少しばかり、遅過ぎたな」


 …………。


「今すぐ答えるには、時間が足りなさ過ぎるんだ。

 一時の感情では答えられない。答えたくないんだ。

 いい加減なことを言いたくないんだよ。

 恋とか、付き合うとか……。

 それ以前に、きみは大事な後輩だから」


 そう、ですよね……。


「だから、すまない。今日、ここで答えを出すことはできない。

 それが私の答えだ。

 ……けれど、もしも。

 来年も再来年も、大学に進学しても私のことを好きでいてくれるなら。

 また――告白しては、くれないだろうか?」


 ……!!


「その時までに、きみといる時に抱くこの感情が、どういう名前のものなのか、私も考えておこうと思うから。……構わないかな?」


 ……はい、はい……!

 先輩……。

 ありがとうございます……!


「きみは、『私にとっての先輩は先輩だけです』と言ってくれたね。その気持ちだけは間違いなく、同じだと思う。私にとっても、ミステリー研究会の後輩は、きみだけだ。

 口調や態度は関係ない。

 きみがきみであるだけで、私にとっては大切な後輩だ。

 だから、約束をしよう。

 お互いに、今度こそ想いに向き合うと」


 はい……!

 よろしくお願いします、先輩……!


「うん、よろしく」





『思わせぶりで、同性な先輩』 了


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