【先輩と、一つの恋】



 あの日、あの時、あの瞬間。

 私は彼女に――恋をしたんだと思う。



 人を好きになったことがなかった私は、はじめて好きになった相手が同性であったことに困惑して……。

 周囲の目とか、両親がどう思うだろうとか、何よりも先輩に気持ち悪がられないだろうかとか、色んなことを心配して、苦しんだ。


 誰にも相談できないまま、必死に考えて。

 出した結論が、「男っぽくなろう」。

 ……今から思えばバカみたいだけど、当時の私は真剣だった。


 「あんな風に綺麗な先輩の隣に立つのは、きっとカッコいい人だ」。

 そう思ってしまった。


 多分、私は男の子ではなく――王子様になりたかったんだと思う。

 そうすれば、先輩というお姫様に選ばれると思ったから。



 ……でも、私が変えるべきは、見た目や態度、喋り方じゃなかった。

 本当に私が変えるべきだったのは、内気で自信のない、自分の内面だった。


 二年間も一緒にいたというのに、毎日毎日、雑談で時間を浪費して、先輩の一挙手一投足に勝手にどぎまぎして……。

 私は一体、何をやっていたんだろう?

 タイミングなんて、いくらでもあったはずなのに。


 先輩との距離は、縮まらないまま。

 私は、何も言えないままで。

 だから、そう。


 不器用なプロローグから始まった私の恋は、取り繕ったエピローグで、終わるのだ。

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