第21話 タスキの回想
アリアが眠れずにベッドの上で悶々としている時、タスクも眠れずにいた。
タスクの頭には、今日会ったアリアの姿が浮かんでいた。
「今日のアリアお嬢様は、上品でお淑やかだったな。昨日までの冷酷さが全く感じられなくて、逆に親しみを感じられたな」
タスキはアリアに向けてもらった微笑みを思い出して、頬を緩めていた。
「本当にアリアお嬢様が可愛らしかった」
そう満足そうに1人、静かに想いを零していた。
その後、うっとり顔ではぁと一つ息を吐いた。
「僕にもやっとつきが回って来たのか」
タスキの顔が微かに笑みの形を取った。
そして、風呂場でアリアと遭遇したことを思い浮かべた。
「本当に美しかったな、お嬢様の裸体は。色白で華奢な肢体、まだ発育が不完全な愛らしい胸が目を閉じても浮かんでくる。後、見てはいけない箇所も見てしまったな」
幼すぎる肢体には興味が薄いタスキは、苦笑いを浮かべた。
しかし、アリアのアイガーの北壁にも引けを取らぬ壮大な絶壁の胸が特に脳裏に浮かび上がると、苦笑から一転憐憫の情を催し涙が流れてきた。
タスキは、静かに手を合わせた。
(お嬢様のお胸様がまずは無事人並みにご成長なさるように)
真剣に祈りを捧げたのであった。アリアが知ったら間違いなく、張り倒される祈りであった。
その後、しばしば祈りをささげたタスキは、脱衣所でのご褒美を思い出した。
「ああ!あのほっそりと柔らかなおみ足で踏んで頂いた感触が今も残っている。クフフ!裸を見るよりよりもこっちの方が最高だった!!」
タスキの表情が蕩け、恍惚に染まる。
そして、アリアが戸惑いを浮かべながら踏んでいたことを想像するだけで、思わず感嘆のため息が零れた。
「はぁ、最高の一日だった」
至福の一時を思いそれを吐露すると、タスキはアリアに踏まれた感触をしみじみと思い出して、うっとりと快楽に浸った。アリアが見たらドン引きの変態の二文字が浮かぶ様であった。
しばらく、うっとりと1人の世界に浸っていたが、ふいに意識が浮上すると自然と歓喜の声を上げたくなった。
「異世界転移、最高!」
タスキは拳を高らかに掲げて、喜びの叫びを上げていた。しかし、その直後壁が叩かれた。
「うるせぇぞ!何時だと思ってんだ!!」
隣の部屋から先輩の怒鳴り声が響いた。
本気の怒りが伝わり、竦み上がった。
「ひぇ、すいません!!」
そして、すぐにタスキは隣に向かって土下座をした。
それで頭が冷えたタスキは、アリアのご褒美を思い出すのを一旦止めた。
「今度休みの日にでも思い出して、たっぷりと満喫するぞ」
変態は、今度は小さく呟いた。
冷静になったタスキは、風呂帰りにアリアのために遠ざけた先輩達に会ったことを思い出して、その時に言われたことが頭に強く浮かんできた。
アリアの悲鳴を聞き血相を変え急いで女湯に向かったシオン達を見送り、1人になったタスキは、しばらく様子を窺った。
もしもの呼ばれることがあれば、すぐに駆けつける気持ちであった。
しかし、しばらく待ってみたが一向に呼ばれる気配がなかったため、解決したのだろうと考えてタスキは1日の汗を流すために風呂に入った。
本当は自分も駆けつけたかったが場所が女湯ということもあり、自制しシオン達に任せた。それに、彼女達が向かったのだから何も心配はいらないだろうという安心感もあった。
湯船に浸かってぼうっとしていると、廊下が騒がしくなり美容師がどうのとの声と、何人かが走り去っていく音が聞こえてきた。
何か起きたのかと湯船で身構えていたタスキだが、特に呼ばれることも、何かあった様子でもなかったので、女性は何かと大変だなと身体を伸ばすとゆっくりと湯に浸かり直した。
しばらく寛いだ後、湯船から上がり着替えを済ませて脱衣所から出た時、丁度廊下の先から先輩使用人達がやって来た。
タスキは、姿勢を正すとやって来た先輩達に頭を下げた。
「先程は、すみませんでした」
アリアを庇うために付いた嘘を謝罪したのである。
タスキは叱責を受ける覚悟であった。
しかし、先輩使用人達は叱るどころか笑いながら、タスキを慰めてくれたのである。
「お前も大変だったんだな」
タスキは、肩をぽんぽんと叩かれた。
次に、ニヤニヤとした顔つきになると、揶揄い気味に問いかけた。
「どうだったお嬢様の裸身は!」
タスキの脳裏にアリアの裸姿が蘇った。
「・・・神秘的というお言葉がお似合いの美しいものでしたよ」
タスキは普通に答えた。続けて、自分の願望を述べた。
「お嬢様では、あまりにも幼いもので美しい以外の感情が起きませんでした。僕はどちらかというとスイさんのような成熟した大人の身体の方がいいですね」
脳裏にその裸体を思い浮かべると、身体のある部分に血が集まるような感じがした。
「そうかい!」
アハハと豪快に笑うと肩をまた叩かれた。
「お前の熟れ専もブレないな!」
納得といった顔で、アリアとスイの裸身を比べて先輩使用人達は頷いていた。
それを見てもう終わりと見たタスキは、挨拶をして自室に戻ろうとした。
「それでは、僕はこの辺りで失礼します」
頭を下げてから歩き出そうとしたタスキの肩が、突然掴まれた。
驚いてタスキは、先輩達の顔を見た。
そこには、先程までの和やかな雰囲気一切なく、真剣な表情でタスキを見つめ返していた。
「ところでよ、お前は俺らのお嬢様に何か変な事はしてないような」
低い声であった。
先輩達全員が、タスキに視線を向けていた。その視線は、少しの嘘も見逃さぬ鋭いものであった。
タスキの背に冷たい汗が流れた。
しかし、それに怯まずにタスキも視線を返した。
「しませんよ!僕を拾って下さった、恩人ですよ!」
思わず強い口調で返していた。
異世界に突然転移して途方に暮れていたタスキを偶然見つけて、屋敷で保護してくれたアリア。その大事な恩人を裏切る様な行為が、タスキに出来るわけがなかった。
その口調とタスキの嘘のない目を見ていた先輩使用人達は、表情を緩めた。しかし、すぐに再び引き締め直すと口を開いた。
「悪かった」
そして、タスキに深々と頭を下げた。
タスキはそれに驚きすぐ止めるように言った。
「頭を上げてください。先輩達が疑うのも御尤もです。大切なお嬢様が男性と2人きりになれば、その男性が何かしていないか疑うのは当然の事です。ですから、先輩達に非は一切ありません」
タスキの訴えが通じ先輩使用人達が頭を上げた。
ニヤリと笑うとタスキに言葉を掛けた。
「試させてもらったぜ!やっぱりお前は、良い奴だよ」
「ビックリさせないで下さいよ」
タスキが不満顔で抗議する。
それを笑いで返す。
「悪かった、悪かった」
タスキが呆れて一つ息を付く。
「もう、いいですか。シオンさんから今日は上がりでいいとお許しを貰っているので、帰りたいのですが」
「おう、引き留めて悪かったな」
それを聞いて安心したタスキは、自分の部屋に向かって歩き出した。が、すぐにその背にまた声が掛かった。
「さっき聞いたんだがよ、お嬢様からご褒美を貰ったらしいな。どうだったよ、タスキ!」
背後からの軽い口調だったので、タスキは緩み切っていたこともあって自然な気持ちで答えていた。
「それは、至高の一時でしたよ。恐る恐るおみ足でお踏みになる気配。そして、だんだんと慣れてきたお嬢様が力いっぱいにお踏なるイタ気持ち良さ。その全てが極上の時間でした」
うっとりとタスキが語った。だが、続く言葉で思わず口を滑らせてしまっていた。
「最後に見えてしまったお嬢様の大切な箇所が、また良いアクセントになりました」
その瞬間、タスキの背後から殺気が立ち上った。
そして、軽い感じの言葉でタスキに声が掛けられた。
「そうかい。それは大層良いご褒美だったろうし、良いモノも見れたんだろうな」
しかし、それは底冷えするように凍て付いていて、身体の芯まで震えさせた。
タスキはゆっくりと背後に振り返った。
そこには、冷淡にタスキを見下ろす先輩使用人達がいた。
「お前はお嬢様の特別だから見逃されているが、ちょっと羽目を外しすぎてないか」
鋭い視線がタスキを射抜いた。
「気を付けろよ。お嬢様が少しでも悲しそうな表所を見せたら、・・・俺らが、消すぜ」
目を細めタスキを見据える。
タスキは、指一本動かせなかった。
しばらくタスキを見据えた後、パッと表情を緩めると明るく声を掛けた。
「ま、何事もほどほどが一番だよ。お前もあんまりお嬢様に変な事やらせるなよ」
ははは、豪快に笑った。そして、笑い終え風呂に向かうためにタスキに背を向けた時、廊下の先を見据えたまま先輩使用人達が真剣な口調でタスキに声を掛けた。
「アリアお嬢様が久しぶりに楽しそう笑っていたそうだな」
「え!?」
急激な雰囲気の変化にタスキは困惑した。
「感謝してるんだぜ、お前にはよ」
先輩使用人の内、先程からタスキに語り掛けているがっしりとした体付きの使用人ヴァダンが振り向いた。
「俺たちもシオンの奴もそしてスイさんもダメだった。誰も凍り付いたお嬢様の心を溶かすことが出来なかった。お前も知ってるだろう。お嬢様が変わられてしまった時を」
「もちろん知ってますよ。僕はお嬢様が変わる前に拾ってもらったのですから」
「お嬢様は優しすぎたんだ。だから全部自分で背負込んでどんどん、どんどんと自分を追い込んでいってしまった」
ふうと一つ息を吐き、ヴァダンが遠く眺める。
「セレナ様がいた時はまだ、人並みに笑うことが出来ていた。だが、いなくなってしまわれた時から、壊れてしまった。拠り所を失ってしまったからな。そこから、冷たくなってしまい、誰に対してもきつく当たるようになってしまった」
苦笑いを浮かべて続きを話す。
「俺達もそれに疲れて、お嬢様も俺達もみんな壊れてしまった。屋敷から笑いが一切なくなった」
「そうでしたね」
タスキもその時を思い出し、辛そうな表情を浮かべる。
「昔も少しはきつく当たることが、あれはセレナ様に窘めてもらいたくて行っていた遊びだったんだろうな」
しばらく、ヴァダン達先輩使用人とタスキは、遠くを眺めた。場に重い空気が流れた。
しかしそれを嫌ったヴァダンは、少し辛気臭くなった空気を吹き飛ばす意味でにっと笑い、明るく大きな声を出した。
「まあ、そんなわけで、久しぶりにお嬢様に笑いが戻ったんだ!お嬢様が楽しそうにするなら、お前の変態ご褒美にも目を瞑るよ。またアリアお嬢様に、存分に踏んで貰え!んじゃな!」
手を振りながら去っていった。
タスキもその背に精一杯の笑みを浮かべて見送った。
それから、先輩使用人達の許しも出たことだしと、部屋に帰りアリアの姿を脳裏に浮かべてご褒美を満喫しようと心に決め、軽やかなスキップで部屋に戻っていった。
そして、部屋に着いたタスキは、さっそくアリアのご褒美を脳内で堪能しようとアリアの姿を思い浮かべた。
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