生きる気力を無くした同級生を幸せにして『生きてて良かった』と言わせたい
彼方. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
彼方. ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
私は現実に戻って来てから二つのことに悩まされている。
一つは時々頭が痛くなること。
篠ヶ瀬君とのこれまでのことを思い出そうとすると、まるで思い出してはダメと言われているかのように痛くなる時がある。
大切な記憶なのに全てを思い出せないのがとても悲しい。
もう一つは気持ちがノらないこと。
感情を取り戻したのにそれを上手く表現出来ない。
その気持ちは確かにあるのに、私の中の何かがそれを抑えつけている。
それがどうにももどかしい。
でもこれまでのことを考えればその程度どうってことない。
今の私は絶望色に染められたあの世界では無く、光り輝く美しい世界に生きているのだから。
その光を与えてくれた男の子が傍に居てくれるのだから。
楽しまなければ損だもん。
篠ヶ瀬君と一緒の生活はとても楽しい。
篠ヶ瀬君に優しくされるのがとても嬉しい。
篠ヶ瀬君に触れるととても温かい。
篠ヶ瀬君と一緒が良い。
篠ヶ瀬君と一緒じゃ無きゃ嫌。
この気持ちの名前は『好き』
それを気付かせてくれたのも篠ヶ瀬君だった。
篠ヶ瀬君は私の『好きなもの』を見つけて楽しませてくれようとしていた。
だから私は考えたの。
私の『好きなもの』って何だろうって。
そうしたら篠ヶ瀬君のことしか思い浮かばなかったんだ。
その時、私はこの気持ちに気が付いた。
でも不思議なの。
女の子の『好き』ってもっと情熱的で胸が焦げる程に熱くなるものだと思ってた。
それなのに私の心は落ち着いたまま。
僅かに照れくさいなあって思うくらい。
恥ずかしいセリフを何度も言ってしまった気がするけれど、どうして平気なのかな。
まぁいっか。
だって幸せなことに変わりは無いもの。
そう、私は幸せなんだ。
お父さん。
お母さん。
だから安心してね。
ふふ、私が言わなくても分かってるよね。
だって、ふふ、そんなキラキラした額に入れられてるんだもん。
篠ヶ瀬君の優しさを身に染みる程に体感出来たでしょ?
ああ、篠ヶ瀬君はどれだけ私を救ってくれれば気が済むのだろう。
どれだけ私を虜にすれば気が済むのだろう。
あなたのおかげで私はお父さんとお母さんの死に向き合えそうだよ。
でも料理だけは絶対に作らせない。
キラキラ写真は許しても料理だけはダメ。
絶対にだ。
あ、そうだ。
この気持ちを写真に残そう。
せっかく篠ヶ瀬君が写真の事を思い出させてくれたんだもん。
やらない手は無いよね。
私の好きなものを。
私の好きな人を。
たくさん撮って形に残そう。
そして部屋のあそこに貼り付けちゃおっと。
そんな幸せな日常は、ある日を境に一変した。
私の体を気持ち悪い目つきで観察する男。
お父さんが借金をしているなんて不名誉な嘘をついて私を騙そうとした不愉快な男。
本当ならば私が怒らなきゃならない場面だったんだと思う。
だって大好きなお父さんが貶められたんだから。
でも私は全く別のことに気を取られていた。
私を守るように前に出てくれた篠ヶ瀬君の背中。
その格好良い背中に魅入ってしまったのだ。
ただ相手が警察だの弁護士だのと言い出した時だけは気分が悪かった。
不安な気持ちで胸が締め付けられそうになった。
すぐに治まったけどね。
「彼方、大丈夫だ」
だって篠ヶ瀬君がそう言ってくれたから。
その優しい声のおかげですぐに冷静になれた。
そしてまた優しい背中に魅入っていた。
「彼方に近づくな!」
ドクン、と胸が高鳴った。
篠ヶ瀬君の大きくて力強い声に体がビクンと反応した。
私を守りたいと想う強い気持ちがダイレクトに伝わって来て心臓を撃ち抜いた。
あれ、なんで。
これまでドキドキなんて全然しなかったのに。
気持ちが抑えつけられていたのに。
まさかその枷が外れたの?
だめ、だめだめだめだめ!
これはダメだって!
篠ヶ瀬君が格好良い。
篠ヶ瀬君の背中が素敵。
篠ヶ瀬君が好き。
気持ちがどんどん溢れてくる。
顔が真っ赤になってクラクラする。
まともに呼吸することすら難しい。
恋するってこんなにも大変なことだったの!?
「彼方、大丈夫?」
ああ、篠ヶ瀬君がこっちを見ている。
あまりにも恥ずかしくて逃げてしまいたいのに視線を逸らすことが出来ない。
篠ヶ瀬君の顔に視線が吸い込まれてしまう。
「おお~い。彼方。大丈夫か?」
篠ヶ瀬君が心配してくれている。
何か言わなきゃ。
何か言わなきゃ。
何か言わなきゃ。
ダメ、ダメダメダメダメ、何も言えないよ!
「彼方、彼方。ほら、こんなところで立ってないで家に入ろう」
「…………え…………あ、う、うん」
辛うじて何かを言えたけれど、何を言ったかも覚えてない。
「彼方、顔が真っ赤だけど大丈夫か?」
「ふぇ!? あ、だ、大丈夫、かな、うん」
篠ヶ瀬君。
篠ヶ瀬君。
篠ヶ瀬君。
好き。
どうしよう。
私おかしくなっちゃった。
気が付いたら家の中に入っていた。
篠ヶ瀬君が何処かに行こうとするのを見て、反射的に呼び止めてしまう。
「あの…………篠ヶ瀬君」
特に用があるわけではなかった。
ただ篠ヶ瀬君から目を離したくなかっただけ。
「…………」
「…………」
だから無言で見つめ合う形になってしまう。
私は篠ヶ瀬君が好き。
そうだと思っていた。
でもこんなにも激しく好きだとは思わなかった。
抑え込まれていた気持ちがここまで情熱的なものだとは思わなかった。
こんなにも強烈な気持ちを今まで抑え込めていただなんて信じられなかった。
そう、抑えきれない。
この気持ちは抑えきれない。
だから口から零れ落ちようとしていた。
「あの、篠ヶ瀬君、私……っ!?」
ズキリ、とまたあの頭痛がやってくる。
でも今回はいつもとは違った。
その頭痛はすぐに治まり、代わりにこれまで封印されていた記憶が蘇ったの。
「あ……ああ……」
嘘よ!
こんなの絶対嘘よ!
あまりの衝撃で私は篠ヶ瀬君から距離を取ってしまった。
そうするしかなかった。
この記憶が正しいのなら、篠ヶ瀬君の近くになんて居られない。
「お、おい彼方?」
声をかけられて驚いてしまい思わず反射的に逃げてしまった。
そしてその衝撃がトドメの一撃となった。
全てを完璧に思い出してしまった。
ダメ。
私は篠ヶ瀬君の傍に居られない。
だって…………
『して……いいよ……』
全裸で誘っ誘って……!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
腕に胸をおっ押し付け……!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
ベッドで一緒にねねっ寝て抱き締っ……!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
問題は封印されてた記憶だけじゃない。
覚えている最近の行動も大問題だった。
『篠ヶ瀬君が傍に居てくれなきゃ嫌』
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
『好きな人』
告白うううううううう!
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
『篠ヶ瀬君の方が格好良い』
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
恥ずかしすぎて一緒に居られないの!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます