第3話 輝かしい未来のために

「これだ……この書類に、全てが書いてあるんだ」


 臼臼うすうす教の老人福祉施設にボランティア職員として潜入してから3年が経ち、施設の準職員という立場を与えられた俺はある日教団幹部の目を盗んで施設の倉庫へと侵入していた。


 そこには大量の書類の山に隠れて不自然に整った封筒が置かれており、その封筒の中には厚生労働省の署名が入った文書が隠されていた。



>日本の輝かしい未来のために


>臼臼教の皆さん、いつもお年寄りの幸せのために活動を行ってくださりありがとうございます。

>皆さんの社会貢献活動の結果、今年度は約5800億円もの社会保障予算が削減されました。

>このまま日本中に臼臼教の施設が建設されていけば、いずれはより多くの予算を節約できるでしょう。

>無償でお年寄りを受け入れる皆さんの活動を支援するため、私たちは支援を惜しみません。



 臼臼教の背後には、国家がいた。


 日本国は高齢化社会により増え続ける社会保障予算を削減するため、臼臼教に経済的支援を行って老人たちを無償で入居させ、祭典で窒息死するよう仕向けていたのだ。


 警察が俺の訴えを取り合わなかったのも、国家の策謀だと考えれば説明がつく。



 俺はその文書を懐に隠すとそのまま施設から走り出し、その足で現在も籍を置いている雑誌社に飛び込んだ。


 上司に入手した文書を見せ、俺は特ダネをつかんだ旨を冷静に説明した。



「……という訳で、臼臼教の背後には国家の姿があったのです。このスクープを今すぐ市民へと発信し、日本という国家の横暴を世に知らしめましょう」

「ああ、その程度のことは私も知っていた。それに、この国の横暴を世に知らしめたところで、結局どうなるというんだ。臼臼教のおかげで浮いた5800億円、君が払えるとでもいうのかね?」

「はいっ? それは一体、どういうことですか……?」

「この国にはもう臼臼教の善悪を議論していられるだけの余裕はないし、余裕がないから皆見て見ぬふりをしてきたんだよ。君はこの数年間、老人福祉施設で一体何を見てきたんだね。この会社にもう君の居場所はないから、どうしても告発がしたければ個人で好きにやりたまえ」


 上司はそう言うと俺の座席を撤去するよう他の社員に命じ、その瞬間に俺は無職の男になった。

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