僕が僕と向き合うためにー砂の上ー

衣草薫創KunsouKoromogusa

第1話 プロローグ

〜プロローグ〜


中学一年の二学期。

俺、磐田いわた怜央れおは何も知らずに都会に引っ越してきた。

街の騒音、溢れかえりそうな人の数、背の高いビル、狭い駐車場、何処にでもあるコンビニ。

前住んでいた場所は田舎だったのだと思わせる。

魚が沢山釣れる生まれ故郷とは打って変わり、サラリーマンやOLが忙しなく街路を行き来する。

その中には制服を着た学生も沢山。

というか、本当に若者が多い。

目眩がしそうなほど活気あふれるこの都心で、どうやって生きて行けばいいのだろう。


〜誓いを破る行いを〜


そんな俺も今日で成人しました。

もうあの地には帰らないと決断したのは都心に慣れ始めた頃だ。

あそこに行けば彼女に会えるかもしれない。

でも、そうすれば俺が彼女を好きだということになるのではないか。

という、謎のプライドを掲げてここまで生きてきた。

都心には沢山仕事できる場所があるし、将来働くという面では不便さはあまり感じない。

でも、これから何をすればいいのだろう。

大学2年、浪人せず、留年せず、来年も留年しない予定の器用にやってきたここ何年か。

退屈極まりない。確かにいいことだ。勉強そこそこできるし、人間関係もそこそこ、一度だけ彼女できたし、やはりあの夏の出来事のせいだ。

彼女が、あの坂口恵美さんがこの退屈な毎日を作りあげたんだ。

そうだ、そうに違いない。

悶々と考えて考えて答えを探っている矢先のこと。

「怜央、おーい!」

「イッテッ」

何やら硬いものが頭を激突。

「怜央、もう授業終わった。いつまでそこを立たないつもりだ?」

「朔。」

「なんの誓いだかなんだか知らないが、その元家に戻ったらどうだ?最近、根詰めすぎなんだよ。」

「でも、もう決めたことだし。」

もぐもぐと食堂のカレーを頬張る谷山たにやまさく

中高大と、なにかと切っても切れぬ縁なのかどうかは分からないが、話が合う親友だ。

仲良くなったのは高校の時。

「難しく考えんなよ。真面目でお利口な怜央には難しいか?」

大げさに笑って俺の手元のエビフライを奪う。

その返しに朔のカレーの大きい肉を奪って頬張る。

こうやって何かと曲がったことが好きでない真面目な部分をイジって子供扱されるのは早5年の付き合いでも慣れない。

「そうむくれんなよ。真面目で頑固な怜央ちゃんのことを悪く言うつもりはねぇけどよ。前いた場所には海があんだろ?爽やかな潮風にでも当たってリフレッシュしてくればいいじゃん。」

「…考えとく。」

ここ数日、朔は俺の何を思うのか、ゆっくり休む事を要求してくる。


「誰をかも しる人にせむ 高砂の 松もむかしの 友ならなくに。」


大昔に覚えた百人一首のうち、藤原興風ふじわらのおきかぜが詠んだこの句を今、なんとなく声に出しただけだというのに何故か胸に染み渡っていった。

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