第33話
事件の概要を知ったホルスト公ジローと、いつの間にか事件に深入りしていたカエターン、そしてカサンドラの代理として兄のバルナバスが話し合いをし、いつどのタイミングでノーラの遺体を掘り返し、どこまで責任を追及するかなどを決めた。
ジローが突き止めた行方不明の守衛だが、彼もノーラがなくなった遺跡のトラップに掛かり死んでいた……と、後日判明した。
ジョスランは骨格だけの遺跡を使えているつもりだったのだが、実際はそんなことはなく――守衛は敷地内を歩いている時に、骨格に引っかかっているバッグ、もしくは空中に浮いているバッグを不審に思い、近づいて同じように死亡したようだった。
ジョスランは、解除も制御もなにもできていなかった。ジョスランは偶然、遺跡で死ななかっただけだった。
その死体を見つけたのもジョスラン。
トリスタンたちが言うように、ジョスランは遺体を埋めた場所や、殺害現場から離れることができず、在学中、いつも巡回していたので、やはり彼が第一発見者となった。
守衛の遺体も、ノーラたちを埋めた場所の近くにまた穴を掘り埋めていた。
その他、守衛が「ノーラがいつもと同じだった」と証言した理由などが判明し――ジョスラン・ギヌメールを逮捕できるだけの情報が集まり、いつ捕らえるかなどの調整に入った。
ノーラの一件が、思いのほか腹立たしかったこともり、カサンドラは「後は知らない」と――
「ところで、イーサンが身代わりにした遺体はどうするつもりなの?」
トリスタンとメリザンドと共に、何度目かの夜の月窓へとやってきていた。生クリームたっぷりの柔らかいロールケーキに舌鼓をうつ二人に、カサンドラは名前も知らない死者の処遇いついて尋ねる。
「集合墓地に帰すのも悪いから、新しい墓を作ることにした」
「そう。ところでお前たち、いつまでここにいるの?」
「捕まえるまでは、居るとのこと」
「帰らなくていいの?」
「帰る時は、姫さまを帝国まで連れてこいって、皇帝に言われてるから。長期休暇の時がいいだろう」
「いつのまに、そんな話になってるのよ」
「何時だったかなあ……まあ、歓迎してるんで。お越し下さい」
トリスタンとメリザンドが顔を合わせて頷き合う――機会があり、メリザンドに現皇帝が姉というのは本当かと尋ねたところ「うん」という答えが返ってきた。
なぜそのことを、言わないのかについてだが「自分は全裸で過ごさないと説明するのが面倒で。説明だけじゃ伝わらないのも面倒だから」という、切実と言っていいのか悩む答えが返ってきた。
だがあまりにも酷い理由なので、カサンドラは何故か納得してしまった。真実は得てして惨いものなのだ。
「お前たちの皇帝の歓迎なんて、欲しくはないわよ」
「気持ちは分かるけれど、そんなこと、言わないで」
「姫さまの御言葉はもっともですが、そう言わず」
「そうね。ちゃんと服を着たら、考えてあげてもいいわよ。そう伝えなさい」
「うわ、あの人に服を着ろと言える強者が現れるとは。さすが姫さま」
「…………本当に、なんなの。お前たちの皇帝」
カサンドラが呆れ気味に言うと、二人は声を上げて、子どものように無邪気に笑った。
カサンドラがこうして帝国の人間を、月窓に連れてきているのは、隠していないので広まっていた。
カサンドラはこの二人以外の、学園の生徒も招待しているが、一人だけ招待していない生徒がいた――フレデリカである。
ある日、エーリヒからの手紙でそれについて触れられており、さらに「できれば、彼女を招待してあげて欲しい」とまで書かれていたが、もちろんカサンドラは招待しなかった。
「なにを言っているのかしら、この男。まだ婚約者でいられると、思っているのかしら?」
**********
ノーラ・アルノワの死に関しての調査が終わり、王太子ハルトヴィンやその婚約者フレデリカ、そしてオデットたちが卒業する季節になった。
「ふふふ、これで隠しているつもりなのだから、面白いわねえ」
「本当に面白いな」
バルナバスとカサンドラの前に置かれているのは、一通の手紙――既に目を通したその手紙をバルナバスは手に取り、更に面白そうに笑う。
式終了後に卒業祝うパーティーが開かれる。
その際、卒業生はパートナーと共に出席しなくてはならない決まりがあった。
平民は卒業式に出席した父親や兄などの近親者に頼むのが一般的――平民は婚約者がいない者が多いのでそれで済む。
翻って貴族は婚約者がいるものがほとんどなので、婚約者を伴うのが一般的。
婚約者がいれば、相手が在学していなくとも、年下であろうとも伴うことができる。
「ティミショアラもよく許したものだ」
「本当にね」
バルナバスはエーリヒから届いた手紙を手にして、小馬鹿にした口調でそう言った。
バルナバスの性格が悪いのではなく、その手紙の内容が問題だった。
エーリヒからカサンドラ宛に届いた手紙の内容は「ハルトヴィンがフレデリカのエスコートを拒否したので、わたしが代わりにエスコートをする」というもの――
カサンドラは卒業生ではないので、エーリヒにエスコートしてもらう必要はないのだが、婿入り先に許可も取らずに、エスコートを引き受けているのが実に滑稽だった。
「最後の思い出作り、くらいのつもりなのではありませんか?」
「毎日のように、王宮で触れ合っているのにか?」
「足りないのでしょう。まあこれから先、幾らでも王宮で会えるのですが」
「そうだな。ところでカサンドラ、今回の卒業式には、帝国の
「知りませんけど、ハンス・シュミットがわたくしのことを、”エスコートしたい”と申し出てきてはおりました」
「そうか。受けるのか」
「受けようが受けまいが、あれはついて来ますわ」
秘めたる恋に酔っている二人――うち一人は自身の婚約者だが、カサンドラにとっては、本当にどうでも良いことだった。
「ああ、お兄さま。ルーリエの件、ありがとうございました」
卒業後の就職先を探していたルーリエは、無事にカサンドラからできる仕事を斡旋され、卒業と同時に家族ともどもトラブゾン領へと向かうことになっていた。
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