第8話 授業開始!
一人目の魔法少女候補であるリリカが、事故で入院してから1週間後。
第二の候補が、何者かに狙われていた。
バイオリン教室帰りの
彼女は着任挨拶したばかりのディスキプリーナに、プリン先生という仇名を付けた女子生徒である。
ディスキプリーナほどではないが、十三歳にしては小さい子だ。
とびぬけた美少女というわけではない。
集合写真では、彼女を見逃してしまうかもしれない。
だが生の彼女を見れば目が留まってしまう。
少しでも彼女と話せば強い好感を持つだろう。
自分へ向けられた笑顔を見たら、惚れてしまうかもしれない。
彼女はそんな子だ。
そんな子を監視し、待ち伏せる悪の組織がいる。
「中学二年生の女の子を待ち構える男たち……。なんとも犯罪じゃのう」
この周辺で一番高いビル。その屋上でディスキプリーナ総統は杖を抱えながら、各所で準備にあたっている戦闘員たちと隠れている志太を見て言った。
「おいおい、急に冷静になるな。勢い、そのまま。いくぞ」
暗がりに隠れている志太は、総統の感想を封殺した。彼もまた一瞬、冷静になって自分たちの犯罪行為を客観視してしまった。
やや士気が落ちている。
『こちらアー。配置につきました』
任務に着実な戦闘員アーから、無線で報告が上る。
「よし、では黒猫型のマスコットマシン、これよりこれをMMと呼称する! MMを……ぐ! か、解放するのじゃ!」
『こちらペー。MMを解放したぞ』
ぺーが総統の指示通り、木々の多い公園の死角にMMを置いた。すぐさまそこから立ち去り、MMから不自然ではない距離を取る。
「改めて言うぞ。MMの知能は高いが、決して融通が効くものではない。ひとたび起動すれば魔法少女の手助けをしながら、スパイとして我々に内通するなどという器用さはない」
ディスキプリーナはMMの特性を説明する。
志太とアーガーペーたちは、事前に説明を受けているが、念のためだ。
「つまり、なんらかの理由で対象と接触せず、かつ我々が手違いで逃してしまえば、以降のMMは存在しない魔法少女の適格者を探し続けることになる」
MMの記憶は創られている。
地球を侵略する悪の組織に対抗するため、魔法の世界から派遣された妖精。そう
魔法少女の適任者を選び、その活動を助け、世界を救うため導く。
ディスキプリーナは倒すべき敵。
ひとたび起動すれば、MMはこちらを敵と認識し続けてしまう。
「ぐ……」
MMの遠隔起動装置を握りしめ、悩むディスキプリーナ。スイッチを押した瞬間、愛らしい黒猫型マスコットマシンは、己を倒すべき存在と認識する。
自分がMMに名をつけ、その手で愛でたいのだろう。
総統は……いや、少女は決別のスイッチを押せない。
『こちらガー。総統。小夏ちゃんが接近中じゃよ』
ガーからの報告は少女を急かす。
ディスキプリーナは少女の顔を消し去り、総統として不敵に笑って起動スイッチを押した。
「くう……ヨシ、作戦開始じゃ! 行け! 吾輩の……お給料三か月分!」
センチメンタルな理由でスイッチを押せなかったのではない。
どうやら金銭の問題だったようである。
公園の草むらで、MMが目を覚ました。
すぐさま跳ね上がり、自分が「悪の組織に追われている」と、植え付けられた記憶を思い出す。
周囲を見回し、脅威が目の前にないとわかると、MMは暗いほうへと駆けだした。自分が黒い猫の姿を知っているからこそ、暗がりを利用する。
「ふん。出来過ぎなおもちゃだ」
志太は購入されたMMの能力の高さに感心した。
「あれでおもちゃか。なら……そうでないモノは、どれほどの性能を持つのか」
高性能なMMだが、ディスキプリーナの話によれば侵略され滅亡した世界の機械だという。つまり侵略した側、ディスキプリーナの世界の技術力は、これを遙かに凌駕している可能性がある。
個々の実力が己の遙か上を越え、技術力すら高く未知数な異世界の侵略に身震いを覚えた。
ディスキプリーナが魔法少女を創り、育てる理由。
それは志太たちが太刀打ちできないような侵略者に対し、育て上げた魔法少女たちを戦わせるためだ。
いずれ子供を死地に向かわせるため、それでも死なないように育てるため、自分たちが敵わないから戦わせるため。
「さあいよいよ授業の開始じゃ! 業を授けよう、スコラーリス!」
ビルの上でディスキプリーナ総統が杖を振り上げた。
静かに、早く流れる雲のように、空に暗黒が攻め寄せる。
いよいよ始まる。
魔法少女を選定する自作自演の舞台が。
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