第21話 少女と帰還
昨夜、ロッド達は様子見から帰ってきた精霊の扉から
バーンの話では、商隊は馬車も含めて全滅であり、商隊の護衛冒険者は3人だけが生き残っており、乗合馬車は全員殺されていたらしかった。
ロッドから乗合馬車の生き残りの少女を保護しているとの説明も行った。
少女は泣き疲れて既に眠っていたため、アイリスに指示してロッド達のテントで眠らせていた。
精霊の扉は生き残りがいた事に驚いていたが、とりあえず危機は去ったので朝を待とうという事になり、ロッド達は再び眠りについた。
ーー
朝になり、早く起きたロッドは日課となっている精神統一を今日も行う。
続いて朝食のメニューを考える。
今朝は食べてすぐ行動になりそうだったので簡単に肉まんを取り寄せ、蒸して食べる事にした。あんまんは恐らく西洋では馴染まないだろうと思い下記の3種類を少し多めに取り寄せた。
・肉まん5個入☓10袋(5,000P)
・ピザまん3個入☓5袋(2,500P)
・カレーまん3個入☓5袋(2,500P)
ロッドはカセットガスコンロを2つ、蒸し器を2つ用意し、冷凍では無いのでそれぞれ5分ほど蒸した後、〔
小一時間ほどで肉まん50個、ピザまん15個、カレーまん15個、計80個を蒸し終わったロッドはバイキング用テーブルにドリンクバーをセットし、ロッド達のテーブル、ジュリアン達のテーブル、侍女と御者達のテーブルを用意し、ハム美とピーちゃんの水と餌を用意して皆を起こした。
ロッド達のテントで寝かせていた乗合馬車の少女も起こし、朝食を食べようと言って連れ出し、ロッド達のテーブルに座らせた。
少女用に飲み物はオレンジジュースを用意しておいた。
〈朝食メニュー〉
・肉まん
・ピザまん
・カレーまん
・ドリンクバー
各テーブルに皆が揃ったので朝食の説明をするロッド。
「今朝はすぐに食べられるように肉まんという物を用意した。これは、この下の紙をペラっと剥がし、後はこのまま手に持ってパクッと食べる(もぐもぐ)。
皆に1個ずつ配ってあるこの白いのが基本となる肉まんで、このオレンジ色のがピザまん、この茶色がカレーまんだ。それぞれ味が違うから好きなのを食べてくれ。
いつものようにお代わりはたくさんあるから遠慮なく食べてほしい」
ロッドはそう言うと、少女に下の紙を剥がした新しい肉まんを渡す。
少女は最初怪しんでいたが、一口肉の入った部分を食べるとビックリした顔になり、夢中で食らいついていた。
むせそうになったところでオレンジジュースを渡してあげると今度は素直に口にするが、これにもビックリした表情で一気に全部飲んでしまった。
お代わりの肉まんを用意し、オレンジジュースを入れてあげるロッド。
少女も美味しい食事を食べて一旦は安心したようであった。
「モチッとしたパンの中に味の良いお肉が入っていてとっても美味しいです〜」
「本当に美味しいですよこれ!(もぐもぐ)このピザまんというのも美味しい!」
「全種類食べましたが(もぐもぐ)全部美味しくていくらでも食べられます!(もぐもぐ)」
ジョアンナ、ジュリアン、リーンステアにも好評である。毎食限界まで食べているリーンステアの体重は大丈夫なのか?と少し心配になるロッドであった。
侍女達は辛そうなカレーまんを避け、逆に御者達はカレーまんを好んで食べているようだったが、笑顔で満足そうに食べていた。
〈それぞれが食べた物〉
ロッド 肉まん2個、ピザまん1個、カレーまん1個、ウーロン茶2杯
アイリス 肉まん1個、ピザまん1個、レモンティ2杯
少女 肉まん3個、オレンジジュース3杯
ジュリアン 肉まん2個、ピザまん2個、カレーまん1個、レモンティ2杯
ジョアンナ 肉まん2個、ピザまん1個、オレンジジュース2杯
リーンステア 肉まん5個、ピザまん2個、カレーまん3個、レモンティ4杯
侍女2名 肉まん4個、ピザまん2個、レモンティ4杯
御者2名 肉まん4個、ピザまん2個、カレーまん4個、ウーロン茶4杯
ロッドはアイリスに少女のトイレ等の世話を任せ、余った肉まん27個、ピザまん4個、カレーまん6個を入れる大鍋を持って、精霊の扉の野営場所に向かった。
ーー
精霊の扉の野営場所にはバーン達の他、商隊の護衛冒険者の生き残りの3人も保護されていた。
ロッドが訪れると座っていたバーンが立ち上がり、ロッドの方にやって来た。
「おはようロッド。それは?」
「おはよう。差し入れだよ。護衛の生き残りもいると聞いたんで、残り物で悪いが持ってきたんだ。良かったら食べてほしい」
そう言うとロッドは蓋をした鍋の中に、ストレージから蒸し上がった直後の温かい肉まんを入れ、鍋を差し出した。
「本当に毎回悪いな。彼らにも何を食べさせようかと思っていたんだ。あちらの馬車は全部焼けてしまったしな」
バーンはロッドに笑顔で礼を言う。
ロッドは鍋を持ったまま精霊の扉の皆の中心まで運び、蓋を開いた。
肉まんの美味しそうな香りが周りに広がってゆく。
「これは肉まんという食べ物だ。下に付いている紙は食べられないから注意してほしい。剥がしてから食べてくれ。オレンジ色がピザまん、茶色のがカレーまんという種類ある。全部で37個あるから9人で4個ずつ、1個だけ余る計算になるからよろしく。食べ終わったら鍋は返してほしい」
ロッドはそう言うと、フランに体調は大丈夫かと少しだけ声を掛けてから帰った。
ーー
ロッドは野営場所に戻り、少女と向き合った。
テント内でパンの入った袋を大切そうに握り、佇んでいた少女に問う。
「俺の名前はロッド、こっちはアイリスだ。君の名前は?何て言うんだ」
「……マリー」
少女は小さい声で教えてくれた。
「そうか。マリーは何歳かな?」
ロッドは続けて聞いてみる。
「…8歳」
マリーは8歳だと答えた。もう少し幼く見えるのはおそらく栄養状態が悪いせいだろうと思われる。
「いいかい。君のお兄ちゃんにそのパンが入った袋をあげたのは俺なんだ」
ロッドはそう言って、ストレージから同じ袋に入ったパンを取り出して見せた。
マリーは同じパンを見て驚いて口を開く。
「あ、同じ!」
ロッドは一つ頷く。
「そう。それは昨日マリーのお兄ちゃんに頼んだ仕事の報酬として、俺が渡したパンなんだ。だからこれと同じだろう?」
マリーもロッドが兄から貰ったパンをくれた人だと分かり、安心して頷いた。
「うん!」
ここでロッドは覚悟して嘘を吐いた。
「君のお父さんとお兄ちゃんには俺が追加で仕事を頼んだんだ。だから昨日のうちにここから少し遠くに行っている。暫くは会えないが、その代わり俺が街まで一緒に行く事になっているんだ。彼らの仕事と生活の目処が立つまでは俺やアイリスと一緒に行こう。良いかな?」
「……うん。お兄ちゃんとお父さん、ちゃんと迎えに来る?」
マリーは少し不安そうにロッドに尋ねる。
ロッドはまた嘘を吐かざるを得ない。
「ああ。そのうちにたくさん土産を持って迎えにやって来ると思うよ」
マリーはそれを聞き、安心して良い笑顔になった。
「良かった!」
ロッドもなんとか辻褄を合せられた事に安心して笑顔になる。
「それとこっちがハム美でこっちがピーちゃん。俺の大切なペットなんだ。よろしくな!」
その後、マリーは子供らしくハム美とピーちゃんと遊ぶのに夢中になるのであった。
ーーーーー
一行は無事だった乗合馬車に、殺されてしまった商隊と商隊の護衛、乗合馬車の死者を乗せ、御者は商隊の護衛冒険者の生き残り2名が担当し、次のような隊列でオルストの街を目指す事となった。
〈変更後の隊列〉
1.リーンステアの騎馬
2.ジュリアン達の馬車(ジュリアン、ジョアンナ、アイリス、マリー)
3.荷馬車(侍女2名、商隊の護衛冒険者1名)
4.精霊の扉の馬車(バーン、クライン、マックス、フラン、エスティア)
5.襲撃者の馬車1(ザイアスが御者、襲撃者7人拘束して同乗)
6.襲撃者の馬車2(ロッドが御者、襲撃者7人拘束して同乗)
7.乗合馬車(商隊の護衛冒険者2名が御者、商隊と商隊の護衛と乗合馬車の死者)
ーー
特に何事も無く進む一行。
途中、野生の
領都の貴族門まで来ると、先触れとして少し先行したリーンステアから伝えられた門兵が整列してジュリアン達の馬車を出迎える。
ジュリアンとジョアンナはこれで安心だと笑顔で微笑んだ。
リーンステアからの伝達で襲撃者と乗合馬車の死体は辺境伯領の兵士の手に委ねられ、商隊の護衛3人は冒険者ギルドに状況の報告を行う為に門で別れ、ロッド一行、精霊の扉は任務完了の手続きもある為辺境伯の居城まで同行する事になった。
貴族門から石畳を進み貴族街を経て城門に着く。
そのままリーンステアの誘導で城門内の広場まで進み、馬車を降りる一行。
そこでは門兵から事前に知らせを受けたロードスター辺境伯家の家宰であるローモンド子爵が、ジュリアン一行を出迎えた。
「お帰りなさいませ。ジュリアン様そしてジョアンナ様」
ジュリアンは笑顔で微笑み、ジョアンナは少し憮然とした感じで返事を返す。
「ローモンド子爵出迎えありがとう。ただいま帰りました」
「ご苦労様です…」
ローモンド子爵はお辞儀から顔を上げると驚いた様子でジュリアンを見る。
「ジュリアン様!そのお目は?」
「ああ、これは治療を受けて目が見えるようになったんだよ!」
ジュリアンは少し興奮気味に話した。
「そ、それはようございました!これで辺境伯家も安泰でございます!」
ローモンド子爵は少し引きつった笑顔で喜びを伝える。
「それでは城へお入り下さい。お食事の用意も出来ております。お付きの冒険者の方々は宴会の用意がありますのでそちらにどうぞ」
ローモンド子爵は優秀な者らしくすぐに動揺から立ち直り必要な事を告げた。
ここでジュリアンとジョアンナは一旦ロッドと離れる事になった。
ジュリアン、ジョアンナとロッドは後でまた会おうと少しだけ視線を交わす。
リーンステアはロッドに近寄り何事か話すと、ロッドは皆に一言告げ2人で城内の安置所に向かう。そこで誰も見ていないのを確認し、ストレージからジュリアンを護衛していた騎士12名と御者2名の遺体を整列させるように取り出した。
リーンステアは遺体が全員分あるのを確認してロッドに礼を言うと、アイリスや精霊の扉のいる場所までロッドを案內した。
そこには粗末であるが酒や食事が用意されており、精霊の扉が先に宴会を始めているところだった。リーンステアはこのまま騎士団に報告に行くと言い、ここで一旦ロッド達と別れた。
ーー
ロッドが食事を始めて少し経ち、ローモンドが再度ロッド達の元に現れた。
「私はロードスター辺境伯家の家宰のローモンド子爵である。皆、ジュリアン様の護衛任務ご苦労だった。護衛任務の完了報告書はここに作成したので持っていってくれ。宴会が終わったらここで世話をしている給仕係に告げて退城してくれてかまわない」
ローモンドはそう言うと、文官に指示して精霊の扉にニ枚の記入済みの完了報告書を手渡した。
「ロッドの分だ」
バーンは中身を確認してロッドの分を分けて手渡した。
「それから冒険者ロッドへの依頼書にある任意の特別報酬はこちらで精査した結果、高額過ぎると判断した。よって私の権限により今回は支払わない事になった。異論は認めないぞ」
ローモンドは続けてそう言うと部屋の中がシンとする。
「それはジュリアン達は承知しているのか?」
ロッドは話しが違うとばかりにローモンドに尋ねる。
特別報酬の対価として道中の寝食の面倒を見たのだ。取り寄せポイントもかなり使っている。貰えないと実質的にはかなりマイナスになってしまいそうである。
ローモンドは不快そうにロッドを見下して告げる。
「やはり下賤な冒険者は口の聞き方も知らないらしい。次に不敬な言葉を発したら貴族への不敬罪で処罰するぞ!」
家宰の態度にアイリスから殺気と魔力が漏れ出て来るが、ロッドが片手を上げて制した。以降、口をつぐむロッド。
ローモンドは退出したが、今回の依頼で仲良くなったロッドへのあまりにも酷い仕打ちに気分を悪くする精霊の扉のパーティーメンバー。
ロッド達と精霊の扉は宴会を中断し、早々に城を出るのであった。
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