第7話 到着と嫌疑(ギルドランク説明有)
ロッドは氷漬けとなった
街道に戻った後は何事もなくオルストの街付近まで一行は辿り着いた。
絨毯で浮いたまま入っては余計な揉め事を起こす可能性があった為、ジュリアン、ジョアンナ、侍女2名の足を〔
アイリスは身分証を何も持っていなかったが、ジュリアン達が貴族用の通用門が使えたので街に入る時に問題は出なかった。
ディックは賞金首でもあるので暗殺事件の捜査中である旨を伝え、街にいる間はこの街にある牢で預かって貰える事になった。
今日は街に泊まるためジュリアン達はまず宿屋を探して部屋を確保する事になり、後ほどギルドでロッドと合流する事になった。
念のためアイリスはジュリアン達に同行してもらう事にした。
ーーーーー
ギルドの扉をくぐったロッドは少し懐かしさを感じた。
以前は凄く重たいなと思っていた扉が酷く軽く壊れ易そうに感じる。
あまり人がいない時間帯でもあるため、真っ直ぐ受付カウンターに向う。
するとカウンターにいる受付嬢サラがびっくりして立ち上がり叫んだ。
「ロッド君!今まで何処に行っていたの!」
受付嬢サラが超速で受付カウンターを迂回してロッドに走り寄り抱きしめる。
(良い匂いだな…)
ロッドは抱きしめられて一瞬良い匂いに気を取られたが、すぐに説明する必要があると思い出し受付嬢に説明した。
「サラさん説明します。8日ほど前に〈鋼の剣〉に臨時メンバーに誘われて
受付嬢はロッドに説明する。
「〈鋼の剣〉はあなたがパーティーの貴重品を無断で持ち出して、依頼途中で逃げたと言っていたわ!私はあなたがずっとギルドの仕事も頑張っていたのにそんな事するはずないと言ったのだけれど……ずっと帰ってこないので、心配していたのよ」
ロッドは前世の記憶を取り戻していたので、受付嬢の話から今の自分の立場を推測できた。
恐らく〈鋼の剣〉の連中はパーティーメンバーを置き去りにした事を知られたくなくて、ロッドが荷物を持ち逃げしたという嘘をついたのだ。
ギルドの規則でも仲間を見捨てたり、囮にして犠牲にしたりという事は罪として裁かれる事になっている。
(死人に口無しという事か…)
ロッドは以前はかなり非力だった。
15歳になってルール上は孤児院を出るしかなく、冒険者ギルドに登録したまでは良かったが冒険者となっても碌な仕事も出来ず、お試しでパーティーに入れて貰っても非力なので直ぐに追放されてしまう。
これではとても食べて行けないのでギルドにお願いして下働き的な汚れ仕事などもやらせてもらい、何とか生計を立てていたのだ。
あの日臨時パーティーで誘ってもらって喜んで付いていったが、結局は見捨てられて犯罪者のような事まででっちあげられていた。
見捨てられた事自体はもう恨んでもいないが、持ち逃げの濡れ衣は晴らさなければならない。
「〈鋼の剣〉はどうしていますか?俺が預かっていたのは食料だけです。このバックパックに入っている物が全てです」
ロッドはそう言って後ろに回した手で掴めるように〈鋼の剣〉のバックパックをストレージから出して掴み、受付嬢サラに渡した。
「そう、やっぱりね。私からギルド支部長にも話してみるから今日はここにいてちょうだい。食事代は私が出してあげるから食堂でお腹いっぱい食べて良いのよ。
〈鋼の剣〉はたぶん夕方にはギルドに来ると思うから、話しを擦り合わせましょう」
受付嬢サラはロッドがお腹を好かせていた時、時々こうして食事などをごちそうしてくれていた。
故郷に妹がいるらしくそれがロッドに似ているからとの事だった。
妹かよ…と思わないでも無かったが飢えた時に食事を貰えるのはとてもありがたかった。
ロッドはとりあえずサラの顔を潰さないように、まずは話し合おうと思った。
「分かりました。じゃああの辺に座っていますので」
そう告げるとロッドはギルド食堂の隅っこの席に付き、状況が動くのを待った。
ーーーーー
小一時間ほどして宿にチェックインしてきたジュリアン達全員がギルドに訪れた。ギルド内は貴族が何の用だとばかりに少し敵対的な目で見てくる。
ジョアンナが一番にロッドを見つけると声をかけた。
「ロッド様!今日の宿が決まりましたわよ!」
思考していたロッドが顔を上げてジョアンナに手を挙げ、ジュリアン達を手招きする。
人数が増えたので少し大き目のテーブルに全員で移動した。
「早かったな。こちらは少し問題が起きた」
ロッドはギルドに帰還を報告した事〜貴重品を持ち逃げしている容疑を掛けられている状況を手早く皆に説明した。
「ロッド様、この街を燃焼系の極大魔法で灰にする許可をいただけませんでしょうか?」
アイリスが真顔で静かに許可を求める。
「そんな!見殺しにした上に、酷い言いがかりを!」
「ロッド様が持ち逃げなんて!」
「ロッド殿を置き去りにしておいて、犯罪容疑をかけるとは…許せん!」
ジュリアンとジョアンナ、リーンステアも憤慨する。
侍女2名もプンスカ怒っている様子。
「皆ありがとう。だが一旦落ち着いてくれ。この後ギルドの支部長と〈鋼の剣〉のメンバーとを交えて話し合いをする事になっている。俺はそこで潔白を証明したいと思っている。
後、今ここから動けないので食事をしようと思っているんだが、俺もアイリスも金を全然持っていなくてな。受付嬢のサラさんが奢ってくれると言うんだが、それも申し訳ないのでジュリアン、少し金を貸してくれないか?」
ロッドはとりあえず話し合いをというスタンスと食事について説明した。
「もちろん良いですよ。というか護衛していただいているんですから宿賃や食費は当然こちらで全て払いますよ!」
ジュリアンは必要経費として払うと説明する。
「ロッド様!その受付嬢様とはどういうご関係なのでしょうか!」
ジョアンナが少し怒った感じで聞いてくる。
「う、ちょくちょく世話になっているだけだ。なにか特別な関係がある訳では無いが…」
ロッドは少し引き気味に答えた。
それからは各自、好きな物を頼んで食事をする。
温かい各種スープ、鳥の丸焼き、
ーーーーー
夕方になり〈鋼の剣〉がギルドに訪れ、食堂にいるロッドと目が合った。
「ロッド、お前生きていたのか…」
「…」「…」「…」
「ロッド!!良かった!生きていたのね!」
驚愕する〈鋼の剣〉のパーティーメンバー。
一部だけ生存を喜ぶ声もある。
そこにタイミング良く受付嬢サラがギルド支部長を伴って現れた。
「〈鋼の剣〉のメンバー全員とロッド君、事情聴取があるから別室に来てくれ。それとそちらの貴族はどなた様かな?私はギルド支部長のゴルドーです」
リーンステアが前に出る。
「私は騎士リーンステア、こちらはロードスター辺境伯様の嫡男のジュリアン様と長女のジョアンナ様である。ロッド殿には刺客に襲われ危ないところを助力していただき、さらに辺境伯領までの護衛を請け負っていただいている最中である。依頼遂行中でもあるためロッド殿に関しての事であれば私達も同席させていただこう!異論は無いな?」
リーンステアは貴族権限を振りかざして強気に出る。それに合わせてジュリアンとジョアンナも目に力を込めギルド支部長を睨むように見つめた。
「…分かりました。私の権限で同席を許可します」
ギルド支部長は別に聞かれても困ることも無いため、ここは折れる事にした。
但し、これを聞いて〈鋼の剣〉のメンバーは青くなった。
(まずい…まずい事になったぞ。これは…)
ーーーーー
〈鋼の剣〉は近隣の村とこの街の出身者で構成されており、まだ結成して1年未満のパーティーである。
リーダーのハルクはこの街出身の戦士で18歳で冒険者ランクはE。
15歳で冒険者になってから数年間はあるパーティーに所属していたが任務遂行後の金品の分配に不満を感じた為、今年になって独立して新たにパーティーを立ち上げたのだった。
ハルクの戦士の腕は年齢に鑑みて並より多少上程度であったが、自分では上位の実力がありいずれギルドで高ランクに上がれると信じていた。
パーティー脱退を考えたその時に丁度結成されて少し経った新人パーティーがあったため、自信満々の態度で既存メンバーを
当面の目標である
恐らく1年以内に達成出来るとの見込も有ったし周囲もある程度有望なパーティーだと見ていた。
結成から半年ほど経過し、パーティーメンバー同士も気心が知れてかなり仲良くなった。
ハルクはパーティーメンバーの紅一点であるエミリアを気に入っており、いずれはリーダーである自分のモノにしてやろうと考えていた。
エミリアは女子の為非力ではあったが弓の才能があり、命中精度、射出速度とも目を見張るものがあった。
エミリアを度々見ていたハルクは時折ギルドの下働きをしているロッドという低ランクの冒険者をエミリアが特に気にしている事が分かった。
ギルド食堂などの手伝いをしているロッドに飲み物をたまに奢ってあげたり、粗相をして客の怒りを買っているロッドを庇ったりしていた。
聞けばロッドはギルド加入時の新人講習の同期という事でハルクが入る前に、新人パーティーにも所属していた時期があったが、あまりにも何も出来ない為に外れてもらったとの事だった。
だがエミリアはその後もロッドの事が気になっている様で自分から何かと絡みに行っている様子であった。
ロッドは顔は整っているが髪を切る金も無いようで長髪になっており、まるで女の子のようで全然男らしくない。
聞いた話では戦闘も全くダメとの事。
ハルクは考えた。
まさかエミリアはそういう趣味なのだろうかと。
どちらにしてもこのままではエミリアは自分の手に入りそうに無い。
ロッドを何らかの手段で始末しなければと考える。
その為にロッドに臨時パーティー要員として銀貨2枚で参加を打診したら飛び上がる位に喜んでいた。
その後、パーティーランクが
恐らくそのまま
もう助けるのは無理だとエミリアの腕を掴み、ロッドを取り残して逃げる。
その後パーティーで口裏を合わせ、臨時メンバーのロッドはパーティーの貴重品を持って逃げたというギルドへの嘘の報告をする事になった。
エミリアは反対したが、メンバーの危険エリアへの取り残しがバレたらギルドからのペナルティが全員に入るとハルクが言うと案の定エミリアは沈黙した。
なんだかんだ言って皆自分が可愛いのだ。
その後、泣いているエミリアにロッドはもう死んだからと繰り返し話し、その状態に付け入る事でハルクとエミリアは付き合う事になった。
ーーーーー
エミリアはオルストの街から東にある貧しい村の出だった。
(15歳になり次第、街に出て冒険者になる!)
それが子供の頃からの目標でありそのために毎日弓の腕も磨いてきた。
そして予定通り出てきた街は村とは全然違い、何もかもが凄かった。
自分もそのうち高ランクの立派な冒険者になり、お金もたくさん儲けて父母に楽をさせてあげたいと考えていた。
早速、エミリアは冒険者ギルドに加入手続きをして新人教育を2週間受ける事になった。
他に4人の同期の新人がいたが、隣に座ったのは髪の長い女の子のような男子、名前はロッドだった。
ロッドとはすぐ仲良くなった。
他の男子のように威張ることは無いしエミリアの話もちゃんと聞いてくれる。
それに座学は得意のようで記憶力や計算力などはエミリアの数倍は優れていた。
一度、魔法使いなの?と聞いてみた事があったが、自分に魔力は全然無いと寂しそうに答えてくれた。
冒険者ギルドではパーティー講習もあり、新人教育後は同期の者たちでパーティーを立ち上げるのが半ば慣例と化していた。
新人ではおいそれと既存のパーティーには入れないからである。
そのためエミリアとロッドは同じパーティーになった。
喜ぶエミリアであったが、次第に新人パーティーはロッドの力や素早さなどを代表とする能力の低さに直面した。
調査、調達、野営準備やある程度の荷物運びなどは時間が掛かったとしても問題無いのだが戦闘になるとそもそも全然使えない。
小剣も剣もメイスも杖も弓も盾も魔法も何も使えないロッド…
ある時パーティーで話し合い、ロッドには抜けてもらう事になった。
エミリアはもう少し成長の様子を見ようと反対したが、多数決で負けてしまったのだ。
エミリアはとても悲しかったがだからと言って自分も抜ける訳にはいかない。
何より生活も掛かっているし冒険者としての目標もある。
でもなぜかロッドも気になるので、それからもギルドの下働きをしているロッドを見つけては話しかけ、奢ったり助けたりもしていた。
現パーティーリーダーのハルクが「ロッドを臨時でパーティーに入れたい」と言った時にはエミリアは一も二もなく賛成した。
またロッドと一緒に冒険が出来る!
そして
エミリアは助けに行こう!と提案したが、ハルクが認めなかった。
皆をこれ以上危険に晒すのか?と言われたら反論は出来ない。
さらにハルクがロッドが貴重品を持ち逃げした事にしようと言い出した時には怒りが湧き上がった。
しかしハルクがこのままでは皆がギルドに罪を問われてしまうと言う。
冒険者としての生活があり夢もある身としてはこれも飲むしか無かった。
ロッドに生きていて欲しいが状況から考えてかなり厳しい。
ロッドは足も凄く遅い…きっとすぐに
ハルクからも繰り返しそう言われて、それを考えると涙が止まらなくなった。
静かに泣くエミリアを抱きしめるハルク。
エミリアは身を固くしたがロッドを失った悲しさからぬくもりを求めてしまい、すぐに突き放す事はしなかった。
そしてハルクから付き合おうと囁かれて思わず肯定の返事をしてしまった…
ーーーーー
■冒険者ギルドランク補足
ギルドのランクは個人ランクとパーティーランクの2種類がある。
個人ランクは個人での性能とギルドへの貢献度を表し、パーティーランクはパーティーの依頼受注性能を表す。
パーティー指定のある依頼は4人以上のパーティーしか受注できず、パーティランクが高いほど重要な依頼を優先的に受けられるようになる。
重要な高ランク依頼は危険度は高いがその分報酬も高額であるため、基本的には皆が高ランクを目指す事になる。
高ランクの有名パーティにでもなれば指名で依頼が来ることもあり、より高額な報酬が得られる可能性も増える。
〈ギルド個人ランク〉
Sランク…英雄級冒険者
Aランク…超一流冒険者
Bランク…上級冒険者
Cランク…ベテラン冒険者
Dランク…中堅冒険者
Eランク…若手冒険者
Fランク…新人冒険者(←ロッドはここ)
冒険者登録直後はFランクとなり、ギルドの昇格試験を経てランクが上がってゆく。
ギルド貢献度や実力度合により昇格試験で最高3段階まで一気に昇格可能。
Sランクは個別要件あり。
〈ギルドパーティーランク〉
基本的にパーティー案件は4人以上での受注となるため、パーティーランクは4名までの性能を保証する事になる。
(一般的には1パーティーは最大6名までを基本としているが残り2名のランクは問われない)
各パーティーランクの条件を満たす場合、ギルドに申請すれば試験等無く該当パーティーランクと認定される。
基本的に4人以上でないとパーティ案件は受注出来ないが、例外としてソロ↑表記のあるパーティーランクはソロでも該当する以上の冒険者ランクがある場合は受注可能。
(但し厳密な人数指定のある場合を除く)
例)
(パーティーとして
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