2. ドラポンと獣人
王立サンスリン学園。
サンスリン国の王都に位置する若者向け戦士育成学校。
騎士や魔物ハンターといったいわゆる戦闘職を志す少年少女が在籍する。
魔法や武術はもちろんのこと、薬草学や心理学など戦いに少しでも関係することであればあらゆることを学べる学校だ。
その幅広い講義の種類と質の高さゆえ、毎年入学希望者が殺到する。
だがその多くがふるいにかけられ、入学難度は非常に高い。
貴族や金持ちを優遇することは絶対に無く、すでにある程度実力がある者のみ入学を認められるからだ。
唯一の例外がユニークスキルの持ち主。
ユニークスキルといっても一見して戦闘には使え無さそうなものも山ほどあるが、使い方次第でとてつもない効果が得られるかもしれないと考えられており、保護の意味合いもあり無条件で入学を認められている。
「僕はユニークスキル枠で入学出来たんです」
「ポンポコドーン! フレンもユニーク持ちだったんだ!」
「わわ、ぐるじい……」
「ドラポンさん、そこまでにしてあげてください。フレンさんが苦しそうですよ」
「ごめええええええええん!」
全力で抱き着かれて苦しかったのが半分、もう半分は豊満なボディに密着されたことによる照れ隠しである。
現在五人は王都の東にある平原に向かっている。
ハンターギルドのクエストを消化するついでに五人の実力を共有するためだ。
学園でチームとして認められるには『魔物を狩る実力があること』という条件をクリアする必要がある。
そのため、ハンターギルドの魔物討伐クエストを受注したのだ。
「実はオレ達もユニークスキル持ってるんだぜ」
「え? そうなんですか?」
「私以外は、だがな」
マセリーゼ以外はユニークスキルを持っている。
生徒の中でユニークスキルの持ち主は少なくはないとはいえ、五人中四人がユニークスキルの持ち主というのは珍しい。
ごくたまに強力なユニークスキルの持ち主で固めたチームが結成されることがあるが、大抵そのような強キャラは奪い合いになって各チームに分散されるからだ。
「それじゃあみなさん、お強いんですね」
「もっちろん。でもオレはユニークスキルに関係なく強いんだぜ」
「戦闘系のスキルじゃないってことですか?」
「というか、分からねーんだよ」
分からないというのはどういう意味なのだろうか。
ユニークスキルがあるかどうかは、鑑定のスキルを持つ者に見て貰えれば判明する。
鑑定されていなくて『知らない』ならまだしも、持っていることを知っているけれども『分からない』というのは不思議な状況だ。
「鑑定してもらったけど結果は聞いてないってことでしょうか?」
「いやそうじゃねーんだ。なんかオレのスキル読めないんだってさ」
「そんなことあるんですか!?」
「そうなんだよ。何人かに見て貰ったけどみんなそう言うんだぜ」
「不思議なこともあるんですね」
「だな」
しかも謎のユニークスキルがあるからといって何かが得意になったような感覚もない。
正体が分かれば強スキルなのかもしれないが、今のところは意味の無い存在だ。
「でもそれだとスキル欄が圧迫されて大変じゃないですか?」
装着出来るスキルは基本的に三つまで。
その三つの枠にスキルを自由にセットして自分なりの使い方を考えるのがこの世界の人々の在り方だ。
例えば王立サンスリン学園の生徒であれば『回復魔法』『魔法効果増強』『MP自動回復』といったスキルをセットしてヒーラーを目指したり、『剣術』『力増強』『速さ増強』をセットして剣士を目指したりと、自分好みの戦闘タイプを考えながらスキルを選んでいる。
一般人であれば『料理』『計算』『商才』でレストランを営んだり、『農業』『水魔法』『力増強』で農家を営むといった感じだ。
そしてユニークスキルはその三つの枠の一つを使ってしまい外せない。
自由枠が限られることで戦略の選択肢が狭まれてしまうが故、戦闘に使えないユニークスキルの持ち主は学園では敬遠されてしまうのだ。
「全然問題無いぜ。だってオレって一般枠で合格したからな」
「ええ!? 凄い!」
ユニークスキルを持っているにも関わらず一般入試に応募して合格した実力者。
それとは真逆に戦闘能力に乏しいけれどユニークスキルを持っているがゆえに入学出来てしまったフレン。
対照的な二人であったが、フレンの方が普通である。
「その実力を今から見せてやるぜ」
そう言うと、ドラポンは駆け出した。
「お待ちください。ドラポンさん」
「まったく、相変わらずだな」
「まぁまぁ、ドラポンならあの程度の敵なんて余裕だよ」
少し先のゴブリンが五体いるところに、ドラポンは単騎で特攻した。
ホウシェが単独行動を咎めようとしたが、誰も慌てることは無かった。
ゴブリン程度ならばドラポンが遅れを取ることなどあり得ないと信頼しているのだろう。
「す、すごい……」
隠れることなく堂々と接近したためゴブリンは警戒態勢になっていた。
だがドラポンはそんなことは気にせずに、最も近くに居たゴブリンに向けて綺麗な飛び蹴りを喰らわせる。
着地した後も流れを切らさず拳や蹴りを舞うように繰り出し、ゴブリンに一切反撃させる隙を与えずにあっという間に五匹全てを撃破した。
どうやらドラポンは格闘術スキルをセットしているようだ。
雑魚相手だから正確なところは分からないが、洗練された動きから察するにかなり高いレベルで使いこなせている。
その鮮やかな動きに、フレンは目を奪われた。
「格好良い……あんなに可愛いのに」
向こうではドラポンが笑顔でこちらに向かって手を振っている。
たった今ゴブリンを瞬殺したとは思えない雰囲気だ。
戦っている時は格好良かったのに、普段の姿はとても可愛らしい。
「そのお言葉、ドラポンさんには言わないでくださいね」
「え? そうなんですか?」
『格好良い』や『可愛い』という言葉は誉め言葉であって言われて照れ臭くはあっても嫌では無い筈だ。
これまで偶然漏らす機会が無かっただけであって、いつフレンが言ってしまってもおかしくなかった。
「ドラポンさんは『獣人が強い事を証明する』ために学園に通ってますので」
「獣人が強いって、昔みたいにってことですか」
「はい」
現代の獣人の印象と問われれば、百人中百人が『可愛い』と答えるだろう。
男女問わず見た目が可愛く愛嬌のある種族が獣人であり、愛玩動物と揶揄されることもある。
当の獣人達はそれを喜んで受け入れ、愛でてくれる相手に出会えると文字通り尻尾を振って懐いてしまう。
実際、ドラポンも異様なまでに可愛く、フレンはまともに顔を見ると照れてしまう。
獣耳や尻尾もそうだが、単純に顔立ちが可愛さ全振りになっている。
しかも種族特性なのか、愛嬌のあるオーラが全身から出ていて愛でて下さいと魅了の魔法をかけられているかのような感覚に陥るのだ。
「(うう……可愛いって言っちゃいそう。ドラポンさんって普通の獣人さんより可愛いんだもん)」
街を歩いていれば普通に獣人を見かけるが、ドラポンは特別可愛いとフレンは感じていた。
しかもそんなドラポンの露出が多いからドキドキを抑えるのがなおさら大変である。
だが遥か昔の獣人達はドラポンのように可愛さオーラを振りまいていたりはしなかったらしい。
獣の野生を身に宿し、強靭な肉体でもって屈強な軍隊とも言える群れを作って生きていた。
獣人一人が人間百人分の戦力に相当したという文献が残っていたりもするのだが、今ではその面影が全く無い。
その理由は長い時間をかけて普通の人間達と交わるようになり、獣の血が薄くなったことが理由とされている。
身体能力は普通の人間並みに落ち、獣の野生も消え、僅かに残ったのは可愛らしい獣耳と尻尾程度。
誰もが可愛いのは不思議だが、弱くなっても生き抜くための生存本能がそうさせたのではないかと言われている。
ドラポンは現代の愛玩動物として扱われている獣人の姿に異を唱え、獣人は誇り高く強靭な生き物なのだと主張している。
その理由はまだ本人の胸に秘められているが、それが理由で今回の問題が発生していた。
「そのお話、僕が聞いて良かったのでしょうか」
「大丈夫です。ドラポンさんが普段から口にされていることですから。それに、せっかく仲良くなれそうな雰囲気ですので失礼ながら事前に忠告させて頂きました」
「そうだったんですね。ありがとうございます」
進んで地雷を踏まなくて良かったと安堵しつつも、これからも避けられるだろうかと不安な想いを抱きながら、フレンはドラポンの元へと向かった。
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