ユニークスキル『仲間想い』が弱すぎて誰も仲間に入れてくれなかったけれどワケアリ女の子達が拾ってくれたので全力で恩返しします
マノイ
1. 追放と勧誘
「やっぱお前使えねーわ。バイバイ」
「はぁ、時間の無駄だったな」
「フレンのせいじゃない。期待した俺達が馬鹿だっただけだ」
「フレン君、もうこの学校辞めたら?」
「うわああああん!」
こうしてフレンがチームを追い出されるのは今に始まったことではない。
王立サンスリン学園に入学して以降、これまで数えきれないほど追放され続け、号泣しながら校内を走り回る姿は学園の名物となっていた。
「やっぱり僕なんかじゃダメなのかな」
肩を落としてトボトボと歩くフレンに声をかける者はいない。
居たとしても『ダメだ』と断言されてさらに凹むだけなのだが。
「ううん、めげちゃダメ。頑張れば僕だっていつか『あの人』みたいになれるんだ!」
フレンの数少ない良いところはメンタルが打たれ強いところだろう。
学園生にどれだけボロクソに言われようが、何度追放されようが、決して諦めずに前を向いて努力する。
「よし、今日も素振りだ!」
その姿は追放された悲しみを打ち払っているかのようだった。
校舎裏は日当たりが悪くいつもジメッとしており訓練場所として人気が無い。
そのためフレンは一人になりたい時はいつもここで訓練をしている。
だがこの日はいつもと違っていた。
「あれ、誰かいんのか?」
誰も来ない筈の場所に女生徒がやってきたが、フレンは素振りに夢中で気付いていない。
「なぁなぁ、ちょっと良いか?」
「え?」
その子が近くまで来て声をかけたことでようやくフレンは気が付いた。
「(うわ、めっちゃ可愛い! それに服が……)」
全体的に丸みを帯びた獣人の女の子だ。
丸みを帯びたと言っても太っている訳では無い。
くりっとした瞳と頬がぷっくりと膨らんでいるのはいくつかの獣人の種族に見られる特性だ。
体つきはなだらかで曲線が美しく、胸まわりや腰回りも女性らしさを多分に主張している。
獣人定番の獣耳も、丸みを帯びた三角形。
縁が黒く、中が白い毛で覆われていて触ったら気持ち良さそうだ。
そんなまぁるい女の子は、チューブトップのような胸だけ隠すトップスにハーフパンツと肌色たっぷりな服装であり、純なフレンは思わず照れくさくて目を逸らしてしまった。
「ポンポコドーン!」
女の子は謎の叫び声をあげて、逸らした視線の先へと移動した。
「な、何かな?」
肌色に慣れないフレンは言葉を返しながらも再度視線を逸らすが、女の子も負けじと視線の先に移動する。
目を見て話す良い子なのだろうが、少しは遠慮してほしいとフレンは困っていた。
「君って何処かのチームに入ってる?」
グサリ、と胸に短剣が突き刺さったような痛みが走る。
何しろつい先ほどチームを追放されたばかりなのだから。
でもこの女の子はそんなことは知らないだろうし、悪気なく聞いてきたことはフレンにも分かっている。
「ううん、入って無いよ」
だから心の痛みに顔を顰めるのを辛うじて我慢し、自然に答えることが出来た。
上出来であろう。
「ポンポコドーン! それじゃあオレ達のチームに入らねーか? いや、入ってくれ!」
「え?」
突き刺さった短剣がポロリと抜け落ちた。
それどころか回復魔法をかけてもらったかのように楽になる。
こんなにも早く次のお誘いが来るとは思わなかったのだ。
『うん!』
フレンは即答しそうだったが踏みとどまった。
ここで彼女のチームに加入したところで、どうせまたすぐに侮蔑の言葉と共に追放されるだけだろう。
仮に追放されなかったとしても、チームのお荷物として迷惑をかけることになる。
「ごめんなさい」
だからフレンは断ってしまった。
「やっぱり……」
女の子は元気がなくなり、耳が力なくペタンと倒れ肩を落とした。
フレンは罪悪感により再度胸に短剣が突き刺さることになる。
その痛みは、何故女の子の反応が『やっぱり』なのかという疑問を吹き飛ばした。
「僕弱すぎるから、あなたのチームの迷惑になります」
せめて女の子が納得してくれるようにと、フレンは断りの理由を説明した。
するとどういうわけか、女の子に元気が戻る。
「ポンポコドーン! それなら気にしないぜ!」
「え?」
「あ、わりぃ、気にしないなんて言ったら失礼だよな。ほんっとおおおおにごめええええええええん!」
「いや、うん、それは良いんだけど。なんで弱くても良いの?」
これまでフレンを誘ってくれた人達は、フレンに何らかの期待をしてくれていた。
その期待を悉く裏切って来たからこそ追放という結果になってしまったのだけれど、そのことはこの際どうでも良い。
ポイントはこの女の子はその期待無しでフレンを誘ってくれたという事だ。
別段目立ってイケメンという訳でも、貴族の子供というわけでもない。
純粋にその理由が気になった。
「一週間後に練習試合があるんだが、人が足りてなくて……」
なんてことはない、単なる人数合わせ。
人数さえ揃っていれば良いので実力は関係ないと言ったところだろう。
フレンが怒っても不思議ではない。
確かにフレンは弱いが人数合わせの捨て駒にされるなど、なけなしのプライドが傷つけられるからだ。
しかし女の子はフレンの強さを気にしないと言ったことを心から謝罪し、人数合わせであることを心底申し訳なさそうにしている。
それゆえ全く怒る気にはならなかった。
「そういうことなら協力するよ」
「マジで!? 良いのか!?」
「うん、もちろんだよ」
「ポンポコドーン!」
練習試合を見に来た人達に、捨て駒にされたことを馬鹿にされるかもしれない。
でもこの可愛い女の子がそれで助かるのならと、フレンは彼女達のチームに入ろうと決意した。
――――――――
「早く早く!」
「わわ、速いよ、速いって!」
フレンは女の子に手を引かれて何処かに連れてかれている。
その手が力強く振りほどけないことに、フレンは少し悲しかった。
男なのに女の子に力で負けるなんて、と。
「ほらほら、こっちこっち!」
「え、ここって! 待って、待って待って待って待って待って~~~~!」
女の子が進む先がとある建物だと分かったフレンは全力で抵抗した。
それこそ、人生で最も必死になった瞬間かも知れない。
何故ならその建物は『女子寮』だったのだから。
このまま中に入ったら、フレンの人生は確実に終わりを迎える。
必死にならざるを得なかったのだ。
「どした?」
そのかいあってか、どうにか中に入る前に止まってくれた。
「どしたじゃないよ。僕を何処に連れて行くつもりなのさ!」
「何処にって……あ、ごめええええええええん!」
女の子は仕出かしたことを理解し、土下座して涙ながらに謝った。
「ちょおっ! 待って止めて。お願いだから立ってよ!」
だがここは女子寮の入り口付近だ。
そんなところで男が女の子を土下座させている姿なんて見られたら。
「やだぁ、何あれ」
「痴話喧嘩かしら」
「女の子にあんなことさせるなんて最低ね」
となってしまうのだ。
「わわわわ、違う違う! オレが悪いんだ!」
燃え尽きて真っ白になったフレンと周囲の女の子達の反応に気が付いた彼女は慌てて釈明するも、時すでに遅し。
フレンの悪評は女の子ネットワークを介して瞬く間に広まってしまうだろう。
この後、彼女はその火消しに大きく時間を費やすことになるのであった。
「ドラポンさん、どうかなさいましたか?」
その時、女子寮の中から出て来た人物が女の子に声をかけた。
「(メイドさん? 誰かのおつきの人なのかな)」
とても背丈が高い美人さん。
ふわりとウェーブのかかった腰まで伸びる長い髪がとてもボリューミーで目を惹かれる。
柔らかで優し気な笑顔を浮かべているのにどことなく厳しさも感じられる。
足首付近まで覆うロングスカートのシンプルで目立たないメイド服を着ているのに、何故かホワイトブリムだけはフリフリ全開で可愛らしさを主張しているのは彼女の趣味なのだろうか。
年齢的にはフレンや土下座の子と同い年くらいだろうか。
本職のメイドのように見えたので、学園に通っている貴族のおつきの人ではないかとフレンは考えた。
「ホウシェ! 聞いてくれよ、こいつがオレらのチームに入ってくれるってさ!」
「まぁ、本当ですか!」
「そうなんだよ。だからみんなに紹介を……」
「その前に移動しましょう。ここでは皆様の迷惑になってしまいます」
「お、おう。そうだな」
どうやら謎のメイドさんはドラポンと呼ばれた女の子の知り合いらしい。
もしかすると土下座娘チームの一員なのかもしれない。
だとすると何故メイド姿なのかが謎だが。
この学校には侍女もいるが、あくまでも学園生の生活上のサポートをする役割でしかない。
貴族のおつきをしながら学園に所属することはルール上出来ないのだ。
「この時間でしたら教室には誰も居ないでしょう」
今度はメイド娘に連れられて、フレンは教室に移動した。
教室は長い机が段々に設置されていて教壇を見下ろすタイプのものだ。
その教壇付近で彼らは話を再開する。
「それではドラポンさん。そちらの殿方を紹介して頂けますか?」
「おうよ。…………あれ?」
ドラポンはようやく自己紹介をしていないことに気がついた。
チームに入ってくれることがあまりにも嬉しすぎて頭から抜けていたのだ。
「だと思いました。それでは僭越ながら私から。ホウシェと申します。歳は十四で当学園の一年生でございます」
「オレはドラポンだ。ホウシェと同じで一年だぜ。よろしくな!」
「ぼ、僕はフレンです。僕も一年生です」
王立サンスリン学園は十三歳の子供にのみ入学資格が得られ、その後三年間所属して卒業となる。
フレンも十三歳になったのを機に入学した。
ホウシェは入学後に誕生日を迎えて十四歳になったのだろう。
「それでフレンさん。本当に私達のチームに入って頂けるのでしょうか」
「はい」
「そうですか……」
「?」
ホウシェは何故か不思議そうな顔をしている。
フレンが勧誘を断らないことが変だというのだろうか。
最初にフレンが断った時にドラポンが『やっぱり』と、まるで断られるのが分かっていたかのような反応をしていたので、何か関係があるのかもしれない。
「ええと、数合わせのようなものなんですよね。何か問題でもあるのでしょうか?」
答えは二人からでは無く、真横から聞こえて来た。
『ヴェイグに脅されなかったのか?』
「え?」
いつのまにかすぐ隣に小さな人型の金属人形が立っていた。
全身が角ばっていて、直方体の金属を繋ぎ合わせたような形。
高さはフレンの腰ほどまであり、雑に書かれた顔は愛嬌がある。
「あはあは、な~んちゃって」
金属人形が話をしたのではなく、どうやらスピーカーのようなものがついていて遠隔で声を飛ばしたようだ。
金属人形の主はフレンの真後ろに立っていた。
「ふむふむ、君が救世主くんか。ボクはドルチェ、よろしく」
小さな女の子だった。
そして一部分だけが非常に大きな女の子だった。
手足は細いけれど華奢というわけではなく引き締まっており、肌のハリもとても良い。
ドラポン達と比較するとやや幼い顔立ちで可愛らしい系ではあるが、一部の大人びた妖艶な部分とのギャップがたまらない。
半袖の作業着を着てその手にはスパナを持っているので、金属人形を作った人物なのだろう。
「救世主だなんてとんでもない!」
冗談にしてはあまりにも大げさすぎる。
それにたとえ冗談だとしても弱すぎる自分を表現するにはあまりにも不適切な言葉と感じ、思わず強く否定してしまった。
「それがそうでも無いのです」
「ホウシェさん?」
彼女達が何故フレンの加入を救世主だなんて言葉を使うほどに喜んでいるのか。
その理由を説明してくれた。
「実は今回の練習相手はヴェイグのチームなのです」
「ヴェイグ?」
「ご存じないのですか?」
「うん」
そもそもこの学校には友達もいないため、追放された元チームのメンバーやトップクラスの選手くらいしか知らなかった。
その中にヴェイグという名は無かったはずだ。
「ヴェイグは評判の悪い生徒です。そしてそのヴェイグと私共はちょっとした因縁がございまして、練習試合で雌雄を決することになったのです」
「そんな大事な試合に僕を入れて良いんですか!?」
フレンが原因で負けてしまったとなればあまりにも申し訳ない。
「もちろんです。そもそも五人目が見つからない可能性が高かったですので、加入して頂けるだけでも大助かりなのです」
「どういうこと?」
一時的なチームメンバーで良いという話であれば、入ってくれそうな人がいてもおかしくはないものだ。
遺恨試合に参加したくは無いというのは分からないでも無いが、貴重な試合を経験するチャンスでもあるし、彼女達の見た目が良いので下心ありきで入りたがる男子だっていそうなものだ。
「ヴェイグは貴族の息子でして、権力を使って私共のチームに入らないようにと学園生に圧力をかけたのです」
「え!?」
学園内では身分や立場は関係ないとされている。
だがそのルールがあったとしても、そう簡単に割り切れるものではない。
下手に恨まれて卒業後に報復を受けるくらいなら、特定のチームに入らない程度であれば従っても良いと考えてしまうのは必然。
「このままでは不戦敗となるところでしたが、フレンさんのおかげで助かりました」
「そういうことだったんですか……」
何故フレンが圧力をかけられなかったのか。
単なる見逃しか、それとも弱すぎたからか。
「僕は脅されても平気なので安心してください」
家族はもう居ないし、学園内での立場は既に地に堕ちている。
卒業後の進路を邪魔される可能性も無くは無いが、落ちこぼれすぎて邪魔する価値がある程の進路を選べそうな状況でも無い。
フレンは彼女達のチームに入るにはうってつけだった。
「ポンポコドーン!」
「わ、わ、ドラポンさん!?」
感極まったドラポンに抱き着かれ、フレンはあたふたする。
柔らかな感触と女の子の甘い香りでどうにかなってしまいそうだ。
「ドラポンさん、フレンさんがお困りですよ」
「わりぃわりぃ」
フレンは照れながら三人を見た。
ドラポン程ではないけれど、ホウシェもドルチェも嬉しそうだ。
数合わせとはいえ、誰かの役に立てるのは嬉しかった。
「あれ、そういえばもう一人は誰なんでしょうか?」
チームは五人一組だ。
一人だけ足りないということは、もう一人メンバーがいるはずだ。
「そろそろいらっしゃると思います」
丁度そのタイミングで教室の扉が開かれた。
「遅くなって済まない」
そこには学園の制服を着こなした凛々しい雰囲気の女の人が立っていた。
その人をフレンは知っている。
追放された元チームのメンバーではない。
もう一つの方。
「マセリーゼさん!?」
王立サンスリン学園、序列第六位。
疾風のマリーが最後の一人だった。
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