この世界は直線か平行か
茶甲 兜
#1 世界にようこそ
「なぁ、サエキ、平行世界って知ってるか?」
ポテチを貪りながらイイダが聞いてくる。
課題に取り組んでいた俺は手を止める。
「ん?あぁ、理論上では可能性があるってやつね、多元宇宙とか言うよな。急にどうした。」
「いや、この間さ、妙にリアルな夢見たんだよ」
「ゆ、夢?どんなの?」
涅槃像だったイイダはゆっくりと体を起こし、ポテチを貪った手を払い、険しい顔をしながら話しだす。
「それがさ...」
「おい、汚いんだけど。俺の部屋だぞ」
「んぁ?いいじゃんか、大学生の部屋は汚れてなんぼだぞ」
無言でイイダを見つめる。
「でさ、夢ってのが...」
今日の夕飯は焼肉でも奢らせるか。
眼鏡を掛け直し、そんなことを考えながら話を聞く。
まとめるとこんな感じだ。
イイダがいつものように俺の部屋に遊びに来て他愛のない話をしていたらしい。
内容も覚えていたようで、大学どうだとか、単位がやばいとか、美味しいアルバイトがないかとかそんなもん。でも違和感を感じたそうだ。
はっきりと感覚があったこと、俺が眼鏡を掛けていなかったこと、聞いたことのない授業の話をしていたこと、明らかに部屋の雰囲気が違ったこと。
そして、目覚める直前に部屋に見たことのない女性が入ってきたこと。
「よくあるだろ、そんな夢、俺も見るぞ。で、平行世界となんの関係があんの?」
「それがさ、聞いたことのない授業ってのが平行世界の扱い方に関することだったんだよ。調べても存在しない単語が飛び交ってたし、教科書も見た。はっきり覚えてる」
「どうせ、いつも動画で見てるオカルト的なやつの影響だろ?あと明晰夢だったんだろ、それは珍しいとは思うけど」
イイダはそういったオカルト、SFが好きな人間だ。
夢に関しては経験のあること、記憶にあることを引き出して構成してるっていうし、知らない女性も街中で見かけて、知らないうちに記憶してたとかそういう感じだろ。
「だとしてもなんだよ、怖いくらいしっかりはっきりした夢だったんだって!あれ絶対平行世界なんだって!」
こんなに必死な顔してるイイダは初めて見た。
少し怯えてるようにも見えた。
「落ち着けって!わかった、わかったよ。気分転換にさ、焼肉食いに行こうぜ。俺が奢るから。一旦夢のことは忘れよう。それに課題も残ってるし、早く片付けよ、な?」
イイダに奢らせるのはさすがに気が引けた。
残りの課題を終わらせる。その後、馴染みの焼肉屋に行き、イイダが落ち着くのを待った。
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「やっぱ焼肉うっま、毎日でもいけるわー」
調子が戻ったイイダはイイダでうざいが、元気になったのならそれでいいや。
「あんま食い過ぎんなよ、前に吐きかけたんだからな」
「へーき、へーき、米さえ食わなきゃ無限よ」
心配だ、どうせすぐギブだな。
イイダは焼き網に箸を伸ばし、よく焼けたホルモンを掴み、口に運んで行った。俺は口に運びかけたハラミを皿に戻した。
「え...」
「ん?どしたサエキ?」
「お前、ホルモン嫌いじゃなかったっけ...」
「え?そうだったか?うまいじゃん、ホルモン」
俺の記憶違いだっただろうか...。
イイダと大学で会ってから焼肉はよく食いに行ったが、ホルモン注文しても食べたところ見たことなかったし、好きではないと本人の口から聞いた記憶もある。
「あぁ...そう...か...ならいいけど」
「どうした?食べないの?」
俺は首を振って、違和感とともに肉に食らいついた。
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夜も更けた。
俺は住んでいるアパートに足早に帰っている。
結局イイダは吐かずにたらふく食べていった、前と違う。
玄関を開け、6畳の狭い部屋に入り、ベッドに潜る。
「考えても仕方ないか」
眼鏡を外し、そう呟いて眠りにつく。
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夢を見た。
人が見える、2人、何か話している。
2人の前に奇妙な形をしたものが見える。ぼやけてはっきりとしない。
声が聞こえる。俺とイイダだ。
体浮いている感覚、ふわっと。
次にドンっと衝撃、目の前がひどく明るくなる。
次に見えた景色は、どこかの建物。
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