怪人罪

亜未田久志

プロローグ


 心の臓を抉られるかのような気持ちだった。

 友が目の前で死んだ。

 理由はただ一つだと。

 そう告げられた。

「こいつが怪人だからだよ」

「かい……じん……?」

 なんだ、それは。

 俺はそんなもの知らない。

 目の前に横たわるのは俺の友達だ。

 俺は怒りに身を焦がす。

 そんな声に応えるように。

 は飛来した。

「チィ! こちらB班! 第三号確認!!」

「俺の名前は」

『お前の名前は』

「『竜」』

 グロテスクな爬虫人類は目の前の弾丸を、適格に頭部を狙った弾丸を。

 歯で受け止めた。

「ペッ」

「こいつ……一斉掃射!!」

 降りしきる弾丸の雨。

 それら全てをかわしきり。

 B班とかいう人間の群れを駆け抜けた。

 溢れ出る臓物。

 噴き出る血飛沫。

 竜は振り返らない。

 惨劇を背後に友の屍に寄り添った。

「ああ、ユージ……どうして」

『そいつもまた怪人だからだ。そして弱いから死んだ』

「だったら! 俺が守る!」

『それでいい。だがこれだけは肝に銘じておけ、怪人でさえお前の味方とは限らない。何故ならば――』

 何故ならば、俺に埋め込まれたのが竜の心臓だからである。

 全てを焼き焦がす熱の塊。

 審判の日が来た証。

『怪人か、人間か、お前が選ぶんだ』

「……」

 俺は俺の友を殺した者達を許さない。

 俺は俺を害する者達を殺すだろう。

『それでいい。お前が決めるんだ。何を生き残らせ、何を殺すのか。それが最強種である証。食物連鎖の頂点にしてバランサー。それがお前であり、私なのだ』

「俺は俺を殺す者を殺し、弱きを殺す者を殺す、それでいいんだろう」

『分かってきたじゃないか。だがあまり殺す殺すと連呼するな。お前は捕食者なのだ。獲物には敬意を払え』

「勝手にさせろ。それ以上、俺の脳内でぐちゃぐちゃ言うな」

『おお、怖い怖い、己の心臓まで抉る気か?』

「もう抉られた後だ、その跡にお前が来ただけの話」

 友を抱え翼を広げる。

 それはまさしく太古の翼竜に似た羽根であり、彼がまさしく「竜」である事を示した。

「行こうユージ、見晴らしのいいところへ」

 血を流し飛ぶ姿を皆が目撃した。

 人は恐慌し、怪人は歓喜した。

 世界は二分される事になる。

 竜に反意を示す者か、竜に賛意を示す者か、にだ。

 そして竜はどちらにも興味を示さない。

 ただ小高い丘の上。

 友を埋めたその場所で。

 己の敵を待つだけだった。

 たまに怪人が来た。

「ああ、救いの竜よ!」

「俺が……救い?」

 血で染まった俺の手に。

 そんなものがあるはずもない。

「追手がそこまで来ているのです!」

「お前らが弱者なら救ってやる。だけど戦う力があるなら抗え。既にその手が血に染まっているのなら……俺が殺す」

「こちらC班! 目標補足! 現場『竜の丘』!」

「さぁ、お前らはどっちだ?」

 これは惨劇の物語。

 救いも無ければ。

 許しも乞わない。

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