第6話 探索者登録
「ふはは! 飛べる枕があれば何も怖くない!(かもしれない)」
そんな事を叫びながら下を向いていると、ゴブリン四体の群れと遭遇した。
一体が私を見上げ、叫ぶ。それに寄って他のゴブリンも気づく。
空を飛んで居る私に死角は無い。
無いと思っていた時期が数秒前までありました。
「ヒノ外に向かって猛飛行!」
高速で出口へと向かって行く。
弓矢を持っていたゴブリンが矢を放って来たのだ。
ヒノを盾にして塞ぎ、そのまま出口まで飛び去る。
出口のゲートを潜って外に出る。
「都会の空気がここまで美味しいとは」
地面に降りて、家に帰る。
リビングに電気が灯っており、時間は既に零時を超えていた。
成果もゼロ。
「鍵⋯⋯開いてる」
家の中に入るとリビングから声が掛かって来る。
ヒノをポッケにしまい、向かうと母親が居た。
「こんな時間まで何処に行っていたの」
「ちょっとコンビニ」
机をダンと叩き、私はビクッとする。
「こ、ん、な、じ、か、ん、ま、で、何処で何をしていたの!」
「ごめんなさい」
「別に怒ってないのよ。ただ高校生が勉強もせずにこんな時間までほっつき歩いているのが心配なだけ」
私は尻餅を着いて、母親は私の頭を掴んで来る。
そのままぐしゃりと髪の毛を掴んで来る。スキルのお陰で痛みは感じない。
「図書館とかそんな答えは無しよ。こんな時間まで開いてある訳ないから。で、何をしていたの? 正直に言いなさい」
ダンジョン探索をしていました⋯⋯なんて言えない。
そんな事言ったらどうなるのか予想出来るから。
「ごめんなさい」
「はぁ。学校以外での外出を禁止します。しっかり反省しない。ご飯は決まった時間に置きます。良いですね?」
「はい」
私は母親に逆らう事が出来なかった。そう体に染み付いているから。
後悔の連続だ。妹とお父さんと一緒に行けば、こんな苦労と恐怖を味わう事は無かっただろう。
朝食の時間は七時、母親は12時に食べる様に指示を出して昼食を用意した。
おにぎり二つと150ミリリットルのお茶だけだ。
母親と父親は仕事が休みで、夜までパチコンに行くだろう。
私は部屋で勉強⋯⋯しない。これが私の小さな反抗だ。
「ヒノ、行くよ」
靴をヒノに取って来て貰い、窓から外に出る。
二階から飛び降りても問題ないくらいにはレベルの影響が出ていた。
「まずは探索者登録か」
それを発行しないと売りも出来ないし武器も買う事が出来ない。
役所に向かう。流石にヒノは目立つから使わない⋯⋯選択肢は無かった。
公共交通機関は金が掛かるので節約の為だ。学校までなら定期が使えるのだが。
生憎、役所はその辺に無い。
人気の無い所で降りる。
役所に入り探索者登録を行う。
スキル等の開示はしなくても良いが、ある程度の強さは必要らしい。
模擬戦だ。後は軽めの講義を受けて完了だ。
模擬戦用の武器を借りれる。だが、私は何もかも未熟だ。だって高校生だもん。
扱った事があるのは短剣だけで、しかもヒノの協力有りきだ。
さて、どうなるのやら。
「ほう。薙刀か」
「よろしくお願いします」
学校のジャージで来ているので、学校がバレてしまう。
だが、これ程運動に適した服を私は知らない。ついでに持ってない。
「それでは、始め!」
審判の宣言と共に私は走る。そして、自分の足に足を引っ掛け転ける。
見事の転けっぷりに強さを測る模擬戦相手も硬直しておる。審判もだ。
私? 恥ずかし過ぎて立てない。だってさ、結構真面目な顔をして走ったんだよ? それを転けるって、無いわぁ。
静かなテストの時間にオナラとか、音を出してしまったくらいに恥ずかしいわ。した事無いから適当に言ってるが。
ヒノで飛んでの移動をメインにした結果だ。運動音痴とかでは無い。決して、そうでは無い。そう思いたい。
「⋯⋯いや。不合格だな」
相手が木刀を振り降ろそうとする。地面に平伏す私は格好のカモだろう。
「私はどんな手を使ってでも勝つ」
「ん?」
ヒノがポッケから小バエサイズの状態で目を突撃した。
「ぬ?」
「転けた所を狙うのがありなら、『たまたま』目が痛くて閉じた所を狙うのもありですよね?」
長いリーチを活かして相手の首に向けて木製の薙刀を突き付ける。
相手は両手を上げて、宣言する。
「合格だ」
「良し」
「じゃ、二時間くらいの講義を受けて行くように」
「に、二時間も」
二時間後!
探索者ライセンスを手に入れて私は帰還した。
おにぎりをゆっくりと噛み締めながら食べ、お茶を飲む。
「ヒノのスキルは増えてない⋯⋯複数のゴブリンに勝つにはやっぱり武器がなぁ」
私の全財産でも木刀すら買えない。
ダンジョンで武器を入手したい。そうなると、やっぱりまだあまり探索者が来てない家の前のダンジョンが適切なのだ。
もっと奥に行くしかないか。
「6時には戻らないと。制限時間は5時間、片道の探索を三時間で、帰りを二時間でやる」
ヒノにそう言う。枕に話し掛けるとは、本当にシュールだ。
「行きは探索メインだから、ゆっくり飛行。帰る時は速攻だ。帰る時は諦めて君に座るとする」
右回転してくれたので、早速向かう。
モンスターを倒すのは後回し⋯⋯狙うは宝箱、武器だ。
◆
「登録試験で負けたって?」
「ああ」
「珍しいな。そんな良い逸材が居たとは」
模擬戦で負ける事は基本的に無い。何故なら、そこには力の差が大いにあるからだ。
試験官が負けると言う事は、その相手が初期スキルに恵まれていたか強力なユニークスキルを持っているか、などと色々な理由が浮かぶ。
それは本当に稀であり、才能だ。
だが、訓練官は世羅に対してそんな才能の光は見い出せていなかった。
(俺の目が曇っていたか。あの転けたのは演技で、俺の油断を誘った⋯⋯だが、あれは本当に演技だったのか?)
訓練官はとにかく悩んだ。
油断したのは確かに悪い。だが、それ程までに世羅が転けた姿は滑稽だったのだ。間抜け過ぎた。現実味があった。
「どった?」
「いや、その、そんな強くは感じなかった」
「は?」
「刃を交えなかったから、具体的な強さが分からない」
「なんで負けたのさ」
「相手が盛大に転けて」
「え、まじ? あんな平坦な訓練場で転けるってマジ? やば。面白」
「そして『不合格』と言って剣を振り降ろそうとしたら」
「したら?」
「目に何か入って、その隙を突かれてな」
「ほーん」
「そんで、大まかまとめるが、こう言われたんだ。『転んだ所を狙うなら、目を瞑った瞬間狙うのも問題ないだろ』って」
「あはは。プライドが」
「本気を出せば負けなかった」
「言い訳か? つか、アカンだろ」
「学校のジャージを着た女子がなんでわざわざ探索者に成るのやら」
「女の子だったの! 俺に代われよ!」
そんな話を無視して再び考え込む。
何回も経験した模擬戦を思い出す。
「お前さぁ。そう考えて他の人の奴に出てさ、手加減せずに倒したらダメだぞ?」
「そこは気をつけるさ」
「俺達はあくまで最低限の力量を測る役目なんだから」
「あぁ。だが、あの女には最低限の力はあったのだろうか? 負けたから合格にしたが。くそう」
「めっちゃ悔しがってるやん」
「俺が女子に負けるなんて」
「男女差別になり得るから発言には気を付けろ。俺らは公務員でもあるんだぞ〜」
「だな。うっし、飯食うか!」
「奢りか!」
「割り前勘定」
「割り勘かぁ」
「正確には自分の分は自分で払って貰う」
「ちぃ」
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