いじめられっ子の陰キャJKは自分を変えるため、ダンジョンに挑む〜底辺弱者は枕とレベルアップで強者へと駆け上がる〜

ネリムZ

第1話 きっかけ

 人生なんて後悔の繰り返しだ。だが、それを乗り越えてこその人生である。

 そして、人生には大きな転機が訪れる時がある。

 そう、今の私の様に。


「さぁ、選ばれし勇者の一人よ! 来る最悪に備えよ!」


「⋯⋯興味無い」


「⋯⋯⋯⋯は? え、は? 勇者に選ばれたのに?」


「勝手に選ぶな私の意見をきちんと反映した上で聞け」


「いや、でも。でもさぁ。世界が滅ぶかもしれないよ?」


「良かったな。皆一緒に消えるってよ。何も残らないならそれまでだろ」


「支配されるかもしれないよ?」


「そん時は戦う。だけどさ。それって憶測でしょ? そんなんで戦うバカは居ないよ」


 そう言って私は踵を返した。隣を飛ぶ枕を見ながら。


「⋯⋯このダンジョンの事を隅から隅まで教えよう。金になるアイテムがあるかもしれないよ」


「私はきっとそう言うバカなんだな」


「⋯⋯」


 ◆


「ほら七瀬ななせ〜何時もみたいに金貸してよー」


「もう無理です。お金ありません」


 私は七瀬世羅せらと言う。良くあるいじめられっ子だ。笑え。

 皆は世の中の事をどう思っているのだろうか。

 とても知りたい。


「七瀬ちゃんよぉ。金貸してくれないなら、少し殴るけど良い?」


「止めてください」


「どうする、美波、花美〜」


「え? そりゃあ殴るでしょ。最近新しい殴り技覚えたんだよねぇ。自慢したるわ」


「お、良いね。美波のパンチ見たい!」


「僕も〜殺すなよ〜」


「分かってるって。そんじゃ、七瀬、しっかり防御しろよ!」


 漫画で見る防御スタイルを取っても意味が無い。

 少し痛みは和らぐが痛いモノは痛い。


「ほらほら。もっと叫べよ〜!」


「止めて、ください」


 骨が折れそうだ。

 折れないように手加減はされているだろうが、嫌な音が鼓膜を震わせる。

 相手の顔が良く見えない。

 違う。私は随分前から人の顔の判別が出来ない。


「そりゃあ!」


「ガフッ」


 溝に入ったッ!


 吹き飛ばされ、地面を転がる。


「ゴホゴホ」


 息が上手く出来ない。

 目が霞む。

 それでも相手を見るが、三人の笑みはとても最悪だった。

 羽織、美波、花美の三名。合わせて、クソサン(適当)と呼んでる。

 先生に訴えても意味が無い。この三人の親は巷で有名な企業の社長なのだ。

 この三人は勝ち組、私は負け組。


「これがレベル12の力か。軽く殴ってるのに人が軽い軽い」


「美波もう二桁のレベルなの? 早いね〜」


「まあね」


 レベル⋯⋯もしもそれがゲームの話ならどれ程良いのだろうか。

 このレベルと言うクソ概念はリアルで起こっている事だ。


 帰路に着いた。

 なんで私だけここまでボコボコにされないといけないのだろうか。


「痛い」


「大丈夫世羅ちゃん!」


 私の背後から声が掛けられる。

 その声はとても聞き覚えがある。いや、寧ろもう面倒に感じるくらいに聞いた事のある声。

 滝宮たきみやである。幼馴染でイケメンの人気者(らしい)。

 彼のレベルは知らん。スポーツ万能(知らんけど)。

 スポーツの際は特定の道具を付ける事前提で行う。

 詳しい事は知らなし興味が無い。


「世羅ちゃん。何時もボロボロだよね」


「うん。何時もと同じ様に同じ場所で同じ風に転けたんだ。ほら、私って丈夫だからね。こんな風に平気だよ」


 あークソ痛てぇ。今すぐにでも叫びたい泣き出したい。

 でも、親に言われても面倒なので我慢だ。

 頑張れ私。無理矢理でも笑顔を作れ。


「そんな無理しなくて良いよ! お、俺に出来る事があったらなんでもするから、なんでも言ってよ!」


「ありがとう滝宮君」


「兄貴達も居るし、貴音たかねって呼んでよ。幼馴染なんだし、呼び捨てでも良いし! 寧ろ呼び捨てが良い」


「そっか。ありがとうね貴音君。でも、大丈夫だから。もうすぐ野球の大会でしょ? しっかりレベルが無い体に慣れておきなね」


「そんなのは大丈夫だよ。練習も頑張ってる。世羅ちゃんはマネジャーとか、興味無い?」


「超無い」


 既に十月と言う秋の中旬。最近はとても冷えている。

 今は電気では無く魔力と言うのをエネルギーにしており、環境汚染も昔と比べてだいぶ落ち着いている。

 お陰様で寒い。


 穴だらけのボロボロなマフラーを口元まで上げる。


「寒そうなら俺のコート⋯⋯」


「良いよ。洗濯も面倒臭いし。それじゃあね」


「うん。また明日」


「そうだね。また、明日」


 私達の家は隣同士だ。


 家に入る。家には誰も居ない。

 妹はパパの所でお世話に成っている。今思えば、私もそっちに行けば良かったと思ってる。

 情に負けた私は負け組だ。


 家に入って、まずは雨水を浄水した水にタオルを浸して、体を拭く。


「痛い痛い!」


 傷口に染みる。超痛い。


「はぁ。もうヤダ」


 毎日カツアゲ、出来ないならサンドバック、隣同士だから社交辞令で会話をする幼馴染!

 全部全部全部面倒臭い!


「いっつ」


 八つ当たりで壁を蹴ったら爪が深く当たり、めっちゃ痛かった。

 物に当たると罰当たる。


 パシャに着替えて、部屋に向かう。

 ベットにゴロンと転がる。


「はぁ。唯一の癒しはベットだよ」


 枕に蹲り、今日の愚痴を言う。これが日課だ。


「今日もクソサン達が殴って来たよー超痛かった〜。人気者の幼馴染の隣人のえっと、貴音だぁ。アイツのくだらない会話を平常心で耐えたよ〜褒めて褒めて〜。なんだよなんでも頼ってねって! 偽善者がボケガッ! 頼って何に成るんだよ! お前もイジメられたいのかアホ!」


 そんな愚痴を言っていると、眠気に誘われて、目を瞑る。

 なんだろうか。今だけはとても健やかだった。

 もう、このまま死にたい。


 目が覚める。


「もうこんな時間。両親が帰って来る」


 はぁ。


「あれ、枕ってこんなに大きかったけ?」


 なんか体全体を乗せれるレベルで大きく成っている。


「⋯⋯夢か。もう一度寝よ」


 だが、枕が無い。

 ベットの下!


「ない!」


 タンスの中!


「ほぼ空。そしてない!」


 それからも色々と探すが、どこにも無い!


「私の枕どこ行ったああああ!」


 あった。

 枕、ありました。目の前に。

 今私は立っており、窓側を向いている。目の前にあると言う事は枕は浮いてり、まぁ取り敢えず自分で動いているのだ。


「なにごと? ⋯⋯ウィンドウ」


 ピロン、と音が鳴って半透明のウィンドウズ画面が開く。

 これは全人類共通で開ける自分の力が閲覧出来るモノだ。


 ◆

 七瀬世羅

 レベル:1

 スキル:【神器保有者】【痛覚耐性Lv4】【精神耐性Lv6】

 ◇


 なんかスキルが増えている。

 私はウィンドウを操作して新しく増えたスキルを確認する。


 ◆

 神器保有者

 神器と契約して保有している人に与えられる称号でありスキル。

 神器が奪われる事は絶対に有り得ない。

 ◇


「神器? 部屋にはそれらしい⋯⋯お主か枕よ」


 枕は通常サイズとなって居て、フラフラ動いている。

 そうですよって言っているみたいだ。

 私は枕に触れて、ウィンドウズ画面をスライドさせる。


 ◆

 神器:無名(枕)

 所有者:七瀬世羅

 レベル:1

 スキル:【破壊不可能】【自由移動】【自由意志】【回復魔法Lv1】【催眠術Lv1】【睡眠回復】【サイズ変化】

 ◇


「夢かぁ」


 ボブっとふかふかの枕に叩かれた。

 痛くないけど、何故かツッコミを入れられた気分で複雑だ。


「なんで神器に⋯⋯まさか!」


 私はカーテンを開けて道路を見る。

 家の対面にはダンジョンに繋がるゲートがある。


 ダンジョンとは、ダンジョンだ。

 モンスターが居たりアイテムがあったり。

 命を掛けて戦いアイテムを売れば金が手に入る。

 現状成りたい職業ランキングで探索者が堂々のナンバーワンになる程だ。


「神器って事は、強いよね? もしも、ダンジョンで稼げる様に成ったら⋯⋯」


 初期からユニークスキルも戦えるスキルも無かった私は関わらない世界だと思っていた。

 だけど、もしも、もしもダンジョン探索が出来てレベルが上げれるのなら、今の私を変えれるのかもしれない。

 それだけじゃない。この生活からも抜け出せるかもしれない。


 両親は帰って来ており、下から騒ぎ声が聞こえる。

 喧嘩だ。

 何時もそう。互いの人格否定をして、そして流れ弾が私にも飛んで来る。

 両親が居る時は一階に行ってはダメだ。

 それがこの家で生き残る為の自己流ルールだ。


 母、義父、そして私が今のこの家族だ。

 そして、両親共にギャンブル中毒者である。


 この世は理不尽だ。

 力がはっきりと『レベル』や『スキル』で分かる。

 だけど、今の私は新たに手に入れたスキルがある。

 これはきっと、変わるチャンスだ。


「行こう」

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