My Name Is Kumi ~目指せ 教科書脱出~体験版

ケーエス

Lesson1

 今日もHelloから生活は始まる。▼


 Kumi「Hello! My name is Kumi.」

 Tom「Hello! My name is Tom.」

 Kumi「Nice to meet you!」

 Tom「Nice to meet you too!」


 そう、なんてことのないたわいもない、定まった会話。

 これが当たり前だと思ってた―― ▼



 ――Lesson1「Hello!」――




 中学校 教室 


 Tom「なあ、おかしくないか?」

 Kumi「何が?」

 Tom「なんか、俺たち前にも会ったことがある気がするんだけど」

 Kumi「そうかなあ」

 Tom「この会話もしたことある気がする」

 Kumi「何言ってんの? 私たちは4月に出会ったばかりでしょ」

 Tom「笑いごとじゃないんだよ。本当にさあ、まるで誰かのために繰り返されているような気がするんだよ!」

 Kumi「ちょっとみんな見てるからやめてよ」

 Tom「いや関係ねえ」 ▼


 Tomが隣の男子生徒を殴った。でも不思議なことに男子生徒には傷一つついていない。それどころか男子生徒は特になにも言わず、他の生徒と会話を始めた。 ▼


 Tom「な、変だろ」

 Kumi「ど、どういうこと?」

 Tom「つまりだな、この世界のシステムは――」▼


ウィンィンィンィンィン――。

 

 その時、サイレンが鳴った。避難訓練の時に鳴るようなものじゃない。もっと恐怖を搔き立てられるような、不穏な何かが波のようにじんわりじんわり伝わってくるような気持の悪さを感じる音だ。こんな状況なのに他の生徒が仏像のように微動だにしないのもより一層不気味さを感じさせている。そして実際それはやってきた。 ▼


 Tom「Kumi、逃げるぞ!」

 Kumi「逃げるって何?」 ▼


 戸惑う私の前に現れたのはスーツ姿にサングラスをかけたいかにもと言った感じの屈強な男たちだった。

 man 1「そうはさせない」

 man 2 「直ちに例文に戻ってもらおう」

 Tom「くそう!」

 Kumi「ど、どうすればいいの?」

 殴ってくるのだろうか。Kumiは後ずさりした。前にいるTomは喉仏が上下している。しかし、男たちは、

「Nice to meet you!」

 と言ってきた。いつもの会話だ。トムは無意識に、

「Nice to meet you too!」

 と言った。すると男の口から何かが発射された。次の瞬間、見事に彼は「Lesson1」と書かれた帯で縛られてしまった。

 Tom「ぐはあ」

 Kumi「Tom!」

 Tomは輪ゴムでまとめられた鉛筆みたいに転げ回った。▼


 どういうことだろう。会話に返答したら縛られた? 「Lesson1」って何だ? Kumiの頭の中がいっぱいになる。 ▼


 Man1 「Hello! Kumi!」

 今度はkumiに男が話しかけてきた。

 Kumi「Hello――」

 Tom「ダメだ!」

 いつも通り返そうとしたKumiをTomが制した。

 Kumi「なんでよ!」

 Tom「例文通りに答えたらダメだ! なんか別のことを言うんだ!」

 Man1「余計なことを……」

 Kumi「Ah……」▼


 別のこと? 挨拶に対して? Kumiは必死に考えを巡らせた。それは暗闇の中で道を探すようなものだった。無視する? いやそれじゃ何も言えてない。関係のない話をする? いや何を、あ! Kumiは光の出口を見つけた。▼


 Kumi「Good Bye! Fuck You!」

 挨拶に対してさよなら〇ねという人間はさすがにいないよね? 絶縁間近のカップルならあるかもしれないけど。Kumiはじっと男を見返した。 ▼


 Man1「What?」

 するとKumiの口から何かが飛び出た。その何かは、たちまち話しかけてきた方の男の胸に突き刺さった。「Eroor」と書かれた槍だった。

 Kumi「嘘……」

 男は膝立ちになってうつ伏せに倒れた。あっけなかった。自分のしたことがよくわからない。私が言葉でこの人を?

 Tom「Kumi! 危ない!」

 見ると、もう一人の男が詰め寄ってきている。とんでもない形相だ。とても子どもに尋ねているとは思えない。男が口を開いた。

Man2「How are you?」

 Kumi「I'm f――」

しまった。このままでは――。

 Tom「She is sick!」

今度はTomの口から槍が放たれ男に突き刺さった。2人目もパタンと倒れた。 ▼



 茫然と見つめていたKumiに、Tomは

 Tom「何してる! とっとと逃げるぞ、早くほどいてくれ!」

 と呼びかけた。

 Kumi「ああ、ごめんなさい」

 KumiはTomの帯をほどいた。

 Tom「ふう、楽になった。サンキュ」

 Tomはのびをした。

 Kumi「これは何なんだろう」

 TomはKumiの持っている帯をのぞきこんだ。「Lesson1」という文字だけが書かれてある。

 Tom「Lessonってあれだろ、英語の教科書に書いてあるやつだろ。第一章とか書く代わりに」

 Kumi「つまりどういうこと?」

 Tom「察しが悪いな君は。俺たちはLesson1の世界にいるってことだ」

 Kumi「Lesson1の世界?」 ▼


 Tomはプレゼンでもするかのごとく、その場を歩き始めた。 ▼


 Tom「ああ、はっきり言おう。この世界は教科書――」 ▼


 ウィンィンィンィンィン――。

 またサイレンが鳴った。

 Tom「くそう! 今度はなんだよ」

 Kumi「きゃあ!」

 2人はその光景に絶句した。今まで微動だにしなかったクラスメートたちが一斉に立ち上がったのだ。

 Tom「Kumi!  逃げるぞ!」

 Kumi「うん!」

 Tomが勢いよくドアを開けた。

Kumi「どっちがいい?」

Tom「言ってる場合か!」

2人は廊下をひた走った。振り向くとクラスメートたちが巨大な波のように押し合いへしあい追いかけてきている――。 ▼



 ―― 一方、こちらはモニタールーム。複数のモニターの前には真四角のテーブルと5つの席がある。4人の人間と一匹のウサギが座っている。 ▼


 ウサギ?「とうとう気づかれてしまったんだね☆」

 饒舌な男「いやいや、気づくの遅すぎますよ。グリット様の運営は完璧ですからねえ」

 新聞を広げている男「そうですなあ」

 ヘッドホンをしている女「……」

 モニターをいじっている女「ちょっと、何でみんな呑気なの? グリット様、どうするんですか?」

 グリット「そうだね☆」

 グリットはゆっくり立ち上がった。このウサギ、二足歩行ができるらしい。

 グリット「死ぬまでたっぷり楽しませてもらおうよ!☆」

 グリットはニヤリと笑った。 ▼


 Lesson1 Cleared


 ――体験版で遊べるのはここまでです。続きは製品版でお楽しみください。



 ・例文通りになってはならない――部活動、道案内、銀行強盗、2人は次第に常軌を逸する行動を起こさなくてはならなくなって?


 ・4技皇に打ち勝て! リーダル・リンス・ライラ・スピークス


 ・教科書脱出のカギ――グリットとは?



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