ヤンママ達が絶対勝つ究極のラブコメ
なるとし
第1話 事件は突然起きるものだ
事件は突然起きるものだ。
消防士である父が火災現場で人たちを救うべく燃え盛る建物の中に入り、全員救出して、自分はその尊い命を失ったという悲劇であり祝福。
今、その父の一人息子である工藤憲一の目の前にも高層ビルの一部が炎に包まれている。
学校が終わり、宿題を終えて、ジョギングでもするべく家を出た彼が目にした光景は事故現場だった。
消防隊員は来てないので、おそらく火事が起きてからそんなに時間は経ってないはずだ。
「誰か助けて!中に人がいます!」
ある女性が燃えているビルの一角を指差して叫んでいる。
ビルの前に集まった人たちは老若男女問わずただただ呆然と立ち尽くし、このものものしい光景を見るだけだった。
だとしたら……
もし憲一が普通の家庭で生まれた人であれば、119番に電話をかけて早く来てくださいとお願いするのはやっとだろう。
だが、彼は……
彼の父さんはいつも口癖のように言ったのだ。
『よく聞けよ憲一!人はみんな例外なく尊い存在だ。だから、もし、助けを求める人がいれば、その人を助けるんだぞ。でも、助けたという事実を鼻にかけて傲慢になるのは絶対あってはならない。わかったかい!わかったら人を助けられる体力を作るための筋トレだ!』
そう。
父は憲一にとって本当にいい人だった。
いつも彼を愛してくれて、母を愛してくれた。
幸せな家庭を作ってくれた。
だから、父への恩返しがしたい。
そう思う憲一は今は天国にいる父さんを見るようにお月様を一瞥したのち、目を瞑る。
よくみてくれよ。父さん!
と、彼は目を開けて、火に包まれている高層ビルの中に走って行った。
周りの人たちは彼をみて驚くが止める人はいない。
彼はものすごい勢いで階段を上がり、やがて火事が起きているところに辿り着いた。
ここはレストランで、天井が崩壊し、入口が塞がれている。
もしこの中に人がいるのなら、生き残る可能性は極めて低い。
そう思う彼だが、細マッチョの鍛えられた彼の瞳は目の前の火なんかよりも熱い。好きな女の子に告白して断られた時は全てを諦めたかったが、こういう時の彼は、諦めを知らない高校生男子である。
「絶対生きて母さんのいる家に帰るからな……」
そう口にした憲一は
塞がれているドア目掛けて全速前進!
すると、塞がれたドアが壊れ、中が見えてきた。
そこには一人のドレス姿の美女が佇んでいた。
彼女は最初こそ絶望に打ちひしがれた表情をしたが、憲一を見た途端に希望を見つけた人のように目を潤ませる。
長い黒髪を靡かせ、端正な目鼻立ち、そして、いかなる宝石よりも美しい赤よりのマジェンタ色の瞳。気を抜くとつい見惚れてしまいそうになるほど、眼前の女性はとても綺麗だ。
そして何より……
爆がつくほど巨大な全てを包み込んでくれそうな二つの軟肉からは大人の雰囲気が漂っている。
外見だけじゃ20代半ばとった感じだろうか。
とにかく、助けに来た憲一を惑わせるほど、彼女は品があり美しかった。
だが、憲一は邪念を取り払うべく、頭を左右に振り、彼女に話かけた。
「助けに来ました。早くこちらへ」
差し伸べられた手。その手と腕には、さっき、ドアを開けた際にできた傷が見えており、その傷口から血が出ていた。
このまま、彼のところに行けば自分は助かると思う彼女だが、どうやら体が自分の思いのまま動かないらしい。
微動だにしない彼女の反応を変に思った憲一が小首を傾げた。
「私……緊張して体が動きません……」
という、彼女。
レストランの中の火は刻一刻と自分達のところに迫りつつある。もし、ずっとこのまま立っていたら、また壁が崩壊して、二人とも完全に閉じ込められる可能性すらある。
だから憲一はすぐ行動に走った。
彼女のところに近づき、彼女をおんぶするために腰をかがめてきたのだ。
「どうぞ!俺がちゃんとあなたを守りますので!」
「っ!」
彼女は憲一の真剣な眼差しに圧倒された。
ただ単に自分を守るための強い意志が伝わる面持ち。
下心など見えない透き通った瞳。
初めてみる彼に、彼女の
お腹が反応した。
彼女は顔を赤らめてごくっと頷き、自分の体を全部憲一に委ねる。
彼の首に腕を回し、自分の巨大な胸とお腹は彼の広い背中に密着される。
そして、まだ鮮血がしたたれ落ちる憲一の腕は彼女の太ももあたりを抑えており、彼の逞しい手は、彼女のお尻あたりをガッツリと掴んでいる。
「ちゃんと捕まってくださいよ」
「っ!はい……お願いします」
そう言って、憲一は凄まじいスピードで走り出した。
憲一の心の中には三つの考えしかない。
この人を助ける。
父との約束を守る。
母さんの所に帰る。
この強烈な想いを胸に憲一は後ろの彼女を落とさないと言わんばかりに彼女を強く自分の背中に寄せて突き進む。
階段を降りて、入口が見え始めた頃、憲一は彼女をゆっくりとした感じで降ろした。
「歩けますか?」
問われた彼女は、ビルの入り口付近から聞こえてくる人々の声を聞いて、安堵したように胸を撫で下ろして、ドレスから伸びる真っ白な美脚を動かす。
「う、動きます……」
「よかった!」
「っ!!!」
汗を手で拭って笑う彼の横顔を見て彼女は下半身をひくつかせてモジモジする。
自分の命を助けてくれた恩人。
ちょっと幼げだが、さっき見せた行動はどんな男よりも立派で、勇敢で、とても格好良かった。
だから、お礼を言わないといけない。
そう思って口を開こうとしたが、
「それじゃ、俺はこれで!」
「え?」
「気をつけて帰ってください!さようなら!」
「ちょ、ちょっと!?待って!」
目の前の彼は、優しく微笑んでから、踵を返し、走り出す。
一瞬の迷いもなく自分から遠ざかる彼。
その潔さに彼女は呆気に取られるのだった。
だが、
やがて彼女は口をキリリと引き結び、綺麗な自分の赤に似たマジェンタ色の目で彼の背中を捉えた。
「はあ……」
と、色っぽく息を吐いて、切ない表情をする彼女の目は、
色褪せている。
追記
みなさんこんにちは!
新作です!
ファンタジーも近々発表しますので、よろしくお願いします!
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