「自殺者の聖なる夜」
ツヨシ
第1話
欧米ではクリスマスの夜に自殺者が一番多い。
そういう統計がある。
欧米では日本のようにカップルが中心のイベントではなく、家族が中心のれっきとした宗教行事だ。
だからほぼすべてのキリスト教徒が参加する。
そんな日に自殺者が多いとは。
でもわからないでもない。
心に寂しさや孤独を抱える者は、まわりがにぎやかであればあるほど心の中の寂しさや孤独が増すのだろう。
鬱に鬱を重ねることになるのだ。
では日本ではどうだろうか。
俺にはよくわからない。
よくわからないが、俺は自殺者が少しでも増えることにかけてみた。
俺はいそいそと車に乗り込み、走らせた。
今夜はクリスマスだ。
キリスト教徒の少ない日本でもあちこちでイベントが行われていて華やかだ。
そんな街をはなれて俺は山へ、海へと車を向かわせる。
家から一時間ほど走ったところに崖がある。
それなりに高い崖で、崖の下は岩場でその先が海になっている。
たまにではあるが、ここでは崖から飛び降りて自殺する人がいるのだ。
実は俺は子供の頃からなぜだか自分でもよくわからないのだが、人が自殺をするところを見たくて見たくてたまらないのだ。
抑えることのできない、どうしようもない衝動だ。
しかし当然ながらそんな機会は極めて少ない。
もうとっくに三十歳を超えたが、そんなものは今まで一度も見たことがなかった。
しかし今日、クリスマスの夜ならば、わずかながらもその確率が上がるのではないかと淡い期待を抱いて、ここにやってきたのだ。
適当なところに車を止めて、崖に向かって歩く。
あたりを見まわし、人が飛び込みそうなところの目星を付け、それが見える岩陰に身を隠した。
付近には街灯の類はいっさいないが、今夜は雲一つない晴天で、空気の澄んだここでは空には満天の星が見える。
おまけに嬉しいことに、絵にかいたような満月だ。
目が慣れればこの暗闇でも少しはまわりが見える。
俺は岩陰で待った。
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