実(まこと)

「そんじゃホームルームを始めるぞ~。委員長、号令~」


「起立、礼」

「「「おはようございます」」」

「着席」


「んー、おはよう。ふああああ。やばい、眠い」


「何かあったんですか」


「ネット小説読んでたら、気が付いたら朝の三時。昨日は三時間しか寝てない」


「「「……」」」


 寝ぐせも整えないまま、眠たげな眼で教室に入ってきたのは、このクラスの担任、三浦つよし。数学の教師でもある。言動からも分かる通り、教師らしさとは無縁の先生である。

 そんな先生が何故担任を持つに至ったかというと、効率のいい勉強法やそれを活かした進路指導が凄く為になるかららしい。「如何に楽して現役合格するか」に特化した先生なのだ。


「連絡事項は特にないな。あ、もうすぐ中間試験だな。しっかり勉強するように。特に推薦入試を受けるつもりがある人は、しっかりいい点取れよ。また、その気が無い人も、万が一赤点を取ろうものなら、三者面談が待ってる。赤点を取らないためにも、しっかり勉強するように」


 おや? 珍しく先生らしいことを言っているぞ。


「三者面談、すっげー面倒だからな。ほんともう、保護者の前で『あなたの子供は勉強をサボっています』って言うのは、マジで胃がキリキリすんだよ……。頼むから赤点だけは取るんじゃないぞ」


 やっぱりこの人らしいな。



 一限は三浦先生の数学。「あと五分あるな。よし、寝るか」と言って教壇に突っ伏して寝ている先生を横目に俺達は授業の準備をする。


 チャイムが鳴ると先生は「おはよ~。授業始めるぞー」と言って、問題集の解説を始めた。流石は「楽して現役合格するか」を極めた先生というべきか、何故この問題でこの解法を用いる発想に至ったかを丁寧に説明してくれ、非常に分かりやすい。「整数問題で素数系の問題が出たなら、因数分解 or 合同式で99%は解ける」とか。


「うし。全く同じようにして、問題4~10、応用問題3~5も解ける。これで、宿題もばっちりこなせるな。毎度言ってるが、面倒だったら解かなくてもいいぞ。テストで自信が無い奴だけ、勉強がてら解けばいい。あー、応用問題5だけは難しいから、この時間で解説しとくか。今から応用問題5を解け~」


 と先生が言った直後だった。俺達はその声を聴いた。







<魔力濃度が一定以上に達しました。ステータスシステムが起動します>







「「「は?」」」


 その場にいた全員が呆然とした。そして、再起動した人から順に「誰かのイタズラか?」みたいな雰囲気でキョロキョロと周りも見て、スマホを取り出してつぶやいたーを開いた。

 俺もつぶやいたーを開いてみる。最近の投稿をみると、こんな感じ。


~~~


青葉真琴 @TrueBlueLeaves 1秒

なに? #ステータス がどうこうって聞こえたの私だけじゃないよね?


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中二病は正義 @Tyuuni_seigi 2秒

ふはは。とうとう俺は力に目覚めたぞ

#ステータス


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とある社畜 @syatiku_blackA 4秒

さっきまで真面目なプレゼン中だったのに……なんだよもう

#ステータス


0コメント 0りつぶやき 0いいね


~~~


 これってそういう事だよな? 試しにステータスウィンドウを開こうと念じると、それが映し出された。異世界でしか起動しなかったそれが、今でははっきりと見る事が出来る。

 俺は後ろの席に座る我が従妹いもうとに耳打ちする。


(本当に起こるとはな)


(うん。正直びっくり)


(だな。警戒していたとはいえ、現実に起こるとはな。学校が終わったら、姉さんと例の場所を見に行こうか)


(うん)


 山の中の魔力だまり。あれの様子を見に行きたい。もういっそ、学校なんてサボって、見に行きたい。そんなことしないけどな。



「フォー! ホントにステータスが開く! すげええ!」


 と声を荒げたのは三浦先生。「いや、あんたが一番興奮してどうするんだよ」と思ったのは俺だけではないはず。さっきまで眠たげだったのが嘘であるかのように、先生ははしゃいでいる。

 先生があまりにもはしゃぐせいで、逆に生徒側は大人しくなった。「うわ、ホントだ。ステータスが見える」「ゲームみたいね」「レベルが0なんだが、俺だけか?」「いや、俺もだ」「私もよ」と冷静にステータスを観察している。


「おお! クラス『ベテラン教師』とスキル【成長促進】って凄くないか? パーティーメンバーの成長を促すとかそれ系じゃないか! ふふふ、夢が広がるなあ! よし、お前ら。俺も自分のスキルについてとか調べたいから授業は中止にしようか。残りの時間は各々、自分のステータスについて調べるように」


「「「……」」」


 まあ、この状況下で授業を続けられても、誰も授業に集中できないだろうしなあ。さて、俺はクラスメイトのステータスについて情報を集めるか。

 というのも、鑑定系のスキルを持つ人に出会って、俺達のレベルやスキルを覗き見られる可能性も考えられる。その時、ステータスを誤魔化すためにも、平均的なステータスを知っておきたいのだ。


 その後、クラスメイトから情報を集めた結果、分かった事は……。


1. 全員、レベルは0である。おそらく、魔物を倒した経験が無いからだろう。

2. 生命力最大値はおおよそ10~30の間だった。普段から運動をしている人は、数値が高い傾向にあると分かった。生命力回復率は全員1だった。

3. 魔力最大値はおおよそ10~15の間だった。その大小が何によって生まれるかは不明。魔力回復率は全員1だった。

4. 幸運値は5~15の間だった。

5. おおよそ四人に一人がなんらかのスキルを有していた。三浦先生は【成長促進】、赤坂(電子工作が得意らしい)は電気魔法、牧野まきのさん(実家が動物病院の女の子)はテイムのように、普段の言動に沿ったスキルが与えられるようだ。

6. 先生以外の全員がクラス『学生』を有していた。まあそうだろうな。


 そういう情報を基に、俺と加奈はステータスを偽装した。その結果が以下の通り。


『赤木歩夢』

レベル:0

生命力最大値:25

生命力回復率:1

魔力最大値:12

魔力回復率:1

幸運値:17


スキル

・水魔法(Lv.0)

クラス

・学生



『赤木加奈』

レベル:0

生命力最大値:20

生命力回復率:1

魔力最大値:13

魔力回復率:1

幸運値:12


スキル

クラス

・学生



 つぶやいたーで水魔法について調べると、「水魔法を取得した」という情報が上がっていたので、オープンにしてある。レベルは偽装してあるけどな。



『ピーンポーンパーンポーン。職員は至急、職員室へ集まってください。繰り返します。職員は至急、職員室へ集まってください。また、学生の皆さんは自習して待機して下さい。騒がず、落ち着いた行動を取りましょう。以上』


 という放送が入り、三浦先生は教室を出て行った。出ていく直前、「お前たち、くれぐれも暴れないように! トラブルを起こせば、俺が怒られるから!」と言ったのは、凄く三浦先生らしいなと思った。




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