第2話 フェアリーリングの家業
「はぐぅんにゃ!?」
──変な声が出た。
家業である御山での採取中、見たことないキノコが群生しているのを発見したので、とりあえず生で一口むしゃっといってみたのだけど。
「……なんとも名状しがたい味。いや本当になんだこれ……?」
不味い、というわけではない。少なくとも食べられる味だ。ただなんというか、極端な味が短いスパンで順繰りにやってくる感じ?
めちゃ辛→めちゃ甘→めちゃ苦……みたいな。味単体では中々の旨味があるけど、それが連続してくるせいで後味が混ざる。だから総評すると『不味くはないけど名状しがたい味』となる。
「……ギリいける?」
まあ、我が家の場合だと調理次第では食用になりそうなので、とりあえず食卓分は確保しておこう。
その他の特記事項としては……恐らく麻痺毒を宿していること。それも即効性かつ強力なやつ。
嚥下してから数秒後、全身の筋肉が微かに強ばる感覚がした。これはとてつもないことである。ほんの一瞬とはいえ、私の身体に明確な影響を与えたのだから。
遺伝性の尋常ならざる適応能力と毒耐性を、幼少期から過酷な環境に身を置くことで鍛え続けているのがフェアリーリングの一族。
私もその例に漏れず、毒古龍の放つ瘴気すら効かぬ強力な耐性を身に付けている。神代の毒ですら笑顔で嚥下してみせるという自負がある。
そんな私の耐性をぶち抜いたのがこのキノコ。七色の金属質の光沢を放つ、名称不明(恐らく新種)の毒キノコである。
「んー……群生してるし、突発的に生えたって感じじゃなさそうかなぁ。この辺に定着してそうだし、となると定期的な供給が見込める可能性はあり。優先順位は高めにして分析してもらうべきかな」
カチカチと頭の中で吟味した結果、新種キノコの大まかな扱いを決定する。
フェアリーリングの家業は、人界の魔境たる御山を探索し、希少なキノコを採取し国に供給することだ。
貴重な薬の原料となるキノコは積極的に採取するし、国から要請を受けて特定のキノコを探すこともある。
だがそれだけではない。この魔の法則が狂った御山では、結構な頻度で新種のキノコが誕生する。一本だけひょこっとそこら辺に生えていることもあれば、今回のように群生している場合もある。
「食卓用に二本、研究用に三本かなぁ」
そうした新種のキノコは、今回のようにとりあえず採取だけして国の研究機関に投げる。
フェアリーリングもキノコの専門家であるが、あくまで採取に重きを置いているため、そこは役割分担というやつだ。……そもそも我が家のキノコの知識って、異常な耐性を前提とした実体験の積み重ねだし。
「私じゃ麻痺毒があるなぁ、ぐらいしか分かんないしなぁ」
文明が築きあげた知恵というのは凄まじいもので、猛毒キノコも加工次第で命を救う妙薬になる。そうでなくても、意外な活用法を発見するもの。
反射的にもっしゃもっしゃと咀嚼して、身体に現れた変化で大まかにキノコの効能を判断するような人種では、どうしたって辿りつけない境地というやつだ。
拾い食い上等のストロングスタイルな原始人に、文明人の考えなど本当の意味で理解などできるはずもなく。……実際、我が家が御山のキノコに求めることなど『美味けりゃいい』なんだもの。
お国が頑張って有効活用しようとしている御山のキノコも、我が家にとっては食材兼日用品の一部。
第一に味を。第二に日常生活で使えるかを。第三に折檻に使えるかを。そして最後に面白さを考えるのがフェアリーリング家という残念な一族。
どうやったって、御山のキノコを人様の役に立てようなどとは考えることができないという。だってカテゴリーからして違うから。
「味見した所感も添えて。……あー、コレは毒性も強そうだし、持ち運びはアレ使わなきゃダメかぁ。用意すんのめんどくさ」
そんなわけで、頭のいい方々に分析してもらって、有用な効果が見られた場合は、またフェアリーリングの仕事となる。
対象となるキノコの数が少なければ、次に見かけた時に周囲の環境を記録して、上手い具合に数が増えるよう手を尽くす。今回のように既に群生し定着していた場合は、取り尽くさないよう注意しながら群生地を維持する。
逆に有用な効果じゃなかった場合は、公的にはまず使われないのでスルー。我が家で好き勝手するだけである。……今回のキノコの場合なら、調理法を探りつつ折檻用に回されるかな?
「──よし。群生地のメモも取ったし、ひとまずここは大丈夫かなぁ。んじゃ、次に行きましょー」
ま、ともかく。そんな感じで上手い具合に回しながら、御山の恵みをいただき続けるのが我が家の家業。
私、いやフェアリーリングはしがないキノコ採りの一族なので、あまり世界情勢に詳しくはないけれど。
どうやらキノコを原料とした薬の数々は、重要な輸出品としてかなりお国のためになっているようで。
いろんな意味でヤバい家業ではあるけれど、重要物資の供給元と考えれば、なんだかんだ誇らしく感じてしまうのが人情というもの。
「さて、次はどんなキノコが見つかるでしょうか」
【キノコ狩りのフェアリーリング】という呼び名も、実のところ結構気に入ってたりするわけです。……流石にちょっと安直だと思うけどね。
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