やっと出会えた
藤間伊織
協力要請
明日が休みだからと調子に乗ってゲームをして、気づけばもう朝の6時。
夕方からゲーム仲間と集まる約束もあるし、今からでも寝ておいた方がいいだろうか……。
そんなことを考えてベッドに腰かけた。はずだったのに、気づけば時刻は午後5時になろうとしていた。慌ててそばにあったスマホを手に取ると、数件の通知が来ていた。しまった、約束をすっぽかしてしまった。そう思ったが実際の内容は、
「集合は夜からに変更!各々好きなつまみを持参!」
というものだった。昼から約束していても、急遽飲みながらに変更、というのはそう珍しいことでもない。俺以外のメンバーは了解の旨の返事をしている。とりあえず一安心、とすぐに返事をした。
さて、何を持っていこうか……冷蔵庫には何もない。
その後の捜索の結果、家には何も無いことが判明した。仕方ない、スーパーまで買いに行くとしよう。コンビニも当然あるのだが、値段的にも品ぞろえ的にもスーパーのほうが都合がいいのだ。
近場なのでジャージにパーカーを羽織り、持ち物も鍵・財布・スマホの軽装備だ。
外に出てみると涼しい風を肌に感じる。俺が歩く度、閑静な住宅街にポケットの中の鍵とストラップがぶつかる音が響いた。
しばらく歩くと児童公園が見えた。何気なく視線を向けると、そこには子供が数人集まって遊んでいた。
その時、遠くから「夕焼け小焼け」が聞こえてきたと思うとひとりふたりと散っていった。辺りは一層静かになった。
そのまま児童公園を通り過ぎ、少し細くなった道に入ると少し先にある自販機の前に子供がいた。彼もまた、これから家へ帰るのだろうか。そう思って見ていると、突然その子供は自販機の前でしゃがみこんだ。
なんとなく顔色が悪いように見えるし、気分が悪いのか?と心配したが、声をかけるかためらった。早とちりならば不審者扱いされるかもしれない……体調不良の子供を前に自己保身を考えてしまう俺は大人、いや、人として失格なんだろうか。
しかし、そんな心配はいらなかったらしい。その少年は自販機の下をのぞき込むようにしていた。小銭でも落としたか、家の鍵を落としたのかもしれない。……それはそれで声をかけた方がいいのだろうか。
先ほどの(勝手に感じただけの)罪悪感から、意を決して声をかける。
「大丈夫?」
できるだけ自然な笑顔を意識してみたがどうだろうか。
少年はふっと顔をあげ、
「…………」
何も喋らない。子供に無視されるというのはなかなかに精神にくるものがある。
少年はこちらをじっと見つめ、黙り込んでいる。
「もし困ってるなら……力になれるかもしれないけど……」
この状況を抜け出したいあまり、適当なことを口走った。
しかし、少年は微動だにしない。
俺たちの間に気まずい沈黙が流れている。しかし、次の瞬間、ほんのわずかにだが、少年の首が縦にふれた気がした。
これは肯定、ということでいいのか?首を突っ込んでしまった以上、それなりの責任は果たさなければならないだろう。
とにかく、まずはこの少年の要望を聞かなければ。
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