第21話
「ここは……、文芸部か」
活動場所は教室棟からは離れた空き教室であり、活動内容は自由に読書をするだけ。特別な活動以外で参加を強制することもないとくれば、俺にとってかなりの好条件に思える。
百聞は一見にしかず。とりあえず様子を見ていくか。
「失礼します」
そう言って教室の扉を開けると、何人かの生徒がそれぞれで読書をしていた。彼らは一瞬俺の方に視線を向けるが、すぐに読書に戻っていた。
……いや、何か言ってくれないと困るんですが?
誰に話しかければよいのか迷っていると、俺の名を呼ぶ者がいた。
「存瀬くん」
その人物とは、三大美少女の一人であり通称眠姫こと、眠崎詩苑だった。
しかし、三大美少女がいるとなると一気に話が変わってくる。
「そういえば、存瀬くんは転校生だっけ。もしかして、文芸部に入りたい?」
「えーっと、とりあえず文化部を中心に色々見て回っているところなんだが……」
「文芸部、おすすめ。教室は静かで、落ち着いて眠れる」
部活の雰囲気は確かに俺にとってもいいものだとは思うが、今回は流石に遠慮させていただきたい。
図書委員でシフトが被っていて、部活も同じとなると誰に何を言われるかわかったものじゃないからな。
それに、また今日のように和泉のやつに揶揄われそうだしな。
「あー、確かに興味はあるんだが、他にも見て回ることにするよ」
「そっか。それは残念……」
「他に面白そうなのがなかったらまた来るよ」
「わかった」
正直なところ三大美少女と関わるのは何かと目立つだろうから積極的に関わりたくはないのだが、眠崎がやけに残念そうな顔をするので俺はそう答えるしかなかった。
俺は文芸部を後にし、次の活動場所へ移動することにした。
**
次に近いのは……、書道部か。
書道など授業でしかやったことがないし、特別得意というわけでもないので正直興味はないが、部活動への参加は強制しないとのことなのでとりあえず見学していくことにした。
「失礼します。部活動見学に来たのですが……」
「これはこれは、存瀬くんではないですか」
そう言って真っ先に俺に話しかけてきたものだから、周りの視線が痛い痛い。
「氷見沢さんは書道部だったのか」
「ええ。そういうあなたは、部活動見学ですか?」
「そういうわけだ」
しかし、氷見沢はここの部員たちによほど好かれているようだな。氷見沢が親しげに話しかけるあの男は何者だと言うように、先ほどから値踏みするような視線を浴びせ続けられている。
はあぁ……。これは相当居心地が悪い。次行くか。
「どうですか?せっかくなので、実際に字を書くところを見学していかれるというのは」
「いや、よく考えたら俺に書道は向いていない気がする!ではそういうわけだから……」
氷見沢は、慌ててその場を去ろうとする俺の肩をガッシリとホールドして言った。
「もちろん、見ていきますよね?」
あ、圧が怖い!というかこの状態、なぜか既視感があるような……。
って鈴さんか!確かこいつ、鈴さんに憧れていたが、まさかこんなところで似るなんて。これがシンパシーというやつなのか。
俺がどうでもいいことを考えているうちに、氷見沢の握力はどんどん強くなっていく。
「あー、わかったわかった!そこまで言うなら見学させてもらうよ」
「それはよかったです」
結局氷見沢の圧に押され、俺は渋々ながらも了承してしまった。
ここで頷かないと俺の肩がどうなっていたかわからないのが恐ろしい。それに、半ばスキンシップとも言えなくなもない行為をこれ以上ここのやつらに見せつけては、俺の命が危ういからな。
全くもってスキンシップと呼べるほどいいものではないのだから、俺が一方的に損をしているようで癪だ。
そして、氷見沢がパフォーマンスを始めた。白い袴を身に纏い、一画一画を丁寧に力強く書くその姿は、正に女神のようだ……と周りの部員達は思っていそうだな。
もちろん俺は、字が綺麗だとかそんな感想しか思いつかないが。
「いかがでしたか?」
「そうだな。力強く堂々と書かれていて美しい字だと思うぞ」
「そうですか!では、是非とも存瀬くんも書道部に入って……って、存瀬くん?はぁ、どうやら逃げられてしまったようですね……」
**
「いやー、危なかった」
これ以上、あの場にいたら間違いなく無理やり入部させられていただろう。
何よりあそこでは俺の存在はアウェーすぎる。あんな居心地の悪い場所に自分から飛び込むほど愚かなことをするつもりはない。まだ文芸部の方が何倍もマシだ。
まあ三大美少女と同じ部活という時点で、部活動を選ぶ条件としては論外だ。
「よし。次だ、次」
**
次に俺が辿り着いたのは料理部の活動場所である、調理室だった。
基本的に活動内容は定期的な料理の演習のみ、普段の活動はなし……か。ふむ、悪くない……というかこれまたかなりの好条件だ。
もはや条件が良すぎて、嫌な予感しかしないのが最悪だ。
俺が本当に見学していくか悩んでいると、少し離れたところから俺に声をかけるものがいた。
「そこのあなた!もしかして料理部に興味があるのかしら?」
今までに出会ったことがないタイプの、本物のお嬢様のような喋り方をするその女性は早歩きでこちらに近づいてきた。
「私は三年A組の
正直今すぐこの場から逃げ出したいと思うほど、これまたクセの強い人物に声をかけられてしまったらしい。
俺はその場で天井を見上げ、自らの悪運を嘆いたのだった。
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