第20話

「そういえば、存瀬くんはどの部活動に所属するつもりなんだい?」


 朝、いつものように登校して教室で和泉と世間話をしていたところ、不意にそんな話題が挙げられた。


「部活動か……。そんなの今までやってこなかったから考えたこともなかったな」


 そもそも無趣味の俺に、部活動なんて向いてないと考えていたしな。アーケードゲーム部なんてのがあれば考えたかもしれないが、生憎とそんな部活は存在するはずもない。


「そんな存瀬くんには残念なお知らせだけど、この学校には全ての生徒が部活動に所属しなくてはならないという規則があるんだよね〜」

「おい、冗談だろ?」

「冗談なものか。現にこの僕ですら仕方なく部活動には所属しているんだよ?」


 和泉が言うと説得力があるな。なんせこいつはどう考えたって部活動に積極的に参加するようなイメージがない。


「ちなみにその部活というのは?」

「え、えーっと……、それはちょっと言えないというか……」

「ん?」

「と、とにかく、特に活動もしてない幽霊部員みたいなものだから気にしないでほしいな!」

「なら俺もそれで……」

「絶対ダメっ!」

「お、おう……」


 すごい剣幕で和泉が言うので、俺もそれ以上は何も言うまいとした。


 よくわからないが、この話はこれ以上するないうことらしい。和泉と同じ部活なら何かと便利そうだし、幽霊部員でいいなら楽だったんだがな……。


「あ、そういえばバイトのことを考慮しなければならないのを忘れていた」

「そっか、君はバイトをしているんだったね」

「ああ。だから、俺もできるだけ活動が少ない部活に所属したいんだが、そういう部活は他にもあるのか?」

「そうだね……、この学校は文化部が多いから、人数が分散して部員数が少なくてほとんど活動をしていない部活もいくつかあると思うよ」

「なるほどな……。なら、今日はその辺りの部活を中心に見学をするとしよう」

「そういうことなら、僕も着いていくよ」

「いいのか?」

「いいも何も、君ははどこでどの部活が活動してるか知ってるのかい?」

「……知りません」


 ちょうど今日から新入生の部活動見学が始まるというので、俺もそれに乗じて放課後に見学をすることに決まったのだった。



**



「なあ和泉、確かに文化部を中心に見ようとは言ったが……、流石に俺にこれは違うんじゃないか?」


 やけに見学者が多いこの部活は軽音学部らしい。和泉に、俺が表舞台に立って何かできる人間だと思われているなら逆に心外である。


「随分と男子に人気なようだが、これは珍しいことでもないのか?」

「まあまあ。これから見学者向けの演奏をするみたいだから、ちょっと見てればわかるよ」


 どこか含みのある言い方をする和泉に「何かあるなら勿体ぶらずに早く教えろ」と言いたところだが、演奏が始まるようなので大人しくすることにした。


「新入生の皆さん、軽音学部の見学に来てくださり、ありがとうございます!」


 そう言いながら前に出てきたのは、俺も知っている人物だった。


 音姫と呼ばれる三大美少女の一人、音城神楽だ。音ゲーが得意なことからそう呼ばれているのかと勝手に思っていたが、もしかしたらその本来のルーツは音楽をやっていることにあったのかもしれない。


「私は軽音学部の音城神楽です。本日は新入生の皆さんに向けて一曲演奏をさせていただきたいと思います。私たちの曲を聞いて、軽音学部に入りたいと思ってくれる人がいたら嬉しいです!」


 それから演奏が始まった。ボーカルは音城。その歌声は聴く者全てを魅了した……とまで言うのは少し大袈裟かもしれないが、やはりそれほどまでに素晴らしい歌声だった。


 実際、演奏が終わる頃には俺と和泉以外の男子生徒たちの大半が恍惚としていた。


 相変わらず三大美少女に対して全く興味を示さない和泉には少し疑問に思うところがあるが、俺が言えたことでもないので何も言うまい。


「ありがとうございました!」


 音城がそう言って、軽音学部のメンバーは片付けを始めたようだ。同時に、見学に来ていた生徒たちも続々とその場を去っていった。


「なるほどな。三大美少女の一人がいるとなれば、この人気ぶりにも納得だ」

「まあそういうことだね」

「それで、この部活、……見る必要あったか?」

「入りたくなったかい?」

「はあぁ……、なるわけないだろ」

「うん、そうだろうね」


 ケラケラと笑う和泉にやや怒りを覚えるが、疑問に思うことがあったのでまずはそちらを解決しなければ。


「結局、なぜここに連れてきたんだ?」

「それは、転校してきたばかりですでに三大美少女の二人と仲良くなってる存瀬くんの女たらしの才能の可能性を確かめようと……」

「おい、なんだその不名誉な称号は」

「あれ、違った?」

「違うも何も、そもそも俺はあいつらと別に仲がいいと言うほどでもないぞ」

「あはは〜、それはちょっと苦しいかな?」


 考えていたより心外な理由でここに連れてこられたことを知り、俺は思わずため息を吐いた。


「まあ、どうやら音姫にまでは手を出さないということがわかって何よりだよ」

「言い方に悪意ありすぎだろ……」

「じゃあ、僕は楽しませてもらったしそろそろ帰ろうかな〜」

「おい待て!」


 慌てて呼び止めるも虚しく、和泉はあっという間に去っていってしまった。


「なんなんだあいつ……」


 和泉の奇行にげんなりしていると、たった今、スマホに和泉からのメッセージが届いていることに気がついた。


 今朝のホームルームで各部活動とその活動場所について書かれたプリントがあったからそれを見るといいよ……って、完全に嵌められた!


 いや毎度の如くホームルームで寝てる俺も悪いんだが……。和泉のやつ、まだあのことを根に持ってるな。


 何はともあれ、部活動に所属しないといけないということはどうやら本当らしいので、俺は仕方なく一人で部活動見学を続行することにした。



 

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