鋼鉄の犬(その2)

ワゴン車が走り去ったあとに残された骸骨男は、足をひきずりながら外階段を登った。

二階の開いた窓から顔を突き出した男は、あたりを見回してから、窓を閉じて部屋の明かりを点けた。

それを見届けた溝口は、踵を返して左手のアパートのいちばん奥まで速足で歩き、一階の部屋の鍵を開けて入った。

北向きで陽が差さない畳敷きの2LDKは借り手がいないので、管理室に使っているという。

冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出して、おいしそうに飲んだ溝口は、口を手の甲で拭い、

「何か匂ったかね?」

と、たずねた。

アパートに入る前に可不可が耳打ちした通りに、

「ああ、大麻の匂いがしました」

と答えると、

「えっ、・・・大麻だって!」

と、溝口は頭のてっぺんから素っ頓狂な声を出した。


「あの工藤という男は、暴力団の構成員だった。シノギがきつくなって足を洗ってホームレスまがいになっていたのを拾ってここに住まわせ、何とか生活保護が受給できるようにしてやった。・・・その恩を忘れて大麻作りに走ったか」

と、ぶつぶつとひとり言のように愚痴を並べ立ててから、

「大麻の匂いでまちがいないよね?」

と、同じことをたずねた。

「大麻を乾燥するのを大規模にやればやるほど、それだけ強烈な匂いを強制排気するので、外へ漏れます。・・・大麻の匂いでまちがいありません。さっきワゴン車に大きな段ボールを積み込みましたが、あれは出来上がった乾燥大麻ではないでしょうか」

それを聞いた溝口は、腕を組んで考え込んでしまった。


「そうだな、君たちこの部屋に泊まってもっと証拠を集めてくれんか。・・・君は引きこもりで、どうせ暇なんだろう」

などと、溝口はひどいことを口にした。

「母親の介護をしているのでそれはできませんがが、毎日ここへ通ってもよいです」

と返答すると、溝口はじぶんも毎日通うが、1週間に限定して集中的にやろう、ガソリン代別途で時給は二倍の二千円にすると提案した。

・・・溝口は、証拠を集めてどうするかまでは言わなかった。

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