第46話 水の洞窟

 さて洞窟内に入るだけで大変な苦労をした一行。

 入り口でこれだ。中ではどんなひどい目に……と戦々せんせん恐々きょうきょうの思いで探索をつづける。


 しかし内部に入ってからはむしろ平和ですらあった。

 襲ってくる敵はコウモリやトカゲなどの平凡な相手ばかり。

 苦労らしい苦労もなく、一行は先に進む。


 

 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 ドドドド……。


 闇の奥から絶えることなく水の流れる音が聞こえてくる。

 外の湖と天然の水路でつながっているのだろう。

 壁や天井もつねに湿気をおび、光沢こうたくがある。


 転ばないようによちよち歩きで進んでいると、タカキが手を差しのべた。


「姉さん、足元気をつけて」

「ありがと」


 弟のさり気ない優しさを素直に受け止め、手を握ってささえてもらう。

 すると意外なほど身体は安定した。

 どんな体術を使っているのだろう。もしかして足の裏に吸盤きゅうばんでもあるのかな。


 そんな色気のないことを考えているうちに下へ降りる坂道を見つけた。

 ゆるやかな斜面しゃめんを降りた先には地下を流れる川が。

 そして対岸には棍棒こんぼうをかまえたトカゲ人間の群れが待ちかまえていた。


「あっち側へ行かないとダメ……みたいね」

「ああ、やってやるさ!」


 タカキが左の手のひらに右拳を打ち付ける。

 パン! という音が合図になって、敵味方が同時に動き出した。


「シャーッ!」


 最前列のトカゲたちが大胆だいたんにジャンプしてこちら側に飛び移ろうとしてくる。

 しかし《おおがえる》戦で強化された味方陣営は楽々と対処してみせた。


 リーフ。

 イーグルスラッシュキャンセル、弓。


 ベルトルト。

 同じくイーグルスラッシュキャンセル、弓。


 チートバグ技を使った最速の弓矢が空中の二体を射落とした。


「シャギャー!」


 ドボンドボーン!


 あわれ、二匹のトカゲ男はまだ何もしていないのに水の底へ。


「や、やった、またやったぞ!」


 また功績をあげたことに喜ぶベルトルト。

 まったく良い技をひらめいてくれた。

 絶対・・に敵より先に動けるというのは、それだけでかなりの強みである。

 

「いいなあ、俺も欲しいよそれ」


 タカキはつぶやきながら横へ進み、対岸の敵めがけて得意技をはなつ。


《しんくうは》!


 真空の刃が川を越えて敵を切り裂く。

 飛び移るために密集していたトカゲたちは、三匹ほどまとめて犠牲ぎせいになった。


「僕にとってはそっちのほうが余程よほどうらやましいよ」

「へへっ」


 笑顔をかわす少年二人。

 いつの間にかすっかり仲良しだ。


「ギギギ!」


 あっという間に前列の味方が五匹もやられて、困ってしまうトカゲたち。

 彼らを動かしているのはしょせんプログラムなので、命をしんで逃げるといった行動はできない。

 そこでやけくそになったのか、にぎっていた棍棒を一斉に投げつけてきた。

 ターゲットは、なぜかアイシラ。


「ちょっと! あたし何もしてなくなーい!?」


 敵に文句を言ってもはじまらない。弱そうな相手から狙うというのもセオリーのひとつだ。

 すでに棍棒は目の前にせまっていた。


「ヒィーッ!」


 数秒後に来るであろう痛みを想像して身をかたくするアイシラ。

 しかし想定外の幸運がおこった。


 キュインキュインキュイン!


 技の閃き。

 しかも前から欲しがっていた防御技《パリィ》だ!


 カカカッ!


 まるで槍が意思を持っているかのように勝手に動き、飛んでくる棍棒すべてを叩き落した。


「わあ、やったやった、ラッキー!」


 防御技さえあれば弱点だったバックアタックにもそこそこ対応できる。

 結果として、狙われたことに感謝だ。


「ちぇっ、なんか皆ばっかり良い思いしてんなー」


 ちょっとねた顔を見せながらタカキが対岸に飛び移った。

 彼の戦闘力はもう世間せけんから達人とよばれるいきだが、それでもまだ14歳。

 たまに見せるこういう子供っぽい素顔が、やけに可愛い。


「文句言わない、こういうのは時の運よ」


 アイシラは側面から弟を援護する。


《ストーンショット》!


 数発の石弾が横から降りそそいで、敵に嫌がらせをした。

 ひるんだ所へ若き達人がせまる。


 武器を手放てばなした上に二方向から攻められて、残りのトカゲ人間たちもあっさり消滅してしまった。

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