レトロ神ゲーは伝説のバグゲーでした。弟をバグらせたら強すぎてあたしほとんど活躍してないけど別に良いよね?

卯月

第1話 25歳を四捨五入するな!

 今日は花村はなむらあい、25歳の誕生日。

 日々引きこもりとして肩身かたみせまい思いをしている彼女であったが、今日くらいは平和にいわってもらえるものと考えていた。


 しかし……そんな甘い幻想は夜のお誕生日パーティで、無惨むざんにも打ち砕かれた!


「愛、お前は今月中にこの家を出ていきなさい」

「ファッ!?」


 心臓の奥深くに突き刺さるような父の言葉。

 愛は食卓のイスから5センチ飛びあがった。

 予想外の急展開に誕生日プレゼントのゴーグルプレイカード二万円分をグシャッとにぎりつぶしてしまう。(一生懸命選んでも愛はネットで売ってしまうからこんなことになっている) 


「お前ももう四捨ししゃ五入ごにゅうしたら30だろう。

 大学に行くでもなし就職するでもなし、これ以上は面倒みきれん」

「ちょっと! 25歳を四捨五入とかなくない!?

 そういうのはもっと上になってからするもんでしょ!?」


 問題点はそこじゃない、というツッコミはさておき。

 父は冷徹れいてつに言い返す。


「四捨五入は四捨五入だ。

 四捨六入でも七入でもない。

 自分がもう大人なんだということを受け入れなさい」

「イヤだ! いくらなんでも急すぎ! 今月中なんて絶対ムリー!」

「何が急なものか!」


 興奮する愛にむかって、父もキレた。


「お前が大学受験に失敗してからもう何年だ!?

 名ばかりの浪人生活で勉強なんかほとんどしていなかっただろうが!

 毎日毎日グータラしてばかり、何度志望校ランクを落とせと言った! 何度就職しろと言った!

 急すぎるどころか何年も待ったわ!

 我が家にはこれ以上ニートをやしな余裕よゆうはない!」


「に、ニートじゃないもん!」


 愛はバン! と食卓をたたいて立ち上がった。


「あたしは小説家になるんだ!

 なろうとかカクヨムとかに投稿だってしてるし……」


 母が横からツッコミを入れてきた。


「たった四話、一万文字たらずで放置したまま一年以上経過しているわよね?」

「うぐっ!」

「あんたの『ゲームの悪役令嬢ですが追放されたらなんか魔王に溺愛されちゃった☆ ヒロインがバカで浮気性で浪費家だったから戻って来いとか言われたけどもう遅い!!!』ってやつ。

 お母さんちょっと調べてみたんだけど、二匹目のドジョウどころか百匹目、千匹目のレッドオーシャンど真ん中じゃないの。

 しかもストーリーにメリハリがなくダラダラしてて、たった四話でも読み疲れちゃったわよ。

 ただ道を歩いていたら魔王に出会ってコンニチワって。アンタもうちょっとなんか思いつかなかったの?

 流行りモノをやるなとは言わないけれど、自分なりの工夫をしてもっと差別化をはからないと。 

 お母さん他の人の作品とゴッチャになっちゃって、どれがあんたの作品だか分かんなくなっちゃったわよ?

 もっと読者のニーズにリーチしたプロットをアジェンダしないと……」


「わけ分かんないこと言わないでよ!

 お母さん自分で意味わかってないでしょ!?

 おぼえたての言葉を使ってみたいだけでしょ!?」 


 顔を真っ赤にして激怒する愛。

 黙々もくもくと誕生パーティの料理を食べていた弟が冷淡れいたんにコメントする。


「夢をつかむ人って『やるな』っつっても『やる』人なんだよ。

 ちょっと書いただけで放置してる姉貴はお話になんないね。

 Twitter民の中には毎日五千文字書くって人もいるよ? 姉貴は一年かけてたった二日分ですか?

 有名なプロ作家の人はたった数週間で処女作書き上げて、それで受賞して十年以上活躍しているんだよ?」

「やめろおおおおお!!

 天才と普通の人を一緒にするなああああああああ!!」


 マジでやめて。


「結局お前は浪人生でもなければ作家でもない、ただのニートだ!」


 父が追放ものの王様みたいなきびしい顔でヒロインを指さした。


「もはやお前には愛想がつきた。

 よって我ら花村家は愛、お前を追放する!」

「ギャー!!!」


 こうして本作の主人公、愛は現実社会なのに実家を追放されることとなった。

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