第40話 1-9-5 「いつか全て話すから…」

1-9-5 「いつか全て話すから…」 耳より近く感じたい



「乗車定員4人だって。

 丁度いいね」


 梶がやって来た観覧車に先に乗り込み、続いて佐藤が乗り込む。



 音波が立ったまま動かないので、片山は声をかける。


「音波? どうかした?

 早く乗らないと行っちゃう…」


 片山が言い終わらぬうちに、音波が言葉を被せる。



「あ、あのねっ、折角だから実花たち二人で乗りなよ。

 私達、次のに乗るから」


 そう言って、乗り場から少し下がる。



 係の人が、時間切れでドアを閉める。


「音波っ、いいのに」


 梶が叫ぶが、無情に観覧車はゆっくりと上り始める。



 梶たちを見送ると、音波は段々と緊張してきた。



 音波らしからぬ行動に、片山は困惑する。


「…音波?」


「ほら、次、来たよ。乗ろう」


 片山の後ろに回り込み、背中を押す。



「おい」


 音波も乗り込み、観覧車は動き出す。



 向かい合って座る二人。


「音波、一体どうしたの?」


 片山は座ったまま少し前のめりになる。


「…」



 ようやく、音波が話を切り出す。


「片山くんに話したいことがあるの。

 だから…、私が、二人っきりになりたかったの。

 先に謝っとく、ごめんなさい」


「あ、ああ…」


(話って何だ?

 さっき啓太と話したばかりなのに…

 何を言われる?)



 片山は不安になるが、何とか平静に装う。


「話って、何?」


 多少ぶっきらぼうな言い回しで両腕を組む。



「うん、何も言わずに最後まで聞いて、あのね…」



 一呼吸してから、音波は話し始める。



「私が閉じ込められてから、片山くん…やっぱり変。

 前よりも遠く感じる。


 責任とか感じて距離を置こうとしてるなら、私は悲しい。


 

 今まで仲良くしてきたのに、それが減ったり無くなるのは辛い。


 でも今日、偶然会えて一緒の時間を過ごせて、楽しかったし。


 片山くんが戻ってきたみたいで凄く嬉しかった。



 だから、あの日のことは、本当にもう気にしないで。


 そして、前みたいに仲良くしてほしい」



「あと、私が暗くて狭いとこが苦手なの知ってたから、急いで助けに来てくれたんでしょ?


 それとか、夏休みのバイト帰りも、ずっと送ってくれたり。



 入学式のときから、いっぱい助けてもらってる。


 なんでこんなに助けてくれるのか分からないけど…。



 助けてもらってばかりじゃ駄目。


 だから、私も片山くんのことを助けたい。


 片山くんのこと、いっぱい助けたい。



 …前から思ってたんだけど、時々片山くんが遠くにいっちゃう感じがする。



 近づくと遠退く、寄ると離れる。


 片山くんとの距離がなかなか縮まらない。


 私は、片山くんに近付きたい。



 何かあるなら言ってほしい。


 抱えてるもの、教えてほしい。


 私、もっと片山くんのこと知りたい!…」



 思いを吐き出すように一気にまくし立てたので、音波の顔は真っ赤になっている。


 だが、その表情は真剣だ。



(…ああ、啓太の言うとおりだ…


 …音波が、俺のことをこんなふうに見ていたなんて…


 …何でこいつは、こうもグイグイと俺の中に入り込んでくるんだろう…


 …この真っ直ぐな気持ちに応えてもいいんだろうか?)



 驚きと感動で、片山の身体が小刻みに震える。



「片山くん?」



 すっと立ち上がり、座っている音波の前で膝をつく。


「音波、…何でお前は、なんで…」



 震える手で音波の手を取り包み込む。


「…ありがとう、音波。


 いつかきっと、全て話すから。


 もう少しだけ、待って…」


「うん」



 片山は顔を上げ、音波を見て言う。


「…俺も、もっと音波のこと知りたい。

 音波のこと、教えて」


「うん!」


 音波の顔がぱあーっと明るくなる。



 夕焼けに照らされた二人の影が伸びる。


 そして笑った



 音波は空を見て、そして片山に笑顔で言う。


「片山くん、夕焼けがキレイだよ」


「ああ、ホントだ」



「一緒に同じ写真撮ろう

 改めてお互いを知る記念に」


「…わかった」



 二人はスマホを並べ、同時にシャッターボタンを押す。



 …同じ景色を共有した。

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