第37話 1-9-2 偶然に乗ってやる

1-9-2 偶然に乗ってやる 12月26日 耳より近く感じたい


 ーー12月26日

 佐藤が梶と立てた計画当日…


佐藤

「今電車に乗った

 30分で駅に着く予定

 そっちは?」


「コッチは駅に着いた

 モールに向かうよ」


佐藤

「了解

 モール着いたら教えて

 駅着いたら連絡する」


「はーい」


「何? 実花、佐藤くんから?」

「へっ、うん、そうそう」

 梶はドキドキしながら答える。


 佐藤に協力すると決めたはいいが、音波を騙しているような形なので、正直胸が痛いのである。


「本当に仲いいよね。ふふっ」

 音波が謀られていることを知らずに笑うので、梶は益々胸が…心が痛くなる。


(音波、ごめん)


 梶は佐藤と決めた計画を予定通り進めていく。


 モールに着いたら、1階フロアから順に時間を調整しながら店を見て回る。


 そして、4階にある靴売り場で佐藤たちと合流するのだ。


佐藤

「今エスカレーターで靴屋に向かってる」


「分かった」


 梶が送信したその時、


ピロロン

「あ、お父さんからだ。ちょっと待ってね」


(このタイミングで?)


 梶は早く向かいたいが、音波が動かない。

 父親から届いたメッセージを読んでいる。

 梶は仕方なく佐藤に連絡する。


「トラブル発生!動けない」


「実花、悪いんだけど、そのへん適当に見てて。

 お父さんに買い物頼まれちゃった。

 多分、10分くらいで済むと思うから」


 そう言って、音波はパタパタと行ってしまった。


 梶は急いで佐藤にメッセージを送る。


「音波がどっか行ったー(泣)」


 梶からの連絡を確認した佐藤のほうはというと、もう靴屋に到着してしまっている。


 元々靴は買うつもりで、商品も決めているが、時間を引き延ばすには限界がある。


「俺、靴見てるからさ、成斗もそのへん見てこいよ」

 時間を稼ぎたいので、一時別行動を取ることにした。


「じゃあ、楽器屋覗いてくる」

 そう言い、片山はスタスタと歩いていった。

 佐藤は慌てて梶に連絡する。


佐藤

「今成斗と一時別れたんだけど、

 そっちはどうなってるのよ」


「音波、父親の用事でどっか行っちゃった

 10分くらいで戻ってくるって」


佐藤

「俺らが先に合流するの変だから、

 梶はそのまま待機な」


「うん わかった」


 あと少しで合流出来たのに…。

 佐藤と梶は、落ち着かない。


ーー

「…んん、ターリー、エスオーエス EG−HS−103、3mって、どれだろう?」


 楽器屋店内のシールド売り場で、頭を抱えながら、父親から頼まれた商品を探す音波。


 梶には10分くらいで戻ると伝えたが、直ぐに買えると思っていた目的の物が見つからない。


すると、

「音波?」

 後ろから聞き覚えのある声がする。

「え?」


 振り向くと、眼鏡をかけていない片山が立っている。

 今日はコンタクトをしているのだろう。


「かっ、片山くん? ビックリしたぁ」


 最近まともに話していないまま、冬休みに入ったので、まさか出先でバッタリ出くわすとは思いもしなかった。


 片山は、音波が何故楽器屋にいるのか不思議に思い、尋ねる。

「何してるの? 買い物?」

「うん、そう。お父さんにシールドを頼まれたの」


「シールド?」

「うん」

「あー、そう」


「片山くんも買い物?」

「ただの時間潰し」


 時間潰しと聞いて、音波は片山に助けてもらえないかと思い、頼んでみる。


「それなら、お願い!

 ちょっと教えてくれないかな。

 コレ頼まれたんだけど…」


 音波は片山に、スマホを見せる。


「あー、これ兄貴のバンドのメンバーが欲しがってたやつ。

 音波の父親、良いの使ってるんだな。

 コッチ。来て」


 片山は店のカウンター横まで音波を誘導する。


「ココ。このシールド、グレード良いやつで、結構高いから、万引き防止の為にコッチに置いてある。

 1つでいいの?」

「うん」

「ん」


 片山は陳列棚から1つ取り出し、音波に渡そうとしたが、止(や)める。


「音波、お前1人? このあと買い物するの?」


「ううん、実花に誘われて一緒に来てるよ。

 お父さんのお使いで、今、実花には待ってもらってるの。

 これから買い物すると思うんだ」


「え…!」


 片山は、ハァ〜っと大きくため息をついた。


「そういうことか…」

「どうしたの?」


 

[音波も自分も謀られた]

 と理解したが、多分音波のことだ。

 本当に偶然に会ったと思っているだろう。


 状況が分かっていない音波を見て、いちいち説明するのもどうかと思ったので、片山はこのまま、佐藤たちの計画に乗ってやることにした。


「このシールド、1つで1万くらいするけど、予算足りるの?」

「ええ? シールドってそんなにするの?」


 1万と聞いて、ビックリした音波は、財布を取り出して、中身を確認する。

「えええ…」


 困った顔の音波を見て、片山はそのままカウンターレジに向かう。


「お願いします」

「えっ? 片山くん、いいよ」


「この間、お前の親父さんに服貰ったから、少ないけどそのお返しってことで。

 お礼とか直接しても受け取ってくれなさそうだからな。

 いいから払わせて」

 慌てる音波に、優しい声で言う。


「片山くん、ごめんね。ありがとう」

「ゴメンは余計だって。ほら」


 シールドの入ったビニール袋を渡す。


「音波、行こう」

「うん」


 音波と片山は、まず梶の所へ行き、そして佐藤と合流した。


 片山は佐藤の肩を叩き、小声でボソリと言った。


「"偶然"会ったから、連れてきた」


 佐藤は苦笑いするしかなかった。

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