【 第1回「G’sこえけん」音声化短編コンテスト応募作品】終わりよければ全てよし

棚からぼたもち

うまくいかないこと

 私は今、走っている。

 毎年毎年、決まった日に私は先輩と最後に会った場所に向かう。

 いつか、また会えると信じて。


 今年で先輩と最後に会ってから3年目となる。

 この日、私はようやく先輩の姿を見ることができた。


「先輩・・・」


 3年前と全く変わっていない先輩の姿を見て、私は涙を浮かべる。

 そして、私はベンチで寝ている先輩の隣に座り、先輩との別れのことを思い出していた。


――――――――――――――――――――


 3年前の冬のある日のこと。

 私は中学生の時からずっと仲良くしている先輩に初詣に誘われて、待ち合わせ場所に向かっていた。


「急がないと・・・」


 私は友達に勧められたので、振袖を着ていた。

 思っていたよりも振袖を着るのに時間がかかってしまって、待ち合わせ時間より遅れてしまっていた。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 先輩怒ってないかな・・・と不安に思っていた私だけど、待ち合わせ場所の公園の前に立っている先輩を見たら、そんなことどうでもよくなっていた。

 先輩が私を見て、赤くなっているように見える。


「どうしたんですか?」


「い、いや・・・その・・・」


 先輩がうろたえてる!?

 どこか変なところでもあるのかな?

 と私は不安になったけど、そんな気持ちは先輩の次の言葉ですぐに吹き飛んでしまった。


「に、似合ってるぞ。」


「そ、そうですか?」


 なんだか、先輩に褒められて、ちょっと恥ずかしい。

 私は恥ずかしさを紛らわすのもあって、髪を整えた。


「い、行くか?」


「は、はい。」


 ちょっとぎくしゃくした雰囲気が変だ。

 いつもだったら、こうはならないのに。

 私も先輩もどうかしちゃったみたい。

 そう思って、私は歩き出す。

 すると、プチッと下駄の鼻緒が切れて、私は車道に倒れ込んでしまった。

 その後、急に先輩が抱きしめてきたので、私は顔を赤くして、先輩に呼びかけようとした。


「せんっ・・・」


 その直後、ドゴンッという音とともに、凄まじい衝撃が走った後、私は意識を失った。


――――――――――――――――――――


「先輩っ!」


 ガバッと起き上がると、そこは病室だった。

 私のベットの横には、先輩のお母さんである▲▲▲さんが座っていた。


「起きたのね・・・よかった・・・」


「▲▲▲さん・・・せ、先輩は・・・・」


「あの子も入院中だから、安心してて。あなたよりもちょっと怪我がひどいみたいだけど、男の子だから、大丈夫よ。」


 ▲▲▲さんは私に向かって微笑む。

 私はそれを聞いて少し安心していた。


「そう・・・ですか・・・」


「えぇ、だから、安心して眠っていて。」


「分かり・・・ました・・・」


 この時、私は起きたばかりで意識がぼんやりしていたこともあって、気づかなかった。

 ▲▲▲さんの目元が真っ赤に腫れていて、頬には涙の痕が残っていたことに。


――――――――――――――――――――


 私と先輩は車に引かれたらしい。

 先輩は、こけて車道に出てしまった私を庇ったとのことだった。

 その後、私は泣いて、▲▲▲さんに謝ったのだけど、▲▲▲さんはすぐに許してくれた。

 後のお礼は馬鹿息子に言ってあげて、とも言われた。


 最初に目覚めてから1週間が経った。

 私はいろいろと検査を受けたけど、全て異常がないらしい。

 だけど、念のため、1日程、入院するらしい。

 ただ、病院内なら自由に移動してもいいと言われたので、私は先輩を探しに病院内をさまよった。


 私は、移動できる範囲内の病棟で、先輩の名前の病室を探し回った。

 だけど、見つからなかったので、病院の受付の人や看護師さんに先輩の名前を出して聞いても、全員『分からない』や『この病院にはいません』と答えられた。

 多分、別の病院にいるのだろうな、と私は思っていた。

 だから、退院の日、私の親の代わりに迎えに来てくれた、▲▲▲さんに先輩のことを尋ねた。


「先輩はどこにいるんですか?」


「あぁ、馬鹿息子なら・・・ちょっと遠い病院にいるわ。思ってたより怪我がひどいみたいなのよ。」


「先輩に会えませんか?」


「ごめんなさいね。今は家族でも面会謝絶なの。」


 この時、変だな、と思わなかった私も私かもしれないけど、私は先輩と先輩の家族に色々とお世話になっていたこともあって、全幅の信頼を置いていた。

 だから、先輩のお母さんである▲▲▲さんの言葉もそのまま信じたのだけど、それは間違いだったことを後で知ることになるのだった。


――――――――――――――――――――


 私は退院から数日後、▲▲▲さんと話すために、先輩の家に訪れていた。


「▲▲▲さん・・・先輩に会わせてください。」


「で、でも・・・私達、家族もまだ会え・・・」


「なら、せめて、場所だけでも教えてください!先輩に会いたいんです!先輩の姿を一目見たい・・・お願いします・・・」


 私は必死に頭を下げた。

 先輩に会えない日が続けば続くほど、先輩に会いたいという気持ちが膨らんでくる。

 あぁ、私・・・先輩のことが好きなんだ。

 今更だけど、明確に先輩への好意・・・いや、愛に私は気づいた。


「・・・分かったわ。馬鹿息子には黙っておいてって言われたんだけど・・・実はね。前に思ったより怪我がひどかったって言ったでしょ?だから、今、リハビリ中らしいの。馬鹿息子は、『あいつにはリハビリを見せたくない。格好悪いからな。』って言ってたのよ。」


「先輩・・・」


 そんなことで格好つけなくていいのにと私は思う。

 でも、先輩の意思だから、尊重しよう。


「分かりました。」


「そう・・・あぁ、そうよ。一つだけ伝言を預かってるわ。『あの日、あの公園でまたいつか。』ですって。」


「先輩・・・ありがとうございます、▲▲▲さん。無茶を言ってしまって、すいませんでした。」


「いいのよ。それじゃあ、またね。」


「はい、また。」


 こうして、私は毎年、あの日、初詣に行く予定だった日に、待ち合わせ場所の公園に通うようになるのだった。

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