ショートショート集を作ってみた

第1話 戦国時代のジュリエットとロミオ

　東軍と西軍に分かれて、天下分け目の一戦が始まる。

　正に大戦だ。

　俺は東軍を抜け出し、ある人物と待ち合わせをしている峠に向かった。

　その人物は俺を見つけると、胸に飛び込んできた。

「待ってたわ。東軍を裏切りましょう。東軍は負けるわ」

「負ける？ なぜだ」

「東軍の将軍が三人裏切る手筈になってるの。東軍に勝ち目はないわ」

　確かに三人も将軍が裏切れば敗北は確実。

　彼女は西軍総大将の娘だ。その情報に間違いはないだろう。

　だが、俺は首を横に振る。

「どうして？ 負けるのよ！」

「どうしてもだ。仮に負けることが決まっていたとしても俺は殿のために命を使いたい」

「その考えは変わらないの？」

「ああ、変わらない」

　彼女は俺の胸から離れると、俺に口づけをした。

　少し驚いて、目を大きく開く。

「あなたでも驚くことがあるのね。私は西軍の総大将の娘、あなたに勝ってとは言えない。だから、死なないで」

　彼女は短刀を俺に渡す。

「この短刀は母上の形見よ。大切な物なの。だから、死なずに必ず返してきて。お願い……」

　その願いに俺は答えず、自分の短刀を彼女に渡す。

「貰うだけでは悪い、交換だ」

　このままだと、彼女は間違いなく泣く。

　最後は彼女の笑顔を見たい。

「笑ってくれ」

　と言うと、彼女は笑った。

　俺がいつも見てる笑顔と違い、瞳が揺れている。

　その笑顔を目に焼き付けて、俺は戦場に向かう。

　もう振り返られない。

　俺はこの戦争で死ぬだろう。

　恩義がある殿のためだ。悔いはない。

　最後に愛する人とも逢えた。

　戦が始まり、俺は真っ先に敵へ向かう。

　君はどうか幸せになってくれ。