異形母たちの子守唄 その七
一九二〇年五月 帝都市谷 陸軍士官学校 地下儀式場
◇
衝撃の御対面で精神が錯乱し掛けるも、何とか踏み止どまった大川。
「…………。
あ、あんな化け物が儂の子であるものか!
それに、アトノオトウチャンとはいったい何の事かね。
訳が解らんぞ」
「それは御説明が難しいですね。
取り
「重ね
さては貴様、瑠璃家宮
それとも海外の魔術結社か?
儂を攫ったのみならず、このような化け物を息子だと
この報いは、外法衆に頼んできっちりと受けさせるからな。
わざとらしく能面など着けおってからに……外法衆の真似か?
今に覚悟しておれ!」
このような場面でも、痩せ我慢と
その直後、〈イサナ〉後方の空間が歪み
それを見た大川は、
何故なら、彼らは帝国陸軍の軍服に加え面を着けていたからである。
「良かった!
外法衆の方達ですね。
実はこの大川、不覚にも
後生ですから、どうかお助けをっ!」
恥も
それを観ていた痩男面は、隣の翁面に意見を求める。
「翁。
大川 幹事長殿はこう言っているが、どうするね?」
「井高上 大佐ノ許可ハ得テイマス。
存分ニ息子サンノ御役ニ立ッテイタダキマショウ。
デハ万媚サン、具体的ナ説明ヲ大川 幹事長殿ニ……」
痩男と翁の会話内容を飲み込めない大川。
「……へっ?
まんび、さん?
お前まさかっ!
し、失礼……。
あなた様も、外法衆だったので?」
「はい。
新人の万媚と申します。
先生にはこれから、御子さんと存分に触れ合っていただきますので御覚悟を」
「ふれ、合う、この化け物と?
それに覚悟とはいったい……。
む、儂とした事が一本取られましたか。
何らかの実験成果を冗談めかしてご紹介下さったのでしょう?
冗談……ですよね?」
「アト、アトノオトトウチャン、アソボ、ソボ、ソボ。
イ、イ、〈イサナ〉ト、アソンデ、ンデンデ♪」
父の
本人はじゃれている積もりでも、大川にとっては一大事である。
「は、放せ……。
放さんかこの化け物め!
儂はお前の父親などではないぞ。
ち、父親であって
「ア、ア、アトノオトウチャンノ、イジ、ワル、ワル……。
ア、ア、ア、ソウカ。
ボ、ボクト、アソンデクレテルンダネ、ネ、ネ。
イジワルゴッコダネ、ダネダネ。
ジャ、ジャア、ボクモイジワルスル、スルスル。
ソ、ソ、ソウレ!
イジ、イジ、イジイジイジイジ、イジワルトオチャン♪」
「痛っ⁈
痛い痛い痛い痛い!
ひ、引っ張るな。
お願いだから手足を引っ張らんでくれ!
イ、〈イサナ〉君、だったね。
意地悪ごっこはもうやめよう。
その代わり、〈イサナ〉君の好きなものをな~んでもあげるよ?」
「ボ、ボ、ボクノスキナモノ、モノモノ……。
タ、タベ、タベタイヨ、ヨウ、ヨウ!
ゴ、ゴ、ゴチソウタベタイ、タイタイィィィィッ!」
〈イサナ〉が食欲に目を眩ませたのか、触手の拘束力が弱まって来たようだ。
それに乗じて大川が
「そ、そうだ!
あ、あとのお父ちゃん? がどんなご馳走でも用意して見せるぞ。
だから、このうねうねしたやつをほどいてくれ。
なっ、なっ?」
「オ、オ、オゴチソウ、オ、ォォォ……」
〈イサナ〉は暫し考え込み、大好物を提言した。
「オ、オゴチソウハ……」
「お、お互馳走は……」
「アト、アト、アトノオトウチャンガイイ!
ッイイイィィーーーィン♪」
「……へっ?
あとの、お父ちゃん?
それ、儂のこと?」
体躯の先端部から
「ア、ア、アリガト、ト。
アッ、トッ、ノッ、オトウチャン、チャン。
イ、イ、イィィィタァダァーキィマアアァーーーーースッ♪」
「あっ、とっ、の⁉
なんだ、ちゃんとした顔があるじゃないか。
お父ちゃんびっくりしたぞ……。
それにしても頂きま~すって。
〈イサナ〉君、儂の息子なら悪い冗談はよしたまえ。
や、やめろ……。
儂にその気色悪いうねうねを近付けるな!
そして持ち上げるな!
くそっ、このままでは本当に……。
げ、外法衆の皆さ~ん、助けて下さ~い。
これってアレでしょ?
ビックリとかドッキリとか書いてある広告板(プラカード)を持った人が、テッテレー♪ って出て来るアレでしょ?
広告板役の方~、もうそろそろ出て来てもいい頃合いですよ~」
当然『テッテレー♪』などと云う効果音が鳴る訳でもなく、大川の妄想は儀式場に虚しく響くのみ。
「欧米では、牛乳を泡立てたやつ(クリーム)を皿に盛って投げつける遊びがあるんですよ~。
パイ投げ、っていうんですけどね~。
パイ早く持って来て~。
そしたら広告板役の方にぶつけちゃうから~。
それにしても〈イサナ〉君、そんなに大きく口を開けてどうしたの?
お父ちゃんビックリしちゃうじゃないか~」
〈イサナ〉の顎は
体表の眼球達はこれから訪れる喜悦を想像し、
「い、〈イサナ〉君、食べる時は良く噛んで飲み込むんだよ……。
広告板役の方まだですか~?
こ、このままじゃ本当に……あああああああああぁぁぁぁっ⁈
元祖ドッキリ⁉
噛めェ……ラああああアアアアァっ‼」
大川の悲鳴が〈イサナ〉の
そして彼は何の罪悪感も感じさせず、とある効果音を
「テッテレー♪」
◆
異形母たちの子守唄 その七 了
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