〈深き者共〉競艇 その五
一九二〇年四月 帝都 地下競艇会場
◇
予選初日
伊藤は〈
⦅外尾の能力は、出足が
伸び足が
加速のみ平均以上で、後は可もなく不可も無し。
伸び足は平均なんで、外から一着を狙うのは現実的じゃねえな。
勝つには内からの逃げしかねえ⦆
各展示走行が終わり、遂に各艇が
誰も枠を譲らなかったため変更なし。
これを〖枠なり進入〗と呼ぶ。
各選手も大時計を注視し、
大時計の白針と黄針が重なり
これで四号艇は不正出発で失格となる。
残り五艇での闘いとなるが、これがどう影響するのか。
伊藤は枠の有利と外尾の性能を活かし、第一
その後も終始安定した走りを見せ〖逃げ〗で一着。
例のやる気なし選手……宮森は、六枠ながらも差しを繰り返し三着で
宮森の実力か、
判然としないまま予選一日目は幕を閉じる。
◆
処刑場となった
食べがらを袋に入れつつ、壮年作業員が嬉しそうに呟く。
「ウ~ン、中々ニ健康的ナ
ア、コノ
「いつもの癖、出てますよ。
ちょろまかそうなんて思わないで下さいね。
いつばれるか判らないんですから……」
「大丈夫デスヨ。
コノ
見付カリッコナイデス。
流石ニ
ソレヨリ、
「連絡はまだですね。
やっぱり、水中で闘える新しい幻魔、なんて無理難題を
まあ、あの方は転移術が使えますから来る時は一瞬でしょうけど……」
年少作業員がそう言い
◆
予選二日目
二日目も午前中は予行演習に当てられ、午後からの
昨日と
伊藤は四組なので、出番は三戦目だ。
二組は昨日ひとりが処刑された為、五枠での闘いとなる。
結果は、四号艇の勝俣が慣れた手際で〖
捲りとは、二枠より外側から
二着は若本で、前日と同じく
二戦目は混戦模様となるものの、吹越が相変わらずの
結果、吹越は二着へと落ち着く。
どうやら操艇のコツを掴んだらしい。
三戦目は四組。
伊藤は昨日の艇枠入札で六百円(現在の貨幣価値で約二百四十万円)吐き出したが、他の参加者も必死だったようで取れたのは四枠。
曳行〈
四枠と云う外尾には向かない枠だからこそ、伊藤は何とか
まだ二日目と云う事で他の参加者達も慣れない中、伊藤はかなりの速度で三、二、一号艇を抜き前に出た。
この戦法は〖
但し伊藤には勝算が有った。
⦅外尾は加速性能に優れた
助走距離の短さは補える……⦆
伊藤の
そのまま順調に
伊藤への〖差し〗を狙った一号艇の〈
それと云うのも、一号艇を曳行していた〈
この競艇会場は地下に在る為、照明の当たった伊藤の艇に反応してしまったのだろう。
駄津型が無理に本能を抑えようとした結果、艇を曳行していた外尾に突進してしまい怪我を負わせてしまった。
その結果、五号艇は暴力行為を取られ失格。
暴力行為は千円(現在の貨幣価値で約四百万円)の罰金なので、残高が底を突いた五号艇の選手は犠牲者に早変わり、帰郷と相成った。
曳行〈
それだけならまだ良かったが、外尾が戦線離脱を余儀なくされてしまった。
この場合、外尾の入札に使った金額は返還されない。
この
[註*
両顎が細長く尖るのが特徴的で、食用魚でもある。
光に向かい突進する性質を持つ事から、死亡事故も発生している。
沖縄の漁師間では鮫より恐れられているとか。
もし駄津にぶっ刺されたら抜かずに病院へ行くべし!]
三戦目で外尾の負傷と云う波乱は有ったが、四戦目は前日と同じ顔ぶれが上位に並ぶ。
最速の〈
玉島が競技に駆り出したのは
彼女は昨日の入札会で魳鰆型を新たに雇い、今日の
玉島の
また同種の〈
予選二日目ともなると、競艇選手に向いている債務者が自ずと浮かび上がって来る。
当然向かない者もいるようで、一組からもひとり脱落者が出た。
◇
〈深き者共〉競艇 その五 了
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