〈深き者共〉競艇 その八
一九二〇年四月 帝都 地下競艇会場
◆
準決勝進出者とその曳行〈
彼らは処刑の後片付けの為、
清掃が終わると、各種廃棄物の入った袋を施設内部へと運ぶ。
若年作業員が生ゴミを捨てようとゴミ箱の
そしてゴミ箱の扉が独りでに開き、生ゴミとも違う悪臭が湧き出る。
その原因は、ゴミ箱の中に
屍体はさも当然の如く立ち上がって辺りを見回し、壮年作業員へとその口腔を開いた。
「お主の要望通り用意できたぞ。
受け取れ」
その屍体は
そのナニかは『グルルルル……』と唸り、縦長の瞳孔を見開いた。
その様に満足したのか、壮年作業員が屍体に礼を述べる。
「オオ、〈
有リ難ウ御座イマス。
流石ハ播衛門サンデスネ。
使用上ノ注意ヲ御聞キシテモ?」
「今は暗示を掛けて大人しくしてあるで、使う段になれば解けば良い。
注意が必要なのはこっちじゃ」
屍体こと〈白髪の
ソレは葉に当たるだろう部分が
若年作業員が播衛門に質問した。
「播衛門さん、コレはいったい?」
「コレはな、〈黒い
それも水棲のな」
「良く見付かりましたね……」
「家族総出で探したんじゃぞ。
もっと礼を言ってくれてええわい。
それよりお主、今は目を
何故じゃ?」
「今は隠形法を最大限に駆使しなければなりませんからね。
念の為です」
ここで壮年作業員が会話に割り込んだ。
「播衛門サン〈水棲ノ黒イ仔山羊〉ノ注意点トハ何デス?」
「見付けるのに手一杯で調教が済んどらん。
それにの、こ奴は主に有機物で成長するが海ではちと大きくなり過ぎるきらいがあってな。
限度を決めんと、この水溜り(競艇会場)ぐらいはあっと云う間に覆い尽くすぞ。
最悪、潜入しておるあ奴らにも被害が出るやも知れぬ。
「
処分スルノハ惜シイデスガ彼女ラモ腕利キ。
自分達デ何トカスルデショウ……」
「では、儂はこれにて失礼する。
直接手を貸すと
おっと、これは貰って行く……」
播衛門は廃棄物の入った袋を誇らしげに
その様子を見届けたふたりは丁寧にゴミ箱の扉を閉め、贈りモノの設置作業に取り掛かる――。
◆
最終日
只、一昨日以上の強風と大潮による水面上昇で転覆が続出する。
主催者側からしたら失格者続出での決着は避けたい所らしく、
そして午後、準決勝第一戦に出場する伊藤が
他の顔ぶれはこうだ。
一枠の
伊藤の考案した『ヨシノボリモンキーターン』を駆使して来る事は明白。
二枠は、貴賓達から『水上の曲芸師』との
今
三枠は元船乗りの勝俣。
曳行する
四枠は補欠戦上がりで、選手と曳行〈
五枠は伊藤。
六枠は予選での獲得賞金額一位の梶原。
貴賓達に『捲り王』との二つ名を付けられた彼は、今回も
美貌の女性レーサー玉島と火の玉レディース若本、八百長要員の守宮は次戦での出場となる。
伊藤の搭乗する艇と
大海への脱出を期したその様は、
係員が
伊藤 達の本音は六枠での
いま
不自然な動きをして注目されるのは避けたいだろうし、何よりアウト屋の梶原が譲らないだろう。
大時計が
一、二、三号艇が団子状態で第一
それが可能なのも、梶原は体重が重く艇が安定しているからだ。
四号艇は遅れ、五号艇の伊藤は更に遅れる。
但し、この展開は伊藤 達にとって想定内だ。
二号艇の勝俣は的確な操艇で差しを狙い、一号艇の吉田は例の如くヨシノボリモンキーターン。
しかし、一歩先んじたのは吹越だった。
吹越はあろうことか、自身の左足を後ろに振り上げ頭上に回したのである。
尻尾を振り
吹越の取ったこの動作、後の競艇では『スコーピオンターン』と呼ばれている。
第一
それを追うは、モンキーターン吉田と捲り王 梶原と云う構図。
第二
伊藤は第二
他の艇は既に第二
伊藤が故意に
そして、
五号艇の転覆を確認した〈
その時 伊藤の心臓は
伊藤は、自身を捕獲しようと近寄る〈
「おい!
底の方からなんか上がってくる。
でかい
それと……海藻だ!
昆布とか
どうなってん、だ……⁈」
伊藤へと迫った〈
するとデカい蜥蜴頭が身動き出来ない〈
いわゆる
程なくして、〈
伊藤が
それと呼応するかのように、デカい蜥蜴頭は悠々と
その様子を観ていた海外からの貴賓のひとりが興奮して叫ぶ。
「競艇会場がサルガッソー海になった。
おまけに
◇
〈深き者共〉競艇 その八 了
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