~7 久しぶりに調合中! 舞い込んでくる事件だけじゃつまらないじゃない?~

 アリゼは現在、旦那様の妾であるカナリアに出会って気分が悪くなった。そして寝こみ中。というのが表向きの理由で、ランファ以外は部屋に入らない様に言って、引きこもり中である。そして裏向きの理由は、お兄様が自分の治療をしたいという目的で、もってきてくれた調合道具たちを活用し、絶賛、調合中である。

 やはり調合は楽しいもので、没頭できる。


「楽しそうですね、お嬢様……」


 ランファは調合することに関しては、あまりいい気はしないらしいが、お兄様の名目もあり、止めもしない。そして扉の前で誰かが入ってきたらすぐ止めれるよう、待機してくれている。本当、ありがたい。味方一人もいない孤軍奮闘もやりがいがあるが、味方がいると格段やりやすさが上がる。色んなことのね。


「まぁねー。それにさ、まぁお兄様の治療薬一を作ってるけど、なんかさ、目覚めてからというものの、確かによ。確かに私は望んだわ。修羅場。でもぜぇんぶ舞い込んできたものじゃない」

「こんな短期間に、こんなに舞い込むのかと辟易としますが」

「やっぱ、仕掛ける側に回りたいのよねー。もちろん舞い込むのも、全力で受け止めるけど」

「聞いちゃいませんね、私の話」

「で、結構、カナリア様の方、乗せやすそうじゃん。そこで考えたわけ。ちょぉおおおっとラスボス、罠にはめない? ま、引っかからなかったら、引っかからなかったじゃん」

「ラスボスって、旦那様ですか?」

「あぁ、それよ」

「お嬢様の面のお嬢様より、よっぽど安心できます」

「というわけで、治療薬一とラスボス罠一の二つの薬が出来ました!」

「はやっ!」


 アリゼは赤い薬と緑の薬が入った瓶を持ち、ランファに見せつけるように頭上に掲げた後、机の上に置く。

 ちなみに赤い薬が治療薬一。緑の薬がラスボス罠一である。


「ちなみにお兄様に治療薬一をこのまま飲ませるには危険なので、治療薬一はネズミで試すわ。ラスボス罠一はカナリア様にぶちまけようと思うのよ。ほほほ」

「なにが、ほほほ、ですか……」

「で、多分じゃないけど。ネズミ捕まえるのも、カナリア様にぶちまけるのも、ランファに任せるのは、憚られるわけ」

「そうじゃなくて自分でやりたいだけでしょう……」

「イエース! というわけで、メイド服と偽装メイクと私の代わりに部屋にいてちょうだい!」

「え! お嬢様一人で行くんですか!」

「もちろん。だーいじょうぶ。見つかったって、奥様よ。公爵令嬢よ。殺されはしないわ。ま、今後楽しむためにも見つかる気はありませんけど!」

「うわー、ものすごい心配な」

「帰ってきたら、ちゃんと一部始終話すわよ」

「事後報告いただいてもね」

「今後の為よ? だって、今日で遊ぶの終了じゃないし。むしろやっと仕掛け側になるんだから、どっちかっていうとスタートラインに立ったばかりでしょ」

「お嬢様らしくて安心しますけど、別の不安がくすぶりますが、どうせ止めても無駄ですね。まぁ、こんなクソ野郎の屋敷にずっといてほしくないので、早く満足して欲しいので、きちんと協力させていただきます」

「さっすがー、話が分かるランファちゃん」


 ランファは決めたら行動に迷いはない。メイド服と偽装メイクをアリゼに施してくれ、アリゼの部屋の見張り役も仰せつかってくれた。

 アリゼ、こと偽名キリ。いざ、出陣しまーす。ということで、廊下に誰もいない事をランファに確認してもらった後、アリゼは廊下に出て出陣した。まずはネズミの捕獲。これは慣れてるので余裕。大体台所がある付近のお外を見ればいるものだ。これ、案外どのメイドもやるの嫌がるから、捕まえることに関しては慣れだ。さくっと捕まえて、用意していた籠に5匹入れ、近場の草むらに隠す。さすがにネズミが入った籠を持っていると目立ちすぎる。

 そして本丸。カナリアがいる離れに堂々と侵入する。折角メイドのフリをしているのだから、ここは堂々としていなければ。逆にきょろきょろすると目立つってもんよ。

 離れまで歩いていくと、警備兵が二人、入り口に立っていた。アリゼは頭を下げて通り過ぎようとしたが、声をかけられた。


「見かけない顔だ。新人か?」


 うぉ、事前にランファとこう言われた時の対策考えといてよかったー。何にも考えてなかったら、普通にはいって答えるよね。でもメイドとかは当然入れ替え時期というか新人さんを入れる時期は大体決まっていて、今はその時ではないらしい。これはマジで屋敷ごとに違うので、ランファの対策が、神がかっているというべきだ。


「先日より、従妹の紹介で、行儀見習いで数週間勉強をさせていただきます、キリと申します。こちらへはお部屋へ飾る花を持ってきて欲しいと、こちらにお仕えするメイドの方に通りすがりにお願いされましたので、お届けに上がりました」


 敢えて不必要に名前を出さない。ランファはやはり、公爵家の使用人なので警戒がすごいらしいので、一応従妹の名前を聞かれた際のダミーの名前も用意はあるが、出さなければいいことに違いはない。そしていい様に使われたんだな、と思わせる。新人いじめなんてどこでもある。悲しいかな。


「あぁ……。どのメイドに言われたのか、分かっているのか?」

「お名前を聞きそびれまして……。ですが、赤い髪の少しツリ目風の方で、雰囲気は覚えております」

「そりゃ、多分、ローラだな。アイツ、新人いじめ趣味みたいなやつだから。気にするなよ。って行儀見習いだから、期間短いんだろうけど、出来るだけ屋敷のほうにいな。目を付けられたら厄介だからな」

「そうそう。お花だけちゃっと渡して屋敷へ帰りな。たぶんローラは今頃カナリア様の部屋かな?」

「多分な。適当なメイドに声かけて事情言えばいいよ」


 ランファより若干聞いていたが、カナリア付きのローラというメイドの新人いびりは有名らしい。これ、何でグレイは動かないのかな、って思うんだけど。起きたので、屋敷の主はアリゼになるので、起きたからにはアリゼの仕事になってしまうのが、何とも言えないところだ。家の管理は女主人の仕事だ。くそー、仕事するかぁ。今は良い大義名分になってもらうけどね。


「ご親切にありがとうございます。そうさせていただきます」

「呼び止めて悪かったね。これでも仕事なんだ」

「いえ。呼び止めない方が問題だと思いますので、職分全うされており、ご立派だと思います」


 最後に一礼して、離れへと入っていく。非常に申し訳ないが、今から問題起こす気満々の問題児なので、本当にちょっと先に謝罪を込めて礼をしたつもりだ。もちろん伝わりはしないだろうが、許してほしい。だってやっぱり修羅場は仕掛ける側になりたいんだもの!

 よし、欲望に忠実にいこう。アリゼは廊下を進み、まぁ、そんなに広くない建物なので、ここが主室だな、という所で足を止めた。そして耳をすませば、カナリアの声も聞こえる。うん。ターゲットロックオン。

 ノックをすると出てきたのは、赤いツリ目のメイド。うん、これローラだ。一目で確信した。


「あんた、誰?」


 おぉ態度がやばい。だがアリゼはにっこりと笑う。


「キリ、と申します。こちらに飾るお花を持ってまいりました」


 ローラはアリゼ、ことキリを値踏みするように見て、ふん、と鼻を鳴らす。


「飾ったらさっさと部屋から去りなさい」

「かしこまりました」


 よぉし、潜入完了だ。後はミッションをクリアするという最大の目的。カナリアはソファで寛いでおり、花瓶は離れた場所にあったので、取り合えず花瓶の花を活け替える。カナリアの様子をチラ見するが、特にアリゼに気にする様子はない。ただただお茶を飲んで寛いでいるだけだ。

 アリゼは最大のミッションは様子次第で、行く通りか作戦は用意してきたが、作戦B決行で行こうじゃないか。


 ほほほ。旦那様、勝負のスタートラインはここからよ。

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