【TS系参考プロット】曼段 Å 少年少女ダンサーが♡♡の果てにユルユリとなるお話

十夜永ソフィア零

プロット

【主要登場人物】


♥ともながエミリ(朝長瑛美里) ♀ 舞撫子


 四ツ谷駅そば、女子御三家の中高一貫校に通う高1女子。

 父は、ノーベル賞受賞者を輩出した朝長家の泰五郎やすごろう

 母は、ユダヤ系東欧人,プロ・ラリレーサーのミケーラ。

 中2の終わり。母を亡くす。その際、阿弥アミなる霊(?)を取り込み、訳ありの多重人格者となる。観世阿弥(※)の「離間の験氣けんき」を受け継ぎ、あらゆるダンスを踊れる者となる。

 母の知人ハンナに進められ、中3にジュエリーモデル(注、指輪をした手指のモデル)となる。その後、ユダヤ系人脈と共にメタバース関連のベンチャーを設立。

 高1。歌舞伎町でパントマイムが評判のダンサー「舞撫子」となる。

 現在、合法カジノバー「花園フランス座」の共同創業オーナー経営者。

 ユキのポールダンスの師匠1号。


(※)絶世の美女能面師、観世阿弥アミ(故人)とエミリの関わりについて、プロット後半の付記、「桜咲く季節に、秘するは花」に記す。



♠ともりユキ(兔守由貴) ♂/♀ 兎姫子


 四ツ谷駅そばの現役合格予備校に通う高2男子。

 エミリに割と時給の良いアルバイトに誘われ、カジノバー「花園フランス座」のバニー・ポールダンサー「兎姫子」となり、人気が出る。

 その頃、母を亡くしたエミリの空っぽの心を垣間見て、切なくなる。

 ユキ自身に記憶はないが、3歳まで平行世界の雪乃上由貴(♀)として育った転生者。阿弥アミの誘いにより、その平行世界に入ると雪乃上由貴(♀)の記憶を思い出した後、エミリたちの元に戻る。

 そして、自身の一番の願いがエミリの空っぽの心を癒やすことだと得心する。


(二巻以降)

 平行世界を救おうと決心したユキは、兔守由貴♂/雪乃上由貴♀を往復しながらの生活となる。愛するはエミリ。


✧参考 平行世界(≒大日本帝国が現存している世界)の関連作✧


冰翠 Å 貴族院の終わる日のトランスフェレーシャ

https://kakuyomu.jp/works/16817139556543982331

※ 中盤を過ぎたあたりで、雪乃上由貴(勘解由小路家の隠し姫)が本格登場。

(『冰翠 Å』での雪乃上由貴の初出は「第9話 小春日和 銀座の優男」中盤)


◆中上圭太(圭ママン;なかうえけいた) ○ 色白。父の名はイーブとの噂


 母の圭子が築いた歌舞伎町のダンサー派遣業を引き継ぐ。

 「花園フランス座」の共同経営者。割りと物静か。

 自身はポールダンサーとして新宿二丁目に進出。

 ポールとボールは除去済のニューカマー。

 ユキのポールダンスの師匠2号。

 ゴールデン街の黒豚白豚チャーシュー屋『EVE』店主とは親友。


♣鎌田ヘンリー(かまへん) ♂ 褐色肌のガチムチ南米日系人


 「花園フランス座」のオープニングダンサー。

 パンツいっちょで、キレッキレのタップダンスを披露。

 昼は近場の大ハッテン系サウナ『花園倭寇TRIBE』のスタッフ。

 ユキのファンクラブ1号にして親衛隊長(物理的な意味で)。

 「花園フランス座」テレビCMでの『兎姫子たんが男の子でぇ。かまへんやろ~』の絶叫でちょっとした有名人に。



【作品名(案)】

 タイトル名: 舞撫子と兎姫子の花園フレンチ ♥♠ 異世界フルコース。

 サーガ上のコード名: 曼段 Å 


【物語構成】 全6章構成 ※「僕」=ユキ(♂/♀)


1章 ✧ 2033年5月~6月


 新宿は歌舞伎町区役所通りのダークテクノ系クラブ。

 夜8時、照明が落ちた。舞台の上に、銀白に輝くレオタード姿。

 細身の曲線、顔に蝶マスクの少女。

 芸名、撫舞姫パントマイナ

 彼女のパントマイムとボディラインとを、僕は悪友と共に喰い入るように眺めてしまったのだった。


 翌週。四谷の現役合格予備校。

 僕と悪友のいつものポーカー勝負。

 勝ち抜けした僕の背を、御三家女子高のハイスペック少女が見つめていた。

 彼女のヒップラインが撫舞姫パントマイナに似ていると悪友は言った。


 翌月。

 先日の少女(エミリ)が、僕を待遇良しのカジノバーのアルバイトに誘う。

 共に、面接場に指定された歌舞伎町の少し怪しげなビルに向かう。

 経営者のニューハーフ、圭ママンの誘い。

 「時給2000円くらいは出すから週末にポールダンスしない?」


 僕は主に時給につられて、誘いにのった。


2章 ✧ 2033年6月~8月

 

 ポールダンスのレッスン開始。

 圭ママンとエミリが代わる代わる、熱の入った密着指導をしてくれる。

 僕は無事ポールダンスをマスターした。

 しかし、パントマイムにポールダンス、おまけに現代舞踊……なんでエミリはなんでも上手なんだ?!


 デビュー先は、週末に各地のショッピングモール。

 イベント形式でのカジノの客寄せとして、ポールダンスを披露する。

 コスチュームは、カジノらしくバニーの格好。

 バニーボーイなのだけれど、遠目にはわからないだろうし、小さな子達も喜んでいるから、まぁいいか。


 半月後。……なんかカメラ小僧のおっさん達が望遠レンズで、僕のポールダンスを撮っている。汗かきながらシャッターを切りながら、なんか、はぁはぁ言ってるし。

 イベントと連動しているメタバース・カジノバーのサイトを見ると、嫌な予感は当たった。

 イベント告知のページ。バニーの格好の僕の写真が思いっきり入ってるじゃん。


 翌週、圭ママンに抗議しようと新宿に向かった僕は、大通りで、

  ✩★兎姫子のポールダンスは宇宙を救う。

    カジノバー「花園フランス座」 歌舞伎町に近日オープン✩★

との大垂れ幕を目にしてしまった。


 嫌な予感がますます募る。



3章 ✧ 2033年9月~10月


 カジノバー「花園フランス座」が新宿歌舞伎町に開店した。

 ✩★兎姫子のポールダンスは宇宙を救う。✩★

 の大垂れ幕と共に。


 一階のフランス料理店で僕はエミリにフランス料理のフルコースをご馳走される。

 エミリに「時給を200円アップするわ」と言われ納得しかけた僕だったが、何故にエミリが時給の話をと突っ込む。


「エッ、エミリって共同経営者だったの?」


 「花園フランス座」を出た帰り道、僕は背後からの視線を感じる。

 カメラ小僧などのおっさん達がねめまわすように僕を見ている……不安にかられた時、脇道から「ここは僕に任せなよ」と頼もしい声がかかる。「花園フランス座」の同僚タップダンサー、ガチムチ超マッチョのカマヘンさんだった。

 力強い援軍にほっとする僕。


 カマヘンさんは、近場のゴールデン街のお店へと僕を案内してくれた。

 黒豚チャーシューが美味しいお店、『EVEイーブ』のカウンター席。

 きさくな店主のおじさんとの話もはずむ。


 背から常連の人らしいサラリーマンから声がかかる。

「カマヘンさんの新しい彼氏ぃ?」

 その後、カマヘンさんが♂と♂が睦み合うハッテン系サウナ『花園倭寇TRIBE』の幹部社員、と彼らから聞いた僕に不安が募る。


 そこに、圭ママンが登場。ウチの若い子にちょっかいかかないでよねと、僕を守ってくれる。

 サラリーマン達が去った後、圭ママンは、エミリのお母さん、ミケーラが亡くなっていた話を聞いた。国際ラリーレーサーとして元気いっぱいだったミケーラさんが……。


 「実は、それ以来、エミリの心は壊れてしまっているのよ」と聞いて、僕の心はしんなりとなる。


 エミリの心を癒やしたい。


 そう思っていた僕は、気がつくと、見知らぬ場所で目を覚ました。


 サウナ『花園倭寇TRIBE』の最高級ルームのクイーンズ・ベッド。

 脇にあるプライベート日焼けマシンから、カマヘンさん登場。

 キラッと白い歯を見せ最高の笑顔で、マッチョポーズをきめてくれた。


 なんだかもうわからないままひとり朝風呂に入った僕。


 モーニングをご馳走になっていると、不穏なテレビCMが目に入った。


 合法カジノバー「花園フランス座」を漫才コンビが紹介している。その後ろで、パンツいょちょマッチョでキレキレのタップダンスを披露しているのはカマヘンさん。


 そこまでは良い。


 その後、僕のバニー写真が大きく映る。


 カマヘンさんが絶叫。

 『兎姫子たんが男の子でもかまへんやろ~』


4章 ✧ 2033年10月10日


 バニー・ポールダンスの兎姫子として世に有名となってしまったらしい僕。


 バイト入りバイト明けを、僕の親衛隊長となったらしいカマヘンさんが(物理的に)守ってくれている。どうやら、カマヘンさんは僕のファンクラブ代表として、僕をプラトニックに深く深く愛しているとのこと……


 久しぶりにエミリと会った。

 彼女がお母さんを亡くして傷ついているのは分かったが、撫舞姫パントマイナにして「花園フランス座」のオーナーな彼女がポールダンス映像をCMで披露してくれれば、みんな納得だったのに、と僕は抗議する。


 エミリはしおらしく、ごめんなさいと頭を下げる。

 後輩美少女のしおらしい姿に、僕の方が自意識過剰だったかな、と思う。


「実は、急ぎ準備することがあってね」

 そう言うエミリに続き、僕はフランス座のポールダンス練習場に入る。


 練習場のポールダンスの黒鋼棒は天井まで続く設置型。


 その黒鋼棒の前。エミリは僕に抱きついた。

 全身で彼女の柔らかな感触を観じる。


「ごめんなさい」

 はじめに彼女は謝った。


 聞くに、エミリの魂を預かる今の彼女は、元は異界の凪沙野穂香なぎさのほのか。宝塚が好きとか脱線していく、お茶目さんだ。


「人の心をいったん失った私だけれど。

 穂香ほのかちゃんの切な思いを願いを叶えてあげたいの。」

 その後に涙を流したエミリに促され、僕は黒鋼棒を天井まで昇った。

 そして、深い考えなきまま黒鋼棒を下る……



 僕は阿鼻地獄の赤熱の中にいた。


 摂氏数千度。モンスターが蠢く、昏き高熱のダンジョン。

 異物の僕にモンスター達は一斉に襲いかかる。


5章 ✧ 昭和21年 彼の地 大日本帝国


「遅かったな」

 謎の声を耳にするなり、僕は僕の身体から弾かれた。


 背から見える僕の身体は、黒長髪で大柄な女性となっている模様。

 

 モンスター・パレード。

 ゲームならば、表現すべき数多のモンスターの群れ。


 その大軍を僕の身体の彼女(?)を魔剣で斬り屠り、

 ダンジョンの深層から上に上にと一騎駆ける。


 やがて。

 ジュワーッ!


 沸騰のアブクに囲まれながらら、彼女と僕は水面に出た。

 地殻マントル層から脱出できたらしい。


「ユキ殿、お待ちしていた」

 そういう身体の彼女(?)。


 地に立って落ち着くと、僕は、その彼女と一体化していることを(改めて)認めた。

 彼女は、魔人ルサンカ。

 魔剣ベルセプトを手に、安寧のアトラの地でなお生にしがみつく惑い人。

 愛する魔王ベルセプト様にお還り頂くその日まで、彼女は悪掻いている。 

 

 僕が出た貯水池を出ると、迎えの者たちが現れた。


 その頃には、ルサンカの記憶を通じ「おおよそのこと」(※1)を僕は理解しつつあった。

 この地に僕を導いたのは……昭和の大天災で無念の死に至った、勘解由小路ハナさん、それに、ハナさんの盟友である阿弥アミさんだった。

 僕には、果たすべき役割がある。

 ……ただ、もう一度と会いたいな。


(※1)「おおよそのこと」の中身

 時無き地アトラに至った二人は、悔心かいしんを抱えた魔人ルサンカの霊体と一種の取引をした。

 ハナさんがこの地の勘解由小路家と共に、ルサンカに依代を用意した。

 依代を介し地に戻ったルサンカは、ハナさんの願いを叶えるために尽力する。

 その見返りに、阿弥アミさんがルサンカに悔心かいしんを叶える機会を与えるため、さらなる依代を用意する、らしい。


 この目論見通りにいくものかどうかはわからないけれども、

少なくとも、魔人ルサンカは僕を依代にこの地に降り立った

 昭和の大天災の後、この地は溢れる魔に飲み込まれようとしていた。

 その破滅を運命に抗うため、この地の150年後の世界の隠し姫、3歳の雪乃上由貴なのだった。それが僕が育った地の兔守由貴の身体に……


→ これらは、関連作『冰翠ひすいオー』にて「この地」視点のストーリーとして詳細に展開を予定

→ SF的設定は本作では深掘りせず、「大人視線のSS」で深める方針。 

 「大人視線のSS」の一例に、エミリと阿弥アミとの関係を示す、

  ↓の【付記】物理学的設定「桜咲く季節に、秘するは花」。



6章 ✧ アトラの地 そして エミリの元に。


 時空の果て。時なき地アトラに僕は導かれていた。

 そこで勘解由小路ハナさんと話す。


 ハナさんは、ルサンカを、彼の地に導かれてくれたことに謝意を示してくれた。

 「もう一度、エミリと会える?」

 そう聞いた僕にハナさんは頷いてくれた。


《ここで、以下2点の「種明かし」を記載

  ・時なき地アトラと2つの地球世界の関係

  ・エミリと、ハナさん、阿弥アミさんの関係

 》


 そして、僕とエミリの本当のストーリーが始まっていく。



【世界観】

・平行世界間の移動を仲立つ破壊不能物質綺粒花キリカが存在。

・室町時代に、綺粒花キリカは観世阿弥(能の達人)と一体化。

阿弥アミの霊と一体化した綺粒花キリカは現存し、主人公たちに絡む。

・2033年に国内のカジノが合法化されてから、三年が経過。


  ※綺粒花キリカの物理学的設定は以下の付記を参考のこと。



【付記】物理学的設定「桜咲く季節に、秘するは花」



 千代田区の名門女子校の集会場。

 クラシック風にアレンジされた、ラスト・エンペラーのテーマ曲が流れ出す。

 桜咲く季節の入学予定者オリエンテーションの風物詩、「ふたばコリフェ」こと、雙葉群舞倶楽部による演舞が始まった。

 

 壇上、萌黄もえぎ色のドレスの子が柔らかに舞う。

 中等部の子が中心の、8名のカドリーユ。

 雅美の子、風雅みやびも中2ながらメンバーのひとりに選ばれていた。

 

 父兄席で雅美の隣に座る雅弘まさひろは、姪の風雅みやびを探す。

 が、皆がスラリとした体型にお団子ヘアのカドリーユが16名。

 その中から姪を見つけるのは、自身の老眼では難しい。

 

 彼は諦めた。

 後でミレーさんに尋ねることにしよう。

 

 ✧

 

 校門を出た雅弘まさひろ雅美まさみは、麹町の喫茶店に入った。

 二階の奥。雅美まさみが掌をかざすと、個室のドアが開いた。

 個室の予約者は、雅美の勤務先。

 政府系の調査研究案件を長年担う、菱マークの総合研究所。

 本日の雅美の立場は、経産省の特務情報部門の兼務室長としてのもの。

 公務としての、雅弘まさひろへの定例ヒアリング。


 といっても、当の雅弘まさひろ雅美まさみは、学校での風雅みやびの成績の話などをゆるりと行うばかり。


 二人の話から雅美の部下が議事要旨を起こす。

 部下といっても、本職キャリア官僚の若手女史。

 実のところは民間から来た雅美のお目付け役。

 やり手で、世間話からでも記録すべき事項を適切に抽出してくれる。

 明日朝には、霞が関のサイバー防衛担当界隈に卒なく報告レポートが回る。

 

 雅美が院卒で社会人となった頃と比べ。

 近時のキャリア官僚は、社会的地位も地頭力も(ここだけの話)低下中。

 が、女性のキャリア官僚に限っては地頭力は向上しているように感じる。

 彼女達にやりがいある職務が与えられることを祈る。

 

 

「それで、風雅みやびちゃんはエミリ先輩のこと、なんか言ってた?」

「あんまないね。風雅みやびから見ると3年先輩なわけだし、雲の上の子よね」

 風雅みやびが入学した年のオリエンテーション、「ふたばコリフェ」の主舞者プリマが朝長エミリだった。

 当時のエミリは中3だから大抜擢だ。


 雅美の縁を辿り、その日のバレエをわざわざ見に来た雅弘まさひろにも、エミリの舞いは鮮烈に映った。



 風雅みやびはエミリに憧れて、「ふたばコリフェ」に入部した。

 とはいえ、中高生に3歳の差は大きい。

 また、エミリは来月から高3。受験を控えクラブ活動も引退間近という年である。


 もっとも、エミリが大学に進学することはなさそうだ。

 彼女は、近い将来に米国のファンドから百億円相当のシリーズ投資を受けることが見込まれるされるベンチャー企業の経営者として大忙しなのだ。


 学校は、卒業までメディアに登場しないよう、エミリにお願いしている。

 カジノのメタバースでの盛り立てを主要業務とする、歌舞伎町発ベンチャー。


 カジノが日本で合法化されて数年が経つ。

 が、都内御三家女子高の生徒がカジノ・ベンチャーを経営中と知れば、メディアは大喜びで取り上げそうだ。しかも、歌舞伎町にカジノバーをオープンさせるとなれば。


 ただ、今日の会議の本題は、彼女のベンチャーではない。

 陸自や公安関係者もリモート参加する、サイバー防衛の会議なのだ。


 ✧


「ミレーさんの方の近況は?」 

 雅美が本題に入った。

 ミレーとは、人智を超えた外的存在エイリアン候補のうち、日本が観察を担当している存在のこと。

 

「湯沢向けの新ネタなし」


 新たな報告事項なし、との回答だ。

 〈湯沢向け〉とは、秋田県湯沢市出身の元首相に向けて、との意。

 サイバー防衛・諜報関係者の勉強会への報告事項の符牒である。

 官房長官時代に勉強会を後援した元首相への敬意からの名、という事になっている。


 雅美が続ける。 

「佐渡の方は?」

「相変わらず風流だよ」

 兄の口から風流と聞き、雅美は表情を崩す。


 日本海は佐渡ヶ島が、今の雅弘まさひろの住まい。

 家族には老父の介護のためと説明している。

 実のところは、勤め先を早期退職した自由の身を満喫中だ。


 その〈佐渡〉は、ミレーに動きなしとの符牒でもある。

 現在、ミレーは雅弘まさひろと共に在る。


 ミレーは、霊阿弥レアミと自称している。

 それが真名まなならば、霊体として雅弘まさひろに取り憑いているといった表現の方が妥当なのかもしれないが、雅弘まさひろはミレーと共存関係にあると思っている。


 そもそも、霊阿弥レアミにミレーとのあだ名をつけたのは、雅弘まさひろだった。


 ✧


「さて、今日の本題、リカちゃん通信のお時間や」

 雅弘まさひろはにやり笑う。


「朝永博士とのご面談ね」

 雅美はピア通信用のトランシーバを取り出す。

 近隣の九段界隈の政府系の建屋とのみ通信が可能な端末だ。

 

 

「エミリちゃんのお父上との注目の父兄面談だ」

 雅弘まさひろの言葉通り、朝永泰五郎博士は朝永エミリの実の父。

 

 その泰五郎やすごろう雅弘まさひろの対談は、たしかに公安・自衛隊関係者の注目を集めるであろうもの。


 机に置かれたトランシーバの通話先の九段の建屋では、公安調査庁と自衛隊の六眼シックスアイズ関係者が耳を澄ませていることだろう。

 雅弘まさひろと雅美のいる部屋自体は完全にオフライン。

 そのはずだが、盗聴を想定した探査者も配置されていることだろう。

 

 国外にいる泰五郎やすごろうと、雅弘まさひろとの今日の対談は、人類が手出しできない余空間を介した通信によって行われるのだ。

 

 裡なるミレーに確認を取り、雅弘まさひろは呟く。

泰五郎やすごろう博士、聞こえますかぁ」 

 

『はいはい、雅弘まさひろさん、こちら泰五郎やすごろうですぅ。普通に聞こえてますなぁ』

 さっそく泰五郎やすごろうからの声が返ってきた。


「こちらもいつも通りの博士の声音、聞こえてますぅ」

 雅弘まさひろが返す。泰五郎やすごろうの口調が少し感染っているかもしれない。

 

「博士、はじめまして。雅弘まさひろの妹の雅美です。本日は六眼シックスアイズ関係者の1人として参加させていただきます」


『はい、聞いてますよぉ。こちらはドバイのアメリカーナ病院ホスピタルですから、五眼ファイブアイズの皆さんがお揃いかと』


 UAEの国際都市、ドバイ。

 中東・北アフリカMENAの経済ハブにして、対岸のイラン、その先のロシアとも縁ある都市。

 中東の石油利権の要衝として、郊外には米軍が駐留する。米国資本の病院の中にはCIAなどの息がかかっている所もあるのだろう。泰五郎やすごろうの方は、英米系の諜報機関とその対立勢力が耳を澄ませているのだろう。

 

「すみません、泰五郎やすごろう博士。人類史上初であろう余空間通信の場をお借りして恐縮ですが、本通信の物理学的背景をまずはご説明いただいてもよろしいでしょうか?」


『はいは~い。お話しましょう。あくまで僕の仮説となりますがね』

 

『はじめに本通信の舞台のご案内から。まずは、僕等がいる三次元空間と一方向に流れる時間、いわゆる四次元時空ですな。それから、まだ僕らは観測でけへんですが、微小な余剰次元。その大きさと次数には幾つか説はありますが、本通信を理解する上では、余剰次元があると認めるだけで大丈夫です』

 泰五郎やすごろうは、雅美の注文通り、物理学の素養に乏しい文系の官僚、警察関係者に向けて話してくれるつもりのようだ。

 

『で、娘のエミリの中の人、って言うんかな。あと、雅弘まさひろさんの中の人。これらのご先祖が観世阿弥かんぜあみさんらしい、っていうのは聞いてますよね。

 その観世阿弥かんぜあみさんが何処かの佐渡で、米軍さんの言う外的存在エイリアンに出会った。

 結果、観世阿弥さんの霊体みたいなのが誕生して、余剰次元を通じなんやかんやをできるようになった、と』


 九段の建屋に集っている人々は話について来ているだろうか。


『そのあたりの真偽は、伝え聞きの僕にはわかりませんが、中の人に協力してもらって、何ができるんかいな、といったところを、この数年調べさせてもらってました』


 UAEのアブダビ首長国。

 実験都市マスダールに陣取った泰五郎やすごろう達のチームは、外的存在エイリアンと観世阿弥の霊とやらの混合体(長いので、単に体AMと呼称)の研究に取り組んできた。


 体AMの遠隔作用は、余剰次元を介し行われるとチームは考えている。

 雅弘まさひろは、幾分かは既に聞き及んでいたが、まずは耳を傾ける。

 

 いわく、現代物理の見地では余剰次元に作用しうる存在は以下に三分できる。

 

 ① 主な遠隔作用が電磁気力である通常密度の物質

 ② 電磁気力に加え重力も遠隔作用を引き起こす超高密度物質

 ③ 未知の作用を持つ謎の物質等(ダークマター、ダークエネルギー等)

 

 世の科学者は加速器を用い、光速近くまで加速した物質同士を衝突させ、超小型ブラックホールを生成させることを通じ、余剰次元を検出しようとしている。これは存在①を存在②に変えた余剰次元作用(の結果)を知ろうとする取り組み。大規模な装置を使いながら誰も成功していない。

 体AMは加速器のような装置を用いていない。そのため、存在②か存在③。


 泰五郎やすごろうは、これまでの検証結果から存在②を基本とする説を取るようになった。

 

 すなわち、体AMは余剰次元空間に入り込んでも安定な超高密度物質からなる。

 ただし、微小なブラックホールは速やかに蒸発するため、候補から外される。


 そのため、以下の2つの性質を満たす超高密度物質が候補となる

 

 ⅰ 微小なサイズのまま蒸発しない安定性

 ⅱ 余剰次元内を移動する際の質量減衰性

 

 ⅰの候補物質は理論的にはストレンジリット(通常物資の陽子、中性子を構成するクオークが超高密度状態で相転移した後に生成されるとされる、超安定性物質)。

 ただし、地上に存在するストレンジリットは隣接する物質を吸収し続ける。この場合、可視的な影響(物質の消失等)がすぐに生じる。こうした影響が見受けられないことから、体AMの本体は、ⅱの性質を併せ持つストレンジリットと仮定した。



(その名は、綺粒花ストレンジリッカ、あるいは、キリカ)


 雅弘まさひろは心の裡に向け呟く。

 泰五郎やすごろうが同僚の台湾人研究者と共にストレンジリッカに漢字を当て、綺粒花キリカとも読むことにしたのだという。

 奇妙(又は綺麗)な粒子の咲かす花、といった意か。

 なかなか良い名に思う。

 

 同じくクオークからなる陽子や中性子がそうであるように、ストレンジリットも確率的存在である量子。無数の量子が重なり合った目に見える世界ではそんなことは気にしなくとも良いが。

 

 が、綺粒花キリカの咲く場は、五次元時空。この四次元時空に加え、量子効果が及ぶ並行次元へも移動できる。

 つまり、綺粒花キリカは、数多の並行世界を視野に入れられる。

 そんな綺粒花キリカが、室町の世の稀代の陰陽師、観世阿弥と結びついた。

 

 観世阿弥の陰陽は、離間の見。

 時の権力者から愛された観世阿弥の能舞。

 その舞いを支えた験氣けんき

 今風に言えば、絶対音感ならぬ絶対体感能力か。

 験氣けんきの陰陽を向けうちにとりこむ絶対体感。


 年月を経て、佐渡ヶ島に流され失意の日々を送ることとなった観世阿弥。

 彼女の陰陽が奇しくも綺粒花キリカと結びついた。


 その結びつきは数百年の時を超え、今、その験氣けんきは朝永エミリの裡にある。

 エミリが心のうちほとんどを明け渡したことにより、阿弥アミ験氣けんきは純度を増した。

 そして、綺粒花キリカの裡の無念を、阿弥アミとエミリは見出した。

 その念を叶えんがため、阿弥アミは純ならんと欲し、これまで宿してきたの多くを外に放った。

 

 それらは、観世阿弥その人と、その後に縁あった人々との霊としての記憶。

 ゆえあって、そのの多くを、佐渡で隠居生活を始めたばかりの雅弘まさひろが受けることとなった。

 

 エミリの裡にある阿弥アミから放れたは、阿弥アミの想いを抱え、なお果たすべき役割を持つ。

 

 雅弘まさひろは、霊阿弥レアミと名乗ったそのを美しいと思った。

 そして、彼女にミレーとのあだ名を与え、いつくしむようになった。


 ✧


 泰五郎やすごろう博士は、綺粒花ストレンジリッカの理論面、そして余次元通信についての解説を続けている。

 綺粒花ストレンジリッカは、並行世界に生じたこと、この世界に次いで起きることについての情報を提供した。書き込み先は、英米系の諜報機関の閉域ネットワークの五眼ファイブアイズ。厳重なセキュリティに守られている五眼ファイブアイズへのアクセスは、関係者に大きな警戒感を与えた。

 綺粒花ストレンジリッカが対話可能な存在であることを知った後、交渉が始まった。

 結果、依り代が在る日本に、五眼ファイブアイズの隣接ネットワークとして、六眼シックスアイズが構築された。今、日本の公安関係者は、六眼シックスアイズを介し、綺粒花ストレンジリッカを受け入れる準備を進めている。

 彼らは熱心に話を聞いていることだろう。

 

 綺粒花キリカとは何か。

 雅弘まさひろは理論にはさして興味はない。

 ミレーのに華やぎを与えてくれる花。

 綺粒花キリカをただそう解することにしている。


 自分の話す番まで、雅弘まさひろはミレーと共に観てきた風景を振り返ることにしよう。

 ✧


 この地との地らは、虚構領域イマジナリアを介し結ばれる。

 それは、霊気に憑かれ惑った、虚構の記憶なのかもしれない。

 それでも構わない。

 

 あと数年で雅弘まさひろの娘は婿を迎えることだろう。

 その後、女房と穏やかな老後を過ごす。

 そのはずが、墓場まで持っていかねばならない秘め事ができた。

 ミレーこと、裡なる霊阿弥レアミを愛するようになったことを。


 秘すれば花なり、秘するは花。


 そう、能の意を説いた傾国の美女、観世阿弥。

 彼女が世に男と伝わることは、彼の秘事の一助。

  

..( 中略)..


 その時、朝永ともながエミリは14歳だった。


 ユダヤ系のジェイコブとのビデオ通話を通じ、彼女を知った。

 雅弘まさひろが大手の監査法人に勤めていた頃、ジェイコブは中東から10兆円以上の資金を集めたことで世に知られる通信キャリア系のVCに勤めていた。世界有数の資金力を持つVCの守備範囲は、投資先のベンチャーが売上成長加速期、いわゆるミドルステージから先。

 なので、これから起業しビジネスモデルを競い合うコンテストにエントリーする予定の子を紹介したいと聞き、意外に思った。


 ジェイコブは、エミリの職務略歴レジュメファイルを共有した。

 ファイルを一瞥する。

 朝長ともながエミリ、中学3年生。

 父方は、素粒子研究でのノーベル物理学賞者を輩出している俊才の朝永ともなが家。母方は中欧クロアチア生まれ、ユダヤの血族。

 今はアドリア海の風光明媚な観光地で知られるクロアチアだが、冷戦期は血生臭い多民族国家のユーゴスラビアを構成していた。

 

 エミリの家系に興味が惹かれた。

 にしても……中3とは……

 

 ジェイコブの口から聞いた、エミリのビジネスモデルとやらにはピンとこなかった。

 サイバー空間の電子特徴抽出フィンガープリンティング

 例えば、メタバース世界の横断的モーション分析データベースを作成しデータを販売、などと聞くうち、雅弘まさひろは興味を失った。


 エミリの顔写真に、ははぁと思う。起業家コンテストなどではなく国民的美少女コンテストの方に出るのが良さそうな容姿。


 ジェイコブは、コアな技術ヲタ系の投資担当者キャピタリスト

 日本にはなかなかいないタイプと、雅弘まさひろは気に入っていた。

 

 が、彼も人の子。

 20歳は年の離れたエミリの色香に惑わされたのでは。

 ふしだらなロリコンの類。そう思えてしまう。

 なお続く彼の説明を上の空で聞き流し、雅弘まさひろは、「この子が佐渡まで来て能でも舞うというならば会ってもいい」旨を言い残し、ビデオ通話を切った。

 

 ✧

 

 半月の後。

 母代わりだというハンナを伴い、島の商工会をエミリは訪れた。

 宝石商を営むハンナは、かつて金山銀山で栄えた能舞のうぶの島、佐渡に興味があるとのこと。

 亡くなったエミリの母ミケーラとハンナは、同郷の血族。


 当初、遠路はるばる訪れたエミリが語るビジネスモデルはやはり凡庸に感じられた。

 夜の会食では、むしろユダヤの宝石商であるハンナの話の方に盛り上がった。

 

 翌朝の能舞台。

 年代ものの装束に灰白の面のと身なりで、エミリが舞う。

 上手うわての舞いだ。

 能舞慣れした佐渡の通人たちが唸っていた。

 

 ✧

 

 その後、エミリが千代田区の名門女子校の生徒であると知った。

 妹の雅美の子、風雅みやびが入学予定だった。

 久しぶりに雅美と話し、数日後の入学予定者オリエンテーションでエミリがバレエのプリマを披露すると知った。

 急ぎ東京に向かい、雅美と共に1分ほどのエミリのバレエを見た。

 エミリは舞姫なのだと確信した。



 高等部に進んだエミリのことを、伝手をたどり追いかけた。

 歌舞伎町のいかがわしげなクラブで、レオタード姿でパントマイムを披露し人気を博していると知る。

 

 たまらず、ジェイコブに連絡を取ってみると、彼女が既にインターネット・メタバースの電子特徴抽出フィンガープリンティングのためのベンチャーを立ち上げ済と知った。

 歌舞伎町での撫舞姫パントマイナ活動は、ベンチャーの運用資金のためらしい。

 

 呆れた雅弘まさひろは、直にエミリに連絡してみた。


 渋谷のファミレスで再開したエミリは、1年で随分と大人びていた。

 その時、雅弘まさひろは、阿弥アミ霊阿弥レアミの話を聞いた。

 

 ✧

 

 エミリが一つ年上のユキをベンチャーに誘う様を、半信半疑のまま、雅弘まさひろは、霊阿弥レアミと共に観た。

 そして、霊阿弥レアミ綺粒花ストレンジリッカの織りなす験氣けんきを識りはじめた。



【作者の参考経歴】

 ・大学1年の頃のアルバイトは江東区某地での本格カジノバー店(夜間営業)。

  ※平成の頃、深夜時給1800円。

 ・職務内容は、ルーレットのコインの勘定が主。

  ※一発でコイン20枚を正確に数える手と体育会系のキレのある動きが売り。

  ※実際に「お花」を取引しておられるお客様は、皆、「ガチ勢」。

 ・同僚は、ポーカー担当のミニスカお姉さん、本格派バニーガール等。

  ※同僚の一人、濃ゆいお姉さんは、以下作のヤン女神のモチーフに。

    https://kakuyomu.jp/works/16816700427195152892

 ・ポールダンスは、その頃に連れ立って行ったお店で見た程度。

 ・その後しばらくして、霞ヶ関勤務(某国諜報機関員とチームを組んだことも)。


【参考作品】※敬称略

 西尾維新 化物語シリーズ

 高橋留美子 らんま1/2

 暁なつめ このすば 

 中上健次 讃歌


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