第6話 ウチらが捕まえろってさ、凜風殺しの犯人を

「殺された? なんで!」

 欣怡シンイーはリビングのソファーに掛け、じっと俯いている。

 先程も聞いた通り、彼女はリウ凜風リンファの妹。つまり『倖福海老』の下の令嬢だ。

 そもそもなぜ僕の居場所が分かったのか。答えは簡単だ。僕の結婚式は台湾全土に放送された。龍山寺周辺で「死者と結婚した日本人は?」と尋ねれば誰かが知っている。

「何かさ、この子なりに凜風の事故を調べてたんだべ。火災現場にも行ったんだってさ。忙しい学生さんなのに、よく頑張るねえ」

 すると欣怡はスマホを立ち上げる。Facebookだ。

「わあ、今時の若者だねえ」

「台湾人の46%がFacebookやってるって話だべ。若者なら全員やってんじゃねえか。しかも台湾人は自撮りが好きだからな。Instagramも大人気だ」

 友達リストから『Liza Liu』を選択する。劉凜風のアカウントだ。

 欣怡が「Hey! look look」と英語で促す。凜風の生前の投稿。その言葉を見て、僕と陽は絶句した。そこにはたった一言。

『助けて』

 日本語だった。

「これが、凜風さんの、最期のメッセージ……」

 なぜ中国語ではなく日本語なのか。誰に向けてのメッセージなのか。隣で陽がじっと目を細める。

「投稿されたのが八月十一日の午後二時五十分。たしか火災発生が同じ日の三時ごろ。事故の直前に投稿してるべ」

「じゃあ凜風さんは、火事の前から何らかの危機を察していたって事かな」

 欣怡はペラペラと続ける。僕は陽に目配せし通訳を促した。

「何だって、凜風のアパートに変な奴がウロウロしてたって。それが近隣住民からも目撃されてんのか」

「でも、これだけで殺されたって決めるのは早くないかな」

 陽が僕の言葉を訳すと、欣怡は早口でまくし立てた。

「ええと。火事の直前に、凜風の部屋から誰かが出てきた。それからすぐ、火の手が上がった、と。その誰かって、誰なんだよ」

「つまり凜風さんは、その『誰か』に殺されたかもしれない――って事? そこまで分かってるんなら、今すぐ警察に行くべきだよ」

 陽は僕の言葉を訳し、欣怡の返事を聞くと首を横に振った。

「ダメだった。事故で片付いたから相手にしてくれない、って。調べるとは言われたらしいけど、ホントのところはどうだか」

 すると欣怡はテーブルに両手をついて深々と頭を下げた。

「請尋找殺死Liza的犯人!」

 それを聞いた陽は大きなため息をついた。

「それって、ウチの闇CHへの持込み企画って事で良いのかい」

 僕は合掌するように両手を組んだ。

「……もしかして」

「ウチらが捕まえろってさ、凜風殺しの犯人を――」

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