第4話 まだ十九歳なのに、死んじゃうなんて
「したっけ、また明日な」
そう言って陽は自室に戻った。リビングに残された僕は大きなため息をつく。窓には鉄格子が嵌っていた。空き巣が多いので、この辺りのアパートは大概こうなっているらしい。まるで監獄だ。
陽は『大阪の小陽』の二階に部屋を借りている。部屋は自由に使えと言われたが、『水道水を飲むな!』『トイレに紙を流すな』と釘を刺されていた。
シャワーで汗を流し、僕も寝室に入った。ソファーベッドに飛び込もうと思った時、僕は陽からの言いつけを思い出した。
「リ、
誰もいない真っ暗な部屋で、死んだ花嫁の名前をつぶやく。
「あ、あの。良かったら、こっちに……来ませんか」
冥婚初夜はこうして、花嫁を寝室に呼ぶのが習わしだ。そして枕を二つ並べる。右が僕、左が凜風。位牌を置く位置と同じだ。花嫁の枕は一か月間置かなければならない。
「お、おやすみなさい」
暗闇で霊に語り掛ける。幽霊を信じる訳でもないが気味が悪い。
明日は
僕はスマホを開き、生前の凜風の写真を眺めた。彼女の父親から送られてきた画像だ。僕にはもったいないくらいの美人だ。
披露宴の後、等身大の花嫁人形は燃やされた。ドレスやヴェールも一緒だ。焼け爛れてゆく凜風の顔写真を見ていると胸が痛くなる。
彼女は火災で亡くなった、という。
「まだ十九歳なのに、死んじゃうなんて」
劉凜風は『
凜風も
国民小学の一年生の頃から日本語を学び始め、キッズアニメやドラマから日本語を覚えていった。三年生になる頃には、字幕なしで子供向け番組なら大体理解できるようになっていたという。
高級中学(高校)では外語系の学科に進学し、日本語を選択した。台湾の学生で、第二外国語に日本語を選択する者は半数を超えるという。そして大学一年生の頃、日本へ語学留学した経験もあるらしい。
彼女の夢は、外交官になって日本と台湾の国交を復帰させる事。日本と台湾は、民間交流は盛んだが公的な国交はない。自らが日台友好の懸け橋となり、兄弟のような関係を築ける事を夢見ていた。
その矢先の事故だった。
出火場所は彼女の部屋のキッチン。彼女の遺体はソファーで発見された。よほど疲れていて、鍋を火に掛けたまま眠ってしまったのか。油に引火して火の手は部屋中に回った。充満する煙に意識を封じられ、そのまま帰らぬ人となった。
その時、リビングから喧しい音が聞こえた。
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