奇妙なアルバイト~引きこもり探偵の冒険3~

藤英二

奇妙なアルバイト(その1)) 

元同級生の内村玲子は、約束を守って可不可探偵事務所のクライアントを紹介してくれた。

クライアントといっても、ゼミの後輩だが・・・。

大学のキャパンパスのカフェテリアで会うことになった。

玲子は3月に卒業したが、じぶんは、母親が学費を払い続けてくれているので、取得単位はゼロだが、まだここの学生のままだ。


後輩の菱田百合子は、田舎出の質素な学生らしく、まったく化粧気はなかったが、目鼻立ちの整ったうら若い美女だった。

いや、・・・まだ美女の卵といっていいか。

百合子は強度なはずかしがりのようで、はじめは目を伏せてもじもじしていたが、コーヒーを飲み終えると、やっと体験した奇妙なアルバイトの話をはじめた。


バカ高い大学の授業料を払うために、百合子はさまざまなアルバイトをしていたが、

「つい最近、高額なギャラに釣られてモデルの仕事をしまして・・・」

と、マイストーリーを語りはじめた。

モデルといっても、ファッションや広告宣伝のモデルではなく、絵のモデルだという。

「絵のモデル?」

一瞬ヌードモデルを思い浮かべて、百合子の白いブラウスの胸のふくらみに目が行った。

百合子はそれを察したのか、

「絵のモデルといっても、和装をして毎日3時間椅子に座って動かずにいるだけなのです。それをとりあえず一週間続けるだけでけっこうなギャラになるのです」

と顔を赤くして、モデルのアルバイトの説明をした。

「それと、もうひとつ条件がありました」

しばらく間を置いてから、

「・・・女優の真理まりえさんに似ているというのが、いちばん大きな条件でした」

百合子は、恥ずかしそうに俯いた。

真理まりえといえば、今はセミリタイアしているが、純和風美人として一世を風靡した大御所女優ではないか。

百合子をよく見ると、

『30年前の真理まりえなら、たしかにこんな顔をしていたかも知れない』

と思えて来たから不思議だ。


「でも、驚いたことに・・・」

百合子は、そのアルバイトの奇妙なところを話し出した。

「広尾のお屋敷へ行くと着付けとメイクさんに着たこともない高級な和服を着せられ、応接間のソファーに座らされました。・・・ただ、目の前に白地のキャンバスがイーゼルに掛かっているのですが、肝心の画家さんが現れません。ただ、何があっても3時間動かないでいるというのが条件でしたので、じっとしていました。・・・1時間ほどすると、庭側の窓の外に車椅子の老人が現れ、こちらをじっと見ているのです。その間、30分ほどでしょうか。・・・ちょっと薄気味悪かった。すると、もう帰ってよいと言われて、法外なギャラをいただいて帰りました」

そんなことが一週間続いたと百合子は訥々と話した。

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