救世主と優しい噓

@4lice_cc

第1話 刻印の少女

昔々、人類は神に近づこうとし、神の怒りを買いました。


文明は崩壊し、人類は絶滅の一途を辿っていました。

人々の心は廃れ果て、法は効果を失ってしまいました。


そんな人類を見兼ねてか、それとも悪戯か、神は救いの啓示を行いました。


「1年後、最果ての村に刻印が刻まれた娘が産まれる。彼女を…。」




神が神父に啓示を終えると大きな地震が起き、建物は崩壊し、大地は裂け、文明の軌跡はなくなりやがてそこには塔が建った。


人々はそれを【神の塔】と呼び、救世主(メシア)の誕生を待つことしかできませんでした。








「それじゃあ、いってきます。」


「待ちなさいソフィ。」


不意に後ろから声がかかる。

そこには私より背の高い少し短い赤色の綺麗な髪が似合う女性が立っていた。



「どうかしたの?レイ。」


「街まで行くなら、パンも買ってこれるかしら?今日の夜ご飯はシチューにしようと思うの。」


「わかったわ。」


「牧場にクリスが居るから連れて行ってもらいなさい。彼も街に用事があるみたいだから。あとサングラスは忘れないで。」


「うん。ありがとう、いってきます。」


「気を付けてね。」



ミストリウス。最果ての村と呼ばれるこの村は、人口も少なく貧しいながらも今の世界状勢を考えるととてもいい村だ。


「おぉ、お出かけかいソフィア。気を付けるんじゃぞ。」


「ありがとうピオおじいちゃん。いってきます。」



そうしてソフィアは村から少し離れた牧場を目指しました。

牧場につくと、青髪の青年が動物たちの世話をしています。

そんな彼にソフィアは声をかけます。


「クリスー!」


「ソフィア。どうしたんだい?こんなところまで。」


「これから街へ行こうと思うんだけど…馬車を出してもらえるかしら?」


「そうなのか、少しそこで待っててくれるか?馬車の準備をしてくるよ。」


「ありがとう。」


クリスが厩舎に向かうと「待って待ってー!」と遠くから可愛げのある声が響いてくる。

緑色の髪、私より背の低い可愛らしい女の子が走ってこちらに近付いてくる。


「フラン?今日は家で留守番だってレイに言われてなかった?」


「いいのよ!レイチェルには内緒。それに私はもう一人前のレディーなんだから好きにするの!」


「それでもフランが年下なのは変わらないよ?」


「もーーーー!ソフィのいじわる!」


「ごめんごめん。怒られても知らないよ?」


「大丈夫大丈夫!」


「あれ?フランも行くのか?」


「うん!いいでしょ?」


「僕は構わないよ。」


「やった!早くいこいこ!」


クリスが馬車の準備を終わらせ、私が先に乗りフランが乗りやすいように手を差し伸べる。

「ありがとー。」とフランが笑顔で乗り込んでくる。


馬車に乗り、村を通りこれから野道に出るというところで馬車が止まる。


「クリス?大丈夫?」


「あー。大丈夫じゃないかもしれないな。」


馬車の正面を見る。


…レイが仁王立ちしている。

横には黄色の髪をした男の子が立っている。


「なんかあったの?…ゲッ。」


「な?抜け出してたろ?」


「…まったく。ありがとうセシル、あなたのおかげで気づけたわ。」


「セシル!あなたチクったわね!」


「お前が勝手に俺の牛乳飲むからだろ?」


「ちゃんと名前書いときなさいよね!」


「二人とも喧嘩するのはいいけど部屋の掃除はちゃんとしたのよね?」


「「…。」」


フランは馬車から引きずり出され、レイに引きずられながら私たちの家に帰っていく。


「ははっ、仲良いな。三人とも。」


「そうね。でもちゃんと部屋の掃除はして欲しいわ。」


「まあまあ。最近言動がレイチェルに似てきたんじゃないか?」


「なんだか複雑な気持ちね…。でもまぁ良いことと捉えておくわ。」


「さて、そろそろ僕たちも街に行こうか。」


「うん!」








そうして彼女たちはしばらく馬車に揺られ、街に着きました。

村とは違い街は活気に満ちています。

街の中央には噴水があり、誰かとの待ち合わせをしている者や、歓談を楽しむ者、家族で買い物を楽しむ者で溢れていました。



「クリス、買い物は済んだ?」


「ん?ああ、もう済ませたよ。」


「じゃあみんなも心配するしそろそろ帰ろうか…。うわっ。」


広場を走っていた男の子とぶつかる。

ぶつかった衝撃でサングラスが外れてしまった。


「大丈夫?怪我してない?」


「いてて。」


「そんなに走り回ったらダメでしょ!すみません、お怪我は…え…。」


「ん?あっ…。」


一瞬にして冷や汗をかく。

サングラスが外れている。

普通の人ならそんなこと気にもしないだろう。

…私は違う。


「きゃーーーーっ。」


声をかけてくれた男の子の母親が悲鳴を上げる。

「どうしたどうした?」「大丈夫か?」

周りから人々が寄ってくる。

その多くが「おい…あれって…。」「あの刻印…まさか…?」と囁いている。


「ソフィア!逃げるぞ!」


呆然としていると、クリスに腕を強く引かれ意識が戻る。


「う、うん。」


路地裏に逃げ込む。

「はぁ。はぁ。」息が上がる、肩で息をしてしまう。


「ごめん、大丈夫か?」


「うん。それより…私の目、普通じゃないけどどうしてあそこまで反応するのかしら…?」


「…。」


「クリス?」


「わからないが一旦村に戻ろう。ここに居るのは危険だ。」


「そ、そうね。わかったわ。」




二人は慌ただしい街を、いや、路地裏を抜けて街を出ました。

目立ったことはできないので馬車は捨て、歩きで村へ戻ります。

しかし馬車では早い道のりも、歩きとなると時間がかかりました。

村に着くころにはあたりは暗くなり、星が輝く夜になっていました。


「…。大変だった…。」


「ごめんソフィア、僕が離れたせいで怖い目にあったな。」


「ううん、クリスのせいじゃないわ。あれは事故よ。」


「二人とも!無事に戻ってこれたのね!」


「レイチェル、心配かけてすまない。」


「ソフィアも何事もなくてよかったわ。さ、早くご飯にしましょ?」


「うん…。心配かけてごめんなさい。」


「誰も悪くないわ。クリスちょっといいかしら?」


「ああ。ソフィアは先に家に入ってな。」


「わかったわ。」


私が家に入ると

「ピオ神父のところにいこう。ついに正体がバレた。」

「…。わかったわ。行きましょう。」

と二人の話声が聞こえていたけど、聞かなかったことにした。

何かが壊れてしまう気がしたから。



私は何も口にせず、ベッドに潜り眠りについた。

今日起こったこと全てが夢であってほしいと願いながら…。












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