第13話
13
外だから咎めないのか…それとも、俺が誰と寝ようとも関係ないのだろうか。
向かい合わせで気まずい。
逸らしたままの視線が戻せないでいた。
『帰んぞ』
庵司がそう呟き立ち上がるのが視界の端に映り込む。
ゆっくり席を立つと、向かいに立った庵司が俺の握りしめた拳に触れた。
指を一本ずつ開かれ、さっき圭介さんから渡された居酒屋のクーポン券が出てくる。
握り締めていたせいで紙はクシャクシャだ。
そのクシャクシャのクーポン券を手の平から取り出して、テーブルのグラスの中に入れた。
水分を含んだ紙はフワフワと広がり、文字は滲み読めなくなる。
グラスを持ち上げた庵司は俺の目の前にソレを突きつけた。
『悲しい?』
「庵司…」
『雪乃は俺じゃダメなの?…おまえの中…もう俺の形になってんだろ?』
屈んだ庵司は耳元で囁いた。
下半身に響くような低音…最中に嘘くさい愛の言葉を囁く時のような…そんな声…。
俺は触れた肩をつき飛ばせ無かった。
圭介さんはあんなにも優しかったけど…俺は庵司に抗えない。
「帰る…庵司と…帰るから許して」
『…ふふ、良い子だ。』
公衆の面前で頭を抱き寄せられ、俺は温かい庵司の首筋の匂いを気づかれないように吸い込んだ。
煙草と
女の香水と
首筋からずらした視線に映った…他の猫が付けた爪痕…。
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