第4話



4


その夜、庵司のマンションに初めて入った。

想像していたより良いマンションで、入る前に建物を見上げたくらいだ。


夜職の匂いしかしないような形のせいか、違和感は無かったんだ。

きっとNo.1ホストとかで、金回りは良いに違いないと思った。


『サンキュ…助かったわ』

「じゃ、俺はこれで」

リビングのソファーに座らせて肩に回していた腕を下ろした。

離れようとした瞬間、手首を掴まれ引き戻される。

バランスを崩して、そのまま庵司に抱きつくように倒れ込んでしまった。

「わっ!ごめんっ!大丈夫っ!?」

慌てて離れようとする俺の身体を力強く抱きしめて、耳に唇が触れるのを感じた。

「ちょっっ!!」

『シー…黙ってろよ』

庵司はそう言って俺の頭を抱き寄せた。

身動きが取れない。

ソファーに座った庵司に覆い被さるように抱き寄せられ、頭の中がパニックを起こしていた。

『雪乃…良い匂いがする』

「そっ!そんなはずないよ!今朝だって満員電車に揺られて、煙草まみれの中で酒呑んで…親父臭い匂いしか…」


言ってて虚しくなる。


『確かに、煙草と酒の匂いもするな…でも…ここからは雪乃の匂いしかしないよ?…すげぇ…エロい匂い』

首筋に鼻先を寄せてそう呟いた庵司はツゥーッと舌先でそこを舐めた。


ビクッと身体がしなって、胸元に手を突き、顔を見合わせた。

「…ど、どういうつもりだよ」

『さぁ…』

ニヤリと笑う庵司の顔は悪魔みたいに綺麗だった。

逃げられないと


そう感じていたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る