ぼくの悪魔
第19話
史上最高、笑いに笑った運動会が終わって、またなんてことない日常が過ぎ去っていく。秋の文化祭も終わり、暑いクリスマスも、暑いお正月も終わった。
真一郎は相変わらず、勉強勉強って、口では言うけど、日本に帰る気配はみせない。昼休みなんか、卓也とボールを取り合いするようにして、運動場へかけだしていく。
でも、ぼくは、ちょっと元気がない。
ぼくの帰国の日が決まったんだ。
卒業式が終わると、ぼくは日本へ帰る。
教室のなかから、ぼくはみんなが遊んでいるのをながめていた。
ぼくは、ぼくの帰国をみんなが知っているんだと思うだけで、なぜかみんなの輪に入りにくい。今までは、横一列に歩いていたのが、ぼくだけ半歩の半分ぐらいおくれてしまうっていう感じ。
「よ、こんなとこでなにしてんだ」
香川先生が教室にはいってきた。
ぼくは「ちょっと」と言っただけだったけど、先生は「そうか」とわかったような返事をした。
「先生も卒業式が終わったら、帰国するんだよね?」
ぼくは、きのう、お母さんから先生の帰国の話をきいていた。
「ああ。祐介も帰るんだったな」
「帰国は、ぼくらの、せい?」
「何で?」
「だって、応援合戦もめちゃめちゃになっちゃったし……、また校長先生から怒られたんでしょ? それに、悪魔祓いだなんて……」
ぼくらが、悪魔祓いをした日、香川先生はPTAのパーティーに出席していなかった。イーチェ先生と会ってたということが後からわかった。あんな騒ぎをぼくらがおこさなかったら、だれにもわからなかったかもしれない。あの騒ぎがなかったら、何の問題にもなっていなかったんだとぼくは思う。
先生は、頭の後ろをガサガサとかいて、「ちがうんだよな、それが」と、顔をしかめた。
「じゃ、どうして帰国するの? ほんとうならもう一年ここにいるはずなんでしょ?」
「先生がやめたいと言ったんだ」
「ええ?」
「なんか、もっといっぱいこの国のことが知りたくなった……て、いうのが本当の気持ちかな」
ぼくは、どういうことだろうと思って、先生のつづきの言葉をまった。
「うーん、たとえば……。祐介は、アニスさんやミラさんがどんな所に住んでいて、どんな生活をしているか知っているか?」
ぼくは、先生の質問に、アニスから聞いたアニスの田舎の話を思い出した。田んぼや畑がずっと続いていて、あひるが田んぼの横の溝で泳いでいる。親戚の家や友だちの家が近くにいっぱいあって、ときどき、お祭りがあって……。ぼくはそこまで思い出しながら、先生の知りたがってることはこんな事じゃ無いような気がした。
ぼくがだまっていると、「もう、限界かなぁって思う」と先生が上を向いたまま、コリコリと首をたおした。
「限界って?」
「いや、そんなことはどうでもいいんだ。ただ、イーチェ先生も日本へ留学するらしいし……」
先生の顔がうれしそうにゆるんだ。
「ええ、先生はイーチェ先生を追いかけて日本に帰るの?」
「じゃ、ないんだけど、たまたまそういうことになるってことで……」
「言ってやろ。みんなに言ってやろう」
ぼくは、さっと立ち上がりかけだした。
「こら、まて。言うな。そんなこと言うやつがあるか」
先生が追いかけてくる。
「ニュース、ニュース。おーい、みんな」
ぼくは先生に捕まらないように、みんなのところへかけだして行った。
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