第2話 ミナトくんのバナナ
遠くの街に転校して来て、いじめられて独りぼっちのミナトくんが遠足で動物園にきたお話です。
今日は春の遠足です。バスから降りると動物園がありました。自由時間になると、友達同士で、好きな動物を見に走っていきました。
ミナトくんは、一人でした。遠くの町から転校して、言葉づかいが違ったりして、いじめられて一人でした。
やがて、お弁当の時間になりました。ミナトくんは一人で噴水のそばに座ってお弁当を食べました。食べ終わるころになって、先生が気づいて、ミナトくんを何人かのグループに入れました。
みんなはおしゃべりしていたので、まだお弁当を食べています。ミナトくんは、バナナを出して食べようとしました。濃い黄色が美しいバナナでした。
その時、ある子が、割りばしの袋に入っていたつまようじを出して、ふざけてミナトくんのバナナに突き刺しました。
ミナトくんの心に表しようのない気持ちがわきあがりました。
さみしい遠足で一人で耐えていた心のどこかがやぶけてしまったようでした。美しいバナナは、細いつまようじ一本で汚され、何も価値が無くなったように感じられました。
気が付くとミナトくんは、汚されたバナナを握って走り出していました。
こんなバナナ、どこかに捨ててしまいたい。
バナナが汚されたことも、それを自分が持っていることも、それを食べることも、自分が傷つけられるような気がしました。
しばらく走ると、木陰に飼育員さんが子象を連れているところに出くわしました。
「どうしたの。」飼育員さんと子象は立ち止まって、ミナトくんの方をむきました。
ミナトくんは、しばらく黙っていましたが、もう涙があふれそうでした。いじめられていることも恥ずかしく、それを自分から言うのもみっともなく思えたからです。でも、飼育員さんと子象は、ミナトくんが話せるまで、その場に立ってずっと待っていてくれました。
「こんなことされてん。」ミナトくんは、つまようじで汚されたバナナを見せました。
「かわいそうに。」飼育員さんは、そっとバナナを受け取ると、つまようじを抜いてくれました。
「もう、どこかにほって《すてて》。」
「捨てたいの。」
「うん、もう食べとないねん。」
飼育員さんは、バナナをそっと撫でて、ミナトくんの髪も撫でてくれました。
「こんなことで、この美しいバナナの値打ちは少しも変わらないんだよ。」
「えっ」
「ほら、とってもおいしそうさ。」子象は飼育員さんの腕に鼻を巻き付けてねだります。
「この子にプレゼントしてくれるかい。」飼育員さんはバナナをミナトくんに渡します。
「うん。」ミナトくんがバナナをあげると、子象は、ペロリとおいしそうに食べてしまいました。
「うわあ。」ミナトくんの顔が笑顔になりました。
ミナトくんは、しばらく子象に触らせてもらったり、乗せてもらったりして過ごしました。
参観日がやってきました。遠足の感想文を発表します。ミナトくんは、ありのままを書きました。
「嘘だ、嘘だ。」そんな声が聞こえましたが、ミナトくんは、自信をもって笑っていました。
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