短編集
みはらなおき
第1話 ギターに祈る男
-まだ学生が、歩兵銃を持って、行進をする前の話-
お昼下がりの大学の大教室。授業が始まる少し前、先生がちょっとした話をし始めました。
「あるところにギターに向かって祈りをささげつづける男がいました。
旅人が通りかかり、ギターを弾いて見せて
『ギターは音楽を奏でるものなのですよ』と
教えてあげました。
男は、とても恥じ入った表情をすると、石に頭を打ちつけて死んでしまいました。」
「さて、この男はいつから不幸になったのでしょうか」先生は学生たちを見渡しながら、穏やかな微笑みを投げかけました。
学生たちは、先生のいつもの面倒くさい話が始まったのかと少し苦笑いしながら、互いの顔を見合わせました。
先生は、学生の自問自答が行き詰まった様子になるまで待って口を開きました。
「最初から不幸だったのでしょうね。心から信じていれば旅人にギターの使い方を教えられても恥じ入ることもなかったでしょう。また、ギターが何かを知らないことを恥じる心ばかりで知る喜びがないことも不幸と言えましょう。」
先生はいつもの癖で新品のチョークの角を少しぐりぐりと黒板にこすって角を丸めてから
今日の講義の表題を書き始めました。
<おわり>
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