6.本物

6.本物

そのあとすぐにジェット機へ乗り込んだ。いつもなら即座にタブレットで事件資料を見ながら仕事に没頭するのだが、今回は旧友の調査結果を最優先で確認する。機内に監視カメラがないことは分かっているのだが、念には念を入れトイレでメモを開く。脳に刻み込むと細かく千切って水で流す…かと思いきや口に放り込んだ。"上"のことを見くびってはならない。"本物"だけが所属することができる組織。学歴、知識、経験、能力、国家資格、頭脳指数など、"上"の前ではなんら意味をもたない。"本物"かどうか。その一点のみであり世界共通の真理である。…と、"上"が定義付けているのだ。そしてソナタ自身も"上"が認める"本物"なのである。


それにしても、今回の調査結果はこれまでにも増してセンセーショナルだった。内容は、夫の元妻、つまり義理の娘たちの実母の素性と死因について。ソナタはここにロンドの"闇"の根源があると考えており、右上隅に"a"と書かれた細長い付箋に視認できるギリギリの文字で端的に報告が記されていて、今しがたそのほんどが明らかになった。もし事実であればすぐさま帰国し、夫と膝を突き合わせて話さなければならい。なぜなら、元妻を殺したのはロンドであり、すべてを"上"に処理させ自分は悲劇の寡夫かつ父親を演じ、世界中を騙し幼馴染を騙し、再婚したとあるのだ。だが、あまりにもスペースが小さいためか、その証拠や動機、殺害方法などは示されていない。信頼する旧友の調査結果を疑うわけではないが、最後まで夫を信じたい。これはこれとして受け止め、本人からもきちんと話を聞いてから判断をしよう。


…さて、ひとまず家族のことはここまでにして、仕事に取り掛かることにする。

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