7.俯瞰

7.俯瞰

事件のおさらいと解決の糸口を考察する。被害者は世界的な舞台演出家であり、知名度は圧倒的に高い。彼が主催する劇団のメンバーの1人は、事件の顛末には腑に落ちない点が多く、警察に何度も再捜査を要請するも取り入ってもらえなかったと言う。演出家がルンビニを訪れたのは、演劇をもっと世界中に広めるという野望ゆえであった。日常の舞台演出の仕事と並行し、芝居がもたらす人への影響の可能性を常に模索していた。至るところに劇場を作り、演劇鑑賞の文化を浸透させたい一心でとにかく行動を起こしていたのだ。


メンバーによれば、車を運転していた女の夫は演出家が以前主宰していた劇団の元メンバーだった。その妻がルンビニの地でたまたま彼を車ではねるという偶然が起きるわけがない。これが1つ目の主張。そしてもう1つは、何のために宿泊しているホテルから離れた田舎道を歩いていたのか。その理由がまったく分からないということである。つまり、元メンバーが限りなく怪しいということなのだが、何一つ主張を裏付ける証拠がなく、事故として処理された。


不審な点があるのはたしかだが、情報が足りないというのがソナタの見解だ。"上"からは、近頃連続している世界的な著名人の殺人事件という観点も含め調査せよという指示が出ている。家族の問題はこれが終わったあとに考えると決めた。これからの時間は、事件解決だけに集中しよう。

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