依頼
「で、依頼は?」
カリナンが居心地悪い事に気がついたダイナが田代に話しかける。
「今回は、ビルの中だ。経産省のサイバーチームが海外とメールをやりとりしている武装グループを見つけた」
田代はステーキを食い終わると、コーヒーで口を洗って答える。
「これを制圧、逮捕しろ」
「警察の仕事だろう」
田代が言うとダイナは、嫌そうに言う。
人間相手の仕事は気が進まない。そもそも冒険者を嫌う警察がどうして依頼するのだ。
「元従軍者だ」
話を聞いてダイナは納得した。
戦争が終わって復員しても職に就けなかった人間は多い。
唯一、戦争で身につけたスキルを使って無法に走る人間がいてもおかしくない。
「警察では対処しきれない」
せいぜい拳銃程度しか持たない警官が小銃を持つ相手に敵うわけがない。
SATでもサブマシンガンまで。狙撃銃はあるが場所を選ぶ。
自動小銃、サブマシンガンより威力も射程もある人間相手にはかなわない。
個人ならともかく、集団となると警察力では無理だ。
陸自の一個小隊でも小規模な県警の火力を上回るとされている。
戦争以前の日本が平和だった証拠だが、戦争後、武器や武器になれた人間がいる世界では力不足になってしまっていた。
新たに対応する部隊を警察は編制しようとしているようだが、予算や法律で難しいようだ。
だから、ダイナ達のような冒険者に依頼が来る。
「ここ数日、ホテルに滞在していて、こいつらの雇い主はどうも大きな取引の護衛に使うようだ。こいつらを潰してご破算にする」
「泳がせて捕らえないのか?」
黒幕を逮捕しない限り、同様の事件は頻発する。
泳がせて捕まえるのは基本戦術だ。
しかし、田代は珍しく弱った顔をして答えた。
「そうしたいが、人手不足だ。ここで禍根を断つ。武器の不法所持で逮捕だ。一時的にだがお前達に逮捕状と執行権限を与える」
警察も人手不足、特に武装集団を相手にする人材がいないため、冒険者に代行を依頼する事が多くなっている。
ダイナも納得していた。
戦争が終わった直後、乱れた治安を立て直すために似たような任務をこなしていた。
「で、報酬は?」
「がめついな」
金の話をしてくるダイナに田代は嫌な顔をする。
しかし、ダイナは堂々と話しかける。
「一応プロだからね。金で動かないと。それとも私情で人殺しをしてほしいのかい?」
「そんなことすれば、俺が殺してやる」
「私情で殺すのはあんただけだよ。それに共食いして欲しいんだろう。だから依頼してくるんだろう」
ダイナと田代は睨み合う。だが、田代が笑って答えた。
「まあ、こんなところで馬鹿げた事しても仕方ないな。俺も栗栖と小林に言われてやって来ただけだ。OBとはいえ経産省顧問からの依頼で動かすなんて。たくっ、余所の人間だからって俺をこき使いやがって」
傍若無人な田代でも、上官には文句を言えても逆らえないようだ。
田代を部下に持った時点でご愁傷様とダイナは同情してしまう。
と言うより田代の手綱を持っている時点で尊敬に値する。
「まあ、その分、連中には金は出して貰うさ」
ふてぶてしい台詞を田代は言う。
「その割の良い報酬からお前らおごれよ」
「たかるのかよ」
田代はふてぶてしいを通り越して厚かましい人間だった。
ダイナが呆れてもぐいぐい迫る。
「少しくらいいいだろう。安い給料で働かされているんだ。これくらい役得だ。良い仕事を回すんだから多少は、感謝で支払え」
「金額と相手次第だ」
付き合いきれず、ダイナは戯言を切り上げて本題を聞き始めた。
「相手は元従軍者で五〇二にいた普通科隊員四名。戦争中は同じ班に所属していた」
「ツーマンセル二組か、厄介だな」
二人一組で周囲を警戒し、二組が相互に連携する。
隙が少ないし、一度に倒せる機会も少ない。
「行動確認は?」
「大まかだが、必ず二人が部屋の中で待機。もう一方が外に出ている。行き先は不明」
「まかれたか」
「倉庫街方面へ向かっているのは分かっているが不明だ」
「大雑把だな」
「人手不足だからな」
「足りていたら俺たちの所に来ないか」
「分かっているなら口に出すな」
田代が不機嫌にダイナに言う。ダイナは涼しい顔で受け流すと真顔に戻る。
「武器は?」
「少なくともサブマシンガンは持っている」
「小銃で武装していそうだな」
「冒険者やっていたそうだ。ツテはあるだろう。登録しているチーム名はゲートキーパー。今でも名乗っている」
「ゲートキーパーの腕前は?」
「十数人のヤクザが絡んできた時、銃器を使っているが撃退している」
「まあ、そうだろう」
統率のとれたチームは烏合の衆より強い。
銃とバックアップさえあればダイナはゴブリンをいくらでも殺せる自信がある。
従軍経験者ならこの意味は理解出来るだろうし、相手も同じくらいの練度だろう。
「少なくとももう一チーム欲しいな」
「ご心配なく。私の方から、一チーム四人を出しますわ」
ダイナが心配しているとすかさずリサが言った。
「じゃあ、俺たちは何を」
人手がいるなら呼ばれる必要は無かったはずだ。
「後方で支援、バックアップを頼みますわ。ゲートキーパーなど直ぐに片付けますのでごゆるりとお休みになっていらして」
「まあ、いいか」
ダイナは、そう言って納得した。
「了解した。だが規定通り貰うぞ」
「がめついな。待機しているだけなのに」
「緊急時に対応出来るだけの腕は持っているよ。その腕に金を出しているんだろう」
「そういうことだ。じゃあ頼むぞ」
そう言って、田代は部屋を出て行った。
「マジで、奢らせるのかよ」
金を支払わず出て行った事に、ダイナは田代の劣悪な人間性を改めて認識させられた。
同時に支払わなくてはならないと思ってスマホを取り出しQRコードを読みこもうとする。
「ご安心をここは私が出しますわ」
だが既に、リサがスマホを出して操作していた。
「いいのか?」
「構いませんわ。注文したのは私ですし」
と言ってリサは指紋認証でスマホを作動させ店の注文アプリを開いて見せつける。
「これぐらいはしませんと。私といればもっと美味しいものが食べられますわよ」
「それより、今回の依頼をどうやってこなすの」
唐突にアイリが話しかけた。
「せっかちな人は嫌われますわよ。食事はゆっくり優雅に食べるものですわ」
「のんびりして逃してしまっては元も子もないわ」
アイリとリサは互いに視線を向け火花を飛び散らせる。
「まあ、食後のティータイムがてら話しますわ」
ティーカップを手に取り口を湿らせてから話し始めた。
「取引が行われるのは、この近くのビルの中。ホテル区画にありますわ。吹き抜けに沿って部屋があって、北側に面した部屋を取っておりますわ」
「外からの監視は難しいな」
「どうしてですか?」
「カメラのレンズが反射して監視されていることがバレる。同じホテルの反対側、吹き抜け側から部屋の出入りを監視するしかないな」
「すでに人員は配置済み。後から入ってバックアップを頼みますわ。私の華麗な指揮ぶりをご堪能くださいませ」
「そうさせて貰うよ。高みの見物の方が気楽だ」
制圧する自信はあるが負傷する危険もある。
身体一つ使っての商売で怪我は出来るだけ避けたいダイナは自然と言う。
「じゃあ、いこうか」
「……はい」
食事と打ち合わせを終えて、ドライな対応で、さっさと現場に向かうダイナのつれない対応にリサは少し不機嫌な顔をしたものの、後に続いた。
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